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ずっとずっと[譲(遙か3)]
遙かなる時空の中で3、有川譲の夢。白龍の神子(望美)設定のヒロイン。告白までのSSS。




ずっと小さな頃からあなたが好きでした。

俺が抱くこの想いをあなたは知らないのでしょう。

あなたにとって俺は、小さな頃から一緒にいた幼なじみの弟くんだから。

年下である事がコンプレックスで
俺より先輩の近くにいれる兄さんに醜く嫉妬して。

この世界にきて、ライバルが増えて、また嫉妬した。

そんな醜くさをあなたに知られたくなくて
俺はあなたと距離を置く。

なのに、いとも簡単にその距離は縮められて苦しい筈なのに嬉しくて。

またこの想いに縛られる。


「おはよう、譲くん。」

「おはようございます、レイン先輩。珍しいですね。」

ライラが朝、厨(くりや)に来る事はあまりない。
いつも譲が起こしに行くまで寝ているからだ。

「ん。実はね、譲くんにお願いがあるの。」

『お願い』
この言葉に譲は弱い。
単純にライラの願いを叶えたいのもあるが、やはり頼られるのが嬉しいからだ。

「お願いって何ですか?」

内容がどうであれライラのお願いを拒否する事はないが、とりあえず内容を聞かなければ叶えようがない。

「うん。あのね…お弁当を作ってほしいの。」

「お弁当、ですか? いつも作ってるじゃないですか。」

今では料理は譲の担当だ。お昼用にいつもお弁当は持参している。

何故わざわざ?

疑問に思いながらライラの言葉を待つ。

「ん、いつものように皆の分じゃなくてね。二人分別に作ってほしいの。」

ほんの少しライラの頬が赤く染まる。

それが何を意味するか。

譲には嫌でもわかってしまう。

誰かと一緒に食べるつもりだろう。

だが、それがわかってもどうしようもない。

譲にはそれを止める権利もなければ、それを拒否する勇気もないから。

「……わかりました。二人分別に作って持って行きますね。」

パッとライラの顔が笑顔に変わる。

「ありがとう! 譲くん。
じゃあ、私仕度してくるね。」

そう言うと、ライラはぱたぱたと慌ただしく厨を出ていく。

その姿を見送りながら、譲は溜め息をついた。

「俺は、いつまでこんな事を繰り返すつもりなんだろうな…。」

ハッキリ告白して今の幼なじみという立場すらなくすのが怖いから。

ずっとこのままではいられないと分かっていながら、延ばし続ける執行猶予。

今日、ライラと共にお昼をとる人物を見ても、恐らく諦めはつかないのだろう。

ずっと将臣とライラ、二人の背中を見つめてきた譲だから。

叶わないと思いながらも、この想いに縛られる。

「仕方ない、よな。」

いつものように諦め、二人人分別にお弁当を作った。
このお弁当を渡す苦しさに耐えながら。




「じゃあ、この辺でお昼にしましょうか。」

戦闘の合間、安全な場所に到着してから朔が言った。

ドキリと譲の鼓動が早くなる。
胸が、苦しくなる。

それでも譲は笑顔を作りライラにお弁当を渡す。

「レイン先輩。お弁当です。朝言ってたように二人分別にしときましたから。」

「ありがとう、譲くん。あ、あのね…。」

言いにくそうに俯き、ライラの頬が染まる。

嫉妬でおかしくなりそうになりながらも、譲は平静を装う。

「わかってますよ。皆は俺が誤魔化しておきますから。」

笑顔で言った筈なのに…ライラの顔が強張っていく。

「先輩?」

「ライラ、譲殿。」

気まずい雰囲気の二人に朔が声をかけてきた。

「皆の事は私に任せて。大丈夫よ、ライラ。頑張って!」

朔の言葉にライラは「うん。」と頷くと顔を上げた。

「譲くん!」

「は、はい!?」

勢いよく譲の腕を引っ張り皆の所から離れて行った。

その姿を見送りながら。


「ライラ、それに譲殿、頑張って!」

朔は心からの声援を送った。




皆の姿が見えなくなる所まで移動してからライラは足を止めた。

「レイン先輩、一体どうしたんですか?」

譲は普通の疑問を投げ掛けた。

筈だったが、ライラは譲を睨んだ。

「譲くんの鈍感!」

「なっ!?」

いつもなら絶対にないのに、混乱と何より限界に近い嫉妬心が譲の導火線に火をつけた。

「鈍感はどっちですか!?
俺がどんな想いでいるかも知らないで!!
先輩が誰かに笑いかける度苦しくて、胸が張り裂けそうで、離れようとしてもあなたはそれすらも許してくれない!
それが苦しいのに嬉しくてまたこの想いに縛られて、俺がどんな想いで…っ!」

一息で一気に言って、冷静になった。
が、放った言葉は消える筈もなく。

「あ、ち、違うんです!
こんな事が言いたかった訳じゃなくて、えぇと」

あたふたするしながらも冷静になろうとする譲。
譲らしい姿が、とても可愛くて自然とライラは笑顔になる。

「レイン先輩?」

「だから鈍感って言ったんじゃない。」

とても優しい声でライラは言葉を紡ぐ。

「知ってるよ。譲くんの想いも苦しみも。私もこの世界で譲くんを、譲くんだけを見てきたから。」

ふわりと優しい腕が譲の背中にまわされる。

「せ…んぱい…?」

「ごめんね。苦しませて。でも、どうしても譲くんの本音を聞きたかったから。」

「え?」

「作戦だったんだ、朔と一緒に考えた。本当は最初から譲くんと二人でお弁当を食べるつもりだったの。」

「は…?
あっ、なっ、えぇと。」


うろたえる譲にライラは笑みを深める。

「例え誰と食べるととられても譲くんの本音が聞けると思ったから。
ずっと気付かなかった私もだけど、本音を隠してた譲くんも悪いんだよ?」

だから、ね。とライラは舌を出す。

世界一素敵な悪戯に譲は降参した。

「ずっと小さな頃からレイン先輩が好きでした。
兄さんに嫉妬して狂いそうになるほど。」

ずっと隠してきた想いを口にする。
途端、ライラは悲しそうに俯く。

「レイン先輩…?」

その表情に不安になる。
やはり迷惑だったのか?

「過去形なの?」

「!!」

その言葉にハッとする。
叶うはずがないと、いつの間にか諦めていた。

だけど、今愛しい人の悲しそうな瞳に映っているのは紛れもなく自分。

その心にいるのは誰でもなく自分、有川譲だ。

その瞳を真っ直ぐ見つめ、もう一度ライラに囁く。

「小さな頃からずっとあなたが好きでした。
そして今は愛しています、ライラ先輩。」

愛しい人の瞳が笑顔に変わる。

ずっと、ずっと抱いてきた想い。
それはきっと少しずつ形を変えながらも決して消える事はない。

これからは一番近くにあなたがいる。



2005.10.29.初出
2017.08.23.再掲載

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