パラレル世界"願い"[ギアス]
【パラレル世界"騎士"】の続き。
ロスカラ設定の女主人公。
私は二度、君を守りたいと願った。
一度目は今とは違う未来を歩んだあなたに対して。
ナナリーに優しい世界をあげたいと願った優しい黒のキング。
たった独りで修羅の道を行ったあなたに世界はあまりに残酷で……。
そんな世界にいたあなたを守りたいと思った。
そして、同時に君を守りたいと思った。
私と出会ったあなたと違う、未来を選べる君を守りたい。
二つの願いを抱いた時、私は君の元へ来た。
特殊な力が起こした奇跡を無駄にはしない。
少し背伸びをしたお兄ちゃんの顔。
幸せそうに笑う顔。
小さな足で気丈に立ち、真っ直ぐ前を見据える強く優しい紫の瞳。
私にとっては過去の“あの時のルルーシュ”も、目の前にいるまだ幼さを残すルルーシュも君は君なんだと感じたから。
私にとってはどちらも大事な愛しい存在に変わりはない。
だから、君を守りたいという願いは誓いへと。
跪く事はしないけど、必ず君を守ると誓うよ。
ルルーシュとライラが出会った事件から数年後。
マリアンヌ亡き後もルルーシュとナナリーはアリエス離宮にいる。
変わった事といえば、ルルーシュが皇子として政治の仕事をするようになった事。
そして、二人の傍に銀髪の彼女──ライラがいるという事だ。
今日も政が苦手な兄、クロヴィスに代わって書類の束を整理するルルーシュの隣にライラの姿がある。
ライラはあの時の言葉通りルルーシュの騎士として傍にいる。
ただし普通の騎士とは違い、対等な立場で横に立つ者として。
「そういえば……。」
不意にルルーシュが書類に走らせていたペンを止める。
「どうしたの、ルルーシュ?」
「いや、当たり前のように過ごしてきて今更な気もするんだが……あの事件の時、何故ライラはあそこにいたんだ?」
「ああ、あれね。あれは………偶然よ。」
至極当然の疑問を投げ掛けるルルーシュにライラはにっこりと笑って返した。
数年付き合ってきたルルーシュには、その笑顔が偽物だとわかる、が。
「……気が向いたら話してくれ。」
この笑顔のライラに自分が敵わない事も理解しているので、そう溜め息混じりに返すだけに終わる。
「それにしても、俺はナイトオブゼロがいるなんて知らなかったんだがな。」
不意に呟くようにルルーシュが言う。
頬杖をつく姿勢は完全に休憩モード。
やはり何年も付き合ってきたライラもこの状態のルルーシュが休憩なしには仕事に戻らない事を知っている。
ライラは仕方ないな、と苦笑して、ベルを鳴らすと現れた側近にお茶の用意をさせた。
「結局、ライラはどんな立場にいるんだ?」
用意された紅茶を飲みながら再度ライラへと疑問を投げ掛けるルルーシュ。
その隣にいるライラはゆっくりと口を開く。
「まあ、これは隠しても仕方ないかな。
簡単に言えばナイトオブラウンズを束ねる立場よ。」
あっさりと言うが、つまりは帝国最高騎士ナイトオブワンより上という事。
かなり凄い地位だ。
「ついでに皇帝に無条件で意見出来るし、継承権も得るとかもあったような気がするわね。」
興味なさげに思い出したように付け足すライラにルルーシュは頭を抱えた。
「……継承権何位か聞いても良いか?」
「ん? それは秘密よ。」
にこっと微笑むライラにルルーシュはやっぱり…と本日二度目の溜め息を吐いた。
継承権何位かは秘密──という事は決して低くないのだろう。
下手したら皇族である自分より上かもしれない。
というより、ライラといる時の皇帝の態度からして多分、誰もライラには敵わない。
するとふと疑問に思う事が一つ。
「ライラは何故、俺の騎士になったんだ?」
シュナイゼル辺りならまだわかる。
それでもライラの立場からして誰かを守る騎士になる必要はない。
対等とはいえ騎士は騎士、自分たちを守る為に盾になる事だってあるだろう。
だから疑問に思う。
何故、自分の騎士になったのか…と。
「今度こそあなたたちを……君を…守りたかったから。」
「え?」
悲しげに俯きながらポツリと呟かれた言葉。
「おい、ライラ。それはどういう…。」
「見てたのよ。ナナリーの側で小さな肩を震わせて……それでも気丈に立った君を。」
