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ありのまま[景時(遙か3)]
遙かなる時空の中で3の梶原景時夢。
ヒロインは普通の少女で望美の友達。





ちょっとだけ、ラッキーと思ったわ。

だって、そうでしょ?


神子ってだけで守られて

一人占め出来て


八葉ってだけで戦わなきゃいけなくて

従わなきゃいけなくて


ズルイじゃない。



だから景時さんから宝玉が離れた時、内心すごく嬉しかったのよ。

悪い事じゃないでしょ?


望美ばっかりなんて不公平だわ。


神子と八葉の絆なんて認めない。

だって──




寂しいじゃない。

私だけ蚊帳の外なんて……。



私には守れない。

いつも、見てるしか出来ない。


そんなの不公平じゃない。

神子ってだけで望美が危険な目に合うなんて……。



私は認めない。

私は惑わされない。


神子とか八葉とか源氏とか平家とか。

そんなもの関係ない。



私は、誰でもない私自身として

誰でもないあなた自身を見るわ。













「だ〜か〜ら〜、今すぐやめなさいって言ってるの!」

「出来ないよ、そんな事っ。」


天気の良い晴れた日に梶原邸に響く二つの声。


「もう戦は終わったのよ!?」

「でも、怨霊がまだ残ってて……。」


勝気そうな少女に詰め寄られる長い髪の少女、声の主はこの二人だ。

一人は龍神の神子と呼ばれ先の戦にて活躍した少女で名は望美。

もう一人はその神子の友達で普通の少女で名はライラ。

この二人の言い争いは神子を守る八葉であった仲間からの要請の言葉から始まった。

望美達は先の戦いで平家の怨霊と荼吉尼天を倒し京を平和へと導いた。

ライラはたまたま望美と一緒にいた為に時空跳躍に巻き込まれた少女だ。

望美達は白龍が成長してから何度もライラだけ帰すように言ったのだが、ライラはそれを頑なに拒否した。


『友達が危ない目に合っているのに自分だけ安全な場所に帰れる筈がない。』


そう半ば叫ぶように言われ、もう少しだけ……とズルズルと先延ばしにした結果。

ライラは最後の戦いまで一緒にいた。


そして


仲間だと思っていた者が敵だとわかった時──


信頼していた者から裏切られた時──


誰よりも近くで、誰よりも優しく、望美を支え


一人、最後まで誰も疑わずに信じ続けた。



そう、平家の怨霊である清盛も……荼吉尼天でさえも。

結果、清盛は自ら望美に封印を頼み

荼吉尼天は頼朝を愛した心を抱きながら封印された。



それは誰もがライラを一緒に戦った仲間だと認めた瞬間でもあった。



そのライラが今は1番の親友である望美に詰め寄っている。

理由は先に述べた通り戦いの要請があったからだ。


「だから何で望美が行かなきゃいけないのよ!」

「それは神子である望美しか封印が出来ないからであってだな。」


ライラに詰め寄られれば、さすがの九郎もたじたじである。


「そんなこと関係ないわよ!
封印だったらそこにいる陰陽師にでもさせなさい!」


ライラが指差すのは地の白虎であった景時。


「オ、オレ〜? 無理だよ、ライラちゃん。って痛っ。」


苦笑しながら手を振ってみせると、バシッと小気味良い音を出して手を叩かれた。


「ちょっとは努力なさいな!」

「う……。」

「ライラ、景時さんを責めても仕方ないよ。
今回だけだから、ね。」


縮こまった景時をフォローするように望美が言う。

お願いするような望美の態度にライラは怒りを鎮め、仕方ないなと息を吐いた。


「……わかったわよ。今回だけよ?」

「うん!」

「望美は本当にお人好しなんだから。
あ、ただし私もついて行くし……九郎さん! ちゃんと望美にお礼すんのよ!」

「わ、わかっている。」


条件を出し九郎に二つ返事をさせているライラを見ながら望美はくすくすと笑う。


「望美ちゃんは良い友達を持ったね。」

「はい!」


そんな望美を見た景時が小さくそう言えば望美は満面の笑みで頷いた。



それから数時間後、無事に怨霊を封印し終わったライラ達は市に来ていた。

先ほどライラが九郎に出した条件である望美へのお礼の為である。

望美は言葉だけで十分と遠慮したが、ライラの黒い笑顔に押された九郎の強い要望に負けて今に至る。

遠慮はしていたが望美も久々の買い物を楽しんでいる様子だ。


「あ! ね、これ可愛いね。」


望美が指差したのは様々な色や形の簪(かんざし)。


「わ、ホントだ!
へー、色々あるんだね。」


目移りするような簪の中から一つ、目についた簪を手に取ると望美の髪にあててみる。


「ん、やっぱり望美にはこの色だね。」

「あら、本当ね。望美に似合ってるわ。」


笑顔のライラに朔が同意する。


「そ、そうかな…? ありがとう。
ライラは相変わらずセンスが良いね。」


照れながら言う望美にライラが満足げにしながら、『気に入った?』と聞けば肯定が返ってきた。

