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例えばこんな物語[若菜(Zippy)]
特殊ヒロイン。





自分で言うのも何だけど

俺は普通と呼ぶには特殊すぎる、所謂(いわゆる)変わった人種の部類に入る。

だから多分、普通よりは色んな経験をしたと思う。

霊感があったり
召喚術が使えたり
神様に会ったり
魔王と戦ったり。


それでも驚く事っていうのは意外とあるもんなんだな。

例えば、こんな風に――。





いつもの如く退魔の仕事を行う阿佐ヶ谷Zippyのメンバー。

「若菜、早くしろ。一樹のヘボ結界が崩れる。」

「ヘボって言うな!」

「わかってるって、もうちょい。」

多すぎる霊を一気に退治すべく結界にまとめた遼と一樹。

後は若菜の召喚で除霊して終わり。

のハズだったのだが。


「ほい、召喚〜。」

若菜の召喚術で現れたのは

「……へ?」

思わず目を見開くほど意外なもの。

「……………。」

艶のあるダークパープルの髪に白い肌。

少しつり目がちで左右の色の違う瞳。

筋肉質ながらも丸みを帯びた曲線に胸元は形良く膨らんでいる。

若菜の召喚術で現れたのは目が眩む程に美しい女性だった。

「すっげぇ綺麗…。」

それを見て感慨の声をあげる一樹に

「誰が好みの女を召喚しろと言った?」

不機嫌度が最高潮に達しそうな遼。

「おっかしいな……というか、何でただの女性が?」

頭をかく若菜を見て女性が溜め息を吐く。

「ただの女が召喚で現れるか。」

「「へ…?」」

綺麗なその外見とは裏腹な口調に若菜と一樹は間抜けな声を出した。

「あ? じゃあ、何なんだよ?」

不機嫌そうに遼が問えば

「自分で考えろ、面倒くさい。」

違和感ありまくりな口調で答える女性。

「何だと…?」

「人に聞く前に自分で考えたらどうだ?」

遼が睨んでも全く動じないどころか笑みさえ浮かべている。

「すっげ、トオル相手に…。」

そんな光景に一人、感心する一樹。

「…………。」

当然、遼は不機嫌度MAXになりかけるが。

「言っておくが僕は君より年上だぞ、敬え。」

「それを早く言え。」

女性の一言を聞いた途端に遼の態度が一変する。

「トオル…わかりやすすぎ。」

そんな遼に若菜は頭を抱えた。

「はは……。
ところでおねーさんって何者?」

「何だ、本当にわかってないのか?」

苦笑しながら問う一樹の言葉に女性は瞳を瞬かせる。

「残念ながらな。」

機嫌がなおったトオルはタバコをふかしている。

「悪いもんじゃないよな、何となくだけど。」

「それは外れてないがな。
召喚師、あれは悪いもんだぞ?」

考える若菜に答えながら女性が指差すのは今にも敗れそうな結界。

「うわっ、忘れてた!」

「ど、どーすんだよ、若菜!?」

慌てる二人にタバコをふかしていた遼が口を開く。

「若菜を召喚師と呼んだんだ、君が何とか出来るんだろう?」

遼の確信をもった言い方に女性は上出来とばかりに口端を上げる。

「召喚師、願いは何だ?」
「へ!? あ、あれを一掃する事!」

「了解。」

驚きながら若菜が答えると女性は頷き、真言を唱えだす。


「闇に昇れ――あるべき場所へ還れ。」

少女の瞳が紅く光り、一陣の風が吹く。

「すっげ、烏っちゃんの時みたいだ。」

あっという間に清浄になった一帯。

感心する一樹とは反対に二人の顔色は青くなる。

「……とんでもないものを召喚したな。」

遼は青ざめた顔でボソリと呟いた。





「僕の名はレインだ。」

あれから三人と女性は庵原探偵事務所まで戻り、自己紹介をしている。

「でさ、レインさんって何者?」

「確かこっちでは、ドラキュラ…とか呼ばれていたかな。」

思い出すように顎に手をあてながら、さらりと言うレイン。

「ドラキュラ!? 若菜、ドラキュラなんて召喚出来たのか!?」

「さすがに無理だよ。」

驚愕する一樹に若菜は苦笑しながら答える。

「そこは召喚師にもわからぬだろうからな。
僕が説明しよう。」

レインの言葉に三人は耳を傾ける。

「まずドラキュラといっても今じゃ人間と大差はない。
現に僕は血を吸わなくとも生きられるし、ニンニクも十字架も教会も平気だ。」

「へー、そうなのか。」

「それでも魔力は莫大なわけだな。」

「それはやはり魔族だからな。」

遼の言葉に頷くレインに若菜が素朴な疑問を投げ掛ける。

「じゃあ、普通なら召喚なんてされないんじゃ?」

「それが、だ。我々はまだ太陽には弱くてな。
普段は平気なのだが夏は苦手なのだ。」

レインは言いながら、ふぅっと溜め息はく。

「私にとっては何より夏バテ注意! なんだよ。
毎年、気をつけてはいたが……今年はうっかり夏バテしてしまってな。」

そこまで聞いて三人は納得したように頷く。

「そのせいで召喚に引っ掛かってしまった、という訳か。」

「そういう訳……だ…。」

「っと、危ない!
大丈夫ですか?」

頷きながら、ふらついたレインを若菜が咄嗟に支える。

「召喚師、若菜と言ったか。」

「え、はい。あの?」

レインは自分を支えている若菜をじーっと見つめ、ニッと笑うと

「お前、気に入った。」

「…へ……っ!?!?」

いきなりキスをした。

「なっななな!?」

驚愕する若菜に満足そうなレイン。

「君は僕が嫌い?」

支えられた態勢のままレインは若菜に顔を近付けて問う。

間近に色っぽい端正な顔、密着した身体に柔らかい感触、さらりと艶のある髪が流れる。

「わーーーっ!」

若菜は焦ったようにレインをベリッと剥がす。

前屈みになる若菜にレインがにっこりと笑う。

「身体は正直だな。嫌われてないようで嬉しいぞ。」

(こ、小悪魔……。)

若菜はのその顔を見て、やはり見た目がどうあれドラキュラはドラキュラ、魔族なのだと痛感した。

「もう一度、問うぞ。
若菜、君は僕が嫌い?」

こうなってはレインの問いに答える言葉は1つだけ。

「俺の負け、好きや、レイン。」

「上出来。」

そして、改めて若菜はレインの唇に己の唇を重ねた。




俺は普通と呼ぶには特殊すぎる変わった人種の部類に入る。

だから普通よりは色んな経験をした。

それでも驚く事っていうのは意外とあるもんや。


例えば、こんな風に。


ドラキュラに恋しちゃったりな。

でも、こんな人生も悪くはない。


「好きだぞ、若菜。」


こんな可愛い恋人が出来たんだから。





2007.10.26.初出
2020.4.19.再掲載

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