疑問を投げ掛けるルルーシュの言葉を遮ってライラは話す。
これも嘘じゃない、ライラはそう思う。
ライラがここに来たのは今とは違う道を進んだ“あの時のルルーシュ”を守りたいと思ったから。
だけど、小さなルルーシュを見た時──確かに今のルルーシュも守りたいと思ったのだ。
「だから騎士になった。君を守るために、ね。」
「……そ、そうか。」
柔らかく微笑み優しい瞳で見つめるライラの表情にルルーシュは頬を赤くして顔を逸らした。
ライラは時々、自分に対してこんな表情をする。
それは慈しむような、愛おしい恋人を見るような優しい優しい顔。
「ルルーシュ、照れてるの?」
「う、うるさい!」
それでなくても整った顔立ちのライラにこんな表情をされたら誰でも自分のようになるとルルーシュは思う。
「はいはい。全く君は変わらないね。」
隠すように手で顔を覆うルルーシュにライラが小さく笑う。
(あぁ…また、だ……。)
ルルーシュは気付かれないように横目でライラを見た。
彼女が『君は変わらない』と言う度にルルーシュは複雑な気持ちになる。
その言葉に何故か寂しさも混じってる気がして。
ここではないどこかを見ている気がして。
普通に考えれば小さな頃から変わらないという意味になるのに。
ライラの言葉はそれだけではない気がして仕方なかった。
確かに自分を見てるのに違うルルーシュを見てる気分になる。
(自分が自分に嫉妬か?
馬鹿馬鹿しい)
ルルーシュは眉を寄せながら、ふっと鼻で笑う。
(大体、俺は俺だ。変わりようが…。)
そこまで考えてはたと気付く。
そして、ゆっくりライラの方を向いた。
ライラはのんびりと紅茶を飲みながら菓子をつまんでいる、実に平和だ。
そんなライラの間近に迫りながらルルーシュは口を開く。
「なあ、ライラ。
いつになったら俺を見るんだ?」
急な問いだが、ライラには慣れっこなようで一つ溜め息を吐いて、紅茶の入ったカップを受け皿に置く。
「見てるでしょ。ほら、今もちゃんと…。」
「そういう意味じゃない!
いつになったら俺からの告白受けてくれるんだ?」
「それはもう少し大人になったらね。」
やれやれといった様子で肩を竦めるライラにルルーシュはカッとする。
その余裕が堪らなく悔しい。
「俺は十分大人になった!」
ライラの肩を押せば、ボスンとソファーが沈み簡単にライラを押し倒す形になる。
やはりライラは動じた様子も見せず、目を細めるだけだ。
「ルルーシュ、大人はこんな事しないよ?」
「くっ…。」
その台詞にルルーシュは葛藤する。
このまま襲ったとしても恐らくライラは抵抗しないだろう。
だが、ルルーシュがほしいのはライラの“心”。
自分が大事にされている自覚はあるが、無理矢理襲えば自分が欲しい想いは一生手に入らない気がする。
仕方なくルルーシュはライラの上から退いた。
ライラはゆっくりその身体を起こしながら、悔しそうな寂しそうな表情をしているルルーシュを見て苦笑する。
持ち前のポーカーフェイスで誤魔化しているが、ルルーシュに押し倒される度にライラの鼓動は跳ねていた。
(私も気持ちは同じだけど……ルルーシュはまだ幼いから。)
本当はルルーシュに好きだと伝えたい。
でも、まだ幼いルルーシュの選択肢を狭まらせる事をしたくないのだ。
それでなくとも自分は異端な存在、出来ればルルーシュには平穏な幸せを手にしてほしい。
だから、この先──たくさんの人と出会って
愛の意味や苦楽を知って
それでもライラが1番好きだと
自分を愛していると言ってくれた時に、その想いに答えよう。
そう、ライラは決めていた。
(だから、もう少し……君を子供扱いさせてね。)
ライラは優しくルルーシュの頭を撫でた。
まだ君と私の間に少しだけ距離を空けて──
君が広い世界で誰よりも幸せな恋を見つける事を願う。
──広い世界で私だけを選んでくれれば良い──。
そんな祈りにも似た願いを心の奥底で眠らせて。
ライラは今日も同じ目線でルルーシュの傍にいる。
孤独だったルルーシュの幸せだけを一途に願いながら──。
2008.7.7.初出
2020.04.07.再掲載 戻る
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