するとライラは簪を九郎へと差し出し。


「お代、よろしく!」


笑顔で言った。


「え、ライラ!?」

「構わん。礼はすると言ったからな。」


驚く望美に反し九郎は予想していたとばかりに小さく笑い、ライラを見やる。


「お前の分は良いのか?」

「お、九郎さん太っ腹!
でも、私は良いよ。髪が短い私には似合わないだろうし。」

「そんな事ないよ!」


九郎の問いに頭を掻きながら答えたライラの言葉に望美がすぐさま反応した。


「あは、ありがと。
でも、気に入ったのもなかったし……今回は良いや。」

「そうか、わかった。」


頷き望美の簪を買う九郎を見ながら望美は『似合うと思うのに残念』と呟いた。




買い物から梶原邸へ帰るとライラは景時に呼び出された。


「は? 望美じゃなくて私?」

「ええ、庭で待ってるから行ってあげてくれるかしら?」

「まぁ、良いけど。」

「良かったわ。」

「ライラ、行ってらっしゃい!」


不可解そうにしながらもライラが了承すれば朔とそれを聞いた望美は上機嫌でライラを見送った。



庭へ行くと落ち着かない様子の景時が見えた。

景時はライラを見つけるとパッと笑顔を浮かべて近寄ってくる。

ライラは『まるで犬みたいだ』と思ったが口には出さないでおいた。


「どうしたんですか、景時さん。」

「うん、ちょっと。
ライラちゃん、手をこう…出してくれる?」

「…? こう、ですか?」

「うん。…はい。」


不思議そうにしながら手の平を上にして出した手に乗せられた簪。

それは先ほど望美達と一緒に見ていた髪飾り。


「これ……。」

「ライラちゃんが欲しそうにしてると思ったから買って来たんだ。
良かったら貰ってくれるかな?」


驚きに目を瞬かせるライラは聞こえた言葉に俯いた。


「ホント…お人好し……。」

「き、気に入らなかった?」


呟きに不安そうにする景時にライラは瞳を細める。


「ホントにお調子者で臆病で、妹の朔に頭が上がらない弱虫で。」

「うぅ…ライラちゃん…酷い……。」

「そして、自分より人を優先して自分を大切にしない誰より他人に優しい人。」


ライラは瞳を細めたまま、ふっと柔らかい微笑みを浮かべる。


「あの時、景時さん欲しいものあったでしょ?」

「え…?」


ライラが景時の顔の前で手を開くと微かな香の薫りがした。

ライラの手の中には小さな香袋。


「これ……。」

「景時さん、欲しそうにしてたでしょ?」


疑問系だが確信を持った言い方。


「私も、見てたから知ってます。
あなたが思ってるよりずっと私は景時さんを想ってるんですよ?」

「ライラちゃん……これオレが貰って良いの、かな?」

「もちろんです。
簪、ありがとうございます。」


嬉しそうに大事に簪を胸に抱くライラを景時は愛しい人を見る眼差しで見つめた。


「オレの方こそ、ありがとう。
……好きだよ、ライラちゃん。」


そっと、大切に大切に抱きしめる。


「…………。バカ……。」


ライラは景時の腕の中で顔を赤らめながら、その身を預けた。


「バカは酷いな〜。
……ねえ、ライラちゃんの返事が聞きたいな。」

「言わなくてもわかるでしょっ。」


照れるライラの身を少し離して、その瞳を見つめた。


「ライラちゃんの言葉が聞きたいんだ。」


いつになく真剣な眼差しにライラの頬は更に赤くなる。


「…き……。」

「え?」

「好き、何でこんなに惚れちゃったのかわからないくらい……好き、よ。」


頬を紅く染めながら言うその姿がとても可愛くて景時は再びライラを抱きしめる。


「でも、私で良いの?
神子である望美の方が……。」

「違うよ、ライラちゃん。」


不安げに聞くライラの口に人差し指をあて優しい声色で景時が答える。


「“君で良い”んじゃない、“君が良い”んだよ。
世界でたった一人、ライラちゃんじゃなきダメなんだ。」

「景時さん……。」


景時の言葉にライラは柔らかい微笑みを浮かべた。


「私も、八葉とかそんなの関係なく……ありのままのあなたが好き。」

「うん、ありがとう。
好きだよ、ライラちゃん。愛してる。」

「…私も……愛して、ます。」


二人はお互いの気持ちを確かめ合うように囁き、そしてゆっくりと口付けを交わした。




その日から飾り気のなかったライラの髪を常に綺麗な簪が飾るようになり


その隣には簪を贈った景時が時間の許す限り傍にいるようになった。




格好悪いオレも──

情けないオレも──


ありのままを愛してくれた愛しい君。


ずっと傍にいさせてほしい。


君がくれた温かい愛しい気持ちを少しでも君に返せるように。


いつも、いつまでも愛しい君の傍にいたいから。


時空さえ越えて出逢えた君に、今はただ囁こう。




──愛してるよ、世界でただ一人、君だけを──。




初出2008.8.12.
再掲載2020.10.22.

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