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もう、戻れない。[設楽(旋律)]
無印ゲーム本編後の話。
陽菜設定で設楽夢。



静かな部屋に止まる事なく響く琴の音色。

その旋律は僕が犯した罪と罰。

本当はずっと前に気付いていたのかもしれない。

ただ気付かないふりをしていた。

太刀を失ってから気付いた、この気持ちに。

もう遅すぎる。

けど、太刀を失わなければ気付こうとはしなかった感情。

僕の瞳にはずっと、お前がいた。

太陽みたいなお前は僕には眩し過ぎるから。

手に入らないなら、と壊してしまおうとした。

それが九艘を殲滅させる僕の役目だと言い聞かせて。

水季様さえも裏切って。





僕が地下牢に幽閉されて何日経っただろうか。

もうそれさえもわからない。

結局僕のした事は全て無意味になった。

いや、ある意味では僕達が悪者になる事で九艘と一謡が和解出来たのかもしれない。

虚ろな思考の中でそんな風にも思う。

何度か片瀬が来たような気もするけど、僕の視界には何も映らない。

映したくもない。

窓のないこの部屋は僕にはちょうど良い。

空が見えたら、きっと嫌でも思い出す。

天泣の力を持つあいつの事を…。


不意にコツン、コツン、と。

また誰かの足音がする。

僕は視線を動かさない。

ただ、ひたすらに琴を奏でる。

…僕の罪と罰を謡うように…。


「……設楽くん…。」

名を呼ばれた瞬間、時が止まった、まさかと思った。

思わず顔を上げた僕の瞳に映ったのは紛れも無くあいつの顔。

僕が最も憎むべき相手。
僕が僕を裏切った原因ともいえる相手。

「設楽くん。」

もう一度、僕の名前を呼ぶ。

僕の瞳も思考もこいつが支配する。

「……………。」

僕はただ無言で睨んだ“去れ”という気持ちをこめて。

「…私の事、憎い…?」

ポツリと呟いた今にも泣きそうな程、悲しそうな笑顔。

何故、そんな顔で笑う?

「わかってる、憎くないはず…ない。
でも、こっちを見てくれて良かった…片瀬さんから何にも反応しないって聞いてたから。」

お前の口から片瀬の名を出た途端、僕の中に怒りが込み上げてくる。

「っ…何しに来た?」

思いきり怒気を含めて言ったはずなのにお前は何故か微笑む。

「会いに来たの、設楽くんに。」

「僕…は、僕はお前になんか会いたくない! 帰れ!! 帰れよ!!」

これ以上、気付かせないでくれ……この感情に!

「帰らないよ。設楽くんが私を見てくれたから。」

「っ!?」

「憎しみでも、どんな感情でも構わない。きっと無が1番辛いから。」

お前の声がひどく響く、静かな部屋に。

僕の心に。

「同情か? さすが九艘と一謡の頂点に立つ者だな、お優しい事だ。」

精一杯の嫌味。
僕は今、酷い顔をしてるんだろう。

「…そうなのかな…やっぱりこれって同情なの?」

「は?」

予想外の言葉に僕は不覚にも間抜けな声を出した。

「ずっとね、考えてたの。
設楽くんの事、どう思ってるのか自分でもわからなくて。」

瞳を伏せて話すお前の仕草ひとつひとつを僕は見つめる。

「可哀相だとは思わない。
でも、幽閉されて当然だとか、憎んだり……怖がってりしてる訳でもないと思う。」

「お前、馬鹿か? 僕はお前の命を狙ってたんだぞ?」

「うん、そうだね。
でも……これが愚かだとは思わない。」

「…っ。」

真っ直ぐな強い瞳に僕はまた惹かれる。

もう気付かないふりなど出来ないほど。

「この部屋には窓がないから知らないよね。
あのね…設楽くん。君が幽閉されてからずっと、天気、雨なんだよ。」

「………。」

天泣の力は空に心を映す力。

雨が降れば悲しみ。
僕が幽閉されてからずっと、悲しんでいたのか?

「ねぇ、設楽くん。私は設楽くんを救いたいとかそんな立派な理由でここに来た訳じゃない。」

お前が牢の柵に手をかけて呟く。
その表情は僕からは見えない。

「ただ設楽くんに会いたかった。
理由なんてわからない。ただ設楽くんに会えない毎日は雨が降ってた。」

僕は黙って琴の弦を弾いた。
静かな部屋に琴の音色が響きだす。

僕はお前にかける言葉を知らない。

だから、琴を弾く。

僕の思いをこめてお前に伝えるように。

お前は僕の罪をわかってて、それでも笑顔を僕に向けるんだろうな。

同情でも哀れみでもなく、ただ純粋な瞳を。

何故そんなにもお前は真っ直ぐでいられるんだ?

何故、そんなお前に僕は出会ってしまったのか。

出会いたくなかった……けど、不思議と出会わなければ良かったとは思わない。

「綺麗な音だね。でも、少し切ない音色…。」

矛盾した心に響く琴の音とお前の言葉。

ただ一つ僕の瞳に映るお前の姿。

「今日は、きっと晴れてるよ。
いつか一緒に空が見れるまで……私、ここに来るね。」

笑顔でそう言ったお前を見て
何故お前に天泣の力が宿ったのかわかった気がした。

「それじゃあ、今日は帰るね。」

「…っ。」

僕に背を向け去ろうとするお前の腕を無意識に掴んだ。

「設楽…くん?」

驚き目を見開くお前を見てハッとする。

「な、何でもない! 早く帰れよ!!」

焦って手を離し顔を背ける僕にくすっと笑った声がした。

「今度は設楽くんの事を教えてほしいな。またね。」

“またね”その言葉を僕に残して去っていく背中を見つめながら僕は再び琴を奏でる。


あいつは九艘からも一謡からも大切にされている存在。

ここに来るには明月や片瀬、愁一がうるさかったはずだ。


それでも僕に会いに来た。

同情や哀れみじゃなく、純粋に会いたいという気持ちで。

「あぁ…晴れると良いな……。」

空の見えないこの場所でポツリと呟いた。



もし、僕がいつかここから出る事が出来たなら。

お前の笑顔と青空を見る事が出来るだろうか?


僕はまた一つ罪を重ねる。

過ぎた願いだとしても
お前の隣を歩きたいと思う。

自分の想いに完全に気付いてしまったから。

気付かなかった頃には


――もう、戻れない……。


それでも良いと思う僕も馬鹿だな。

「……ライラ…。」

初めて口にしたお前の名は琴の音色にとけていく。

ライラ、お前の言うように僕もこの気持ちは愚かじゃないと思いたい。

もう、戻れない……あの頃の愚かだった僕に“さよなら”を言った。

今度はお前の前でライラと呼んでみようか。なんて考えながら。





2007.4.15.初出
2020.4.19.再掲載

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