なぎさの恋
それは世界がまだ天界と地界の二つしか存在しなかった時のお話。
天界には天使や聖霊、地界には悪魔や死神、それぞれがそれぞれに独自の文化と価値観で過ごしていた頃。
唯一、二つの世界が交わる場所があった。
そこには小さな湖があり、小動物やモンスターなど様々な生物が好きなように過ごす場所である。
その小さな湖を眺める一つの影…それは儚くも美しく立っていた。
少年と青年の間にいるようなまだ発展途上の危うさと開花前の花のような妖艶さが漂うその影の名は凪沙(なぎさ)。
地界に住む彼はこの場所が大好きだった。
水面に映る自分を見詰めて凪沙は思う。
(どうして僕は地界に生まれたのだろうか…。)
自分の背にあるは黒き羽。
課せられし使命は命の終わりを告げる事。
死神と呼ばれるにはあまりに彼の心は優しい。
自然にその心は天界の白き翼に憧れをもつようになった。
だが、それは禁忌の心。
誰にも話せず誰にも理解されず、凪沙は孤独でいた。
不意にそんな凪沙に転機が訪れる。
――それは突然の出逢い――
「君、よくここにいるよね?」
突然かけられた声に驚き、咄嗟に身構える。
「あ、ごめんね。驚かせちゃったかな。」
かけられた声はとても涼やかで、高くも低くもない中性的な声色が耳に優しく響く。
「ここで君をよく見掛けるから気になってたんだ。」
(あ……。)
その姿が目に入った瞬間、眩しさに瞳を細める。
そう、その背には凪沙とは対照的なの白き翼があった。
だが、白き翼の者が何故? と凪沙は首を傾げる。
それを汲んだのか白き翼の少女…だろうか、は綺麗に微笑んだ。
「僕、地界の者達とも仲良くなりたかったんだ!」
この一言が凪沙の転機となる事を二人はまだ知らない。
変わっている、という印象が第一印象になったのではないだろうか。
あまり表情を変える事のない凪沙がキョトンとしている。
だが、当の少女はそんな凪沙を見て嬉しそうに笑った。
「君のそんな顔って貴重そう。」
変わっている、今度こそ本当にそう印象づけられた。
だが、変わっているのは凪沙も負けてはいない。
「……僕も…。」
「え…?」
「僕も天界の者に興味があったんだ。
特に…白き翼には…。」
ふわりと凪沙が微笑む。
生まれて初めてではないだろうか、というほどに笑ったのは久々だった。
「そっかぁ。ありがとう! 興味をもってくれて嬉しい。」
「うん。」
二人は笑いあって、すぐに仲良くなった。
約束するでもなく毎日会うようになり、いつしか種族の壁などなくなっていた。
だが、それを天界の長と呼ばれる存在が許すはずもなく、天界の長はこう命令した。
『あの湖へ行く事を禁じる!』
その日から凪沙と少女が会う事はなくなり、その事実は次第に凪沙の心に闇を作っていった。
そして、しばらく経ったとき凪沙は地界で長の次に力の強いものとして名を馳せていた。
それは凪沙にとって不本意ながらに有利に働くものとなる。
そう、天界と地界の長が力を合わせて創った世界……後に人間界と呼ばれる世界。
その世界へと行ってしまった白き翼の少女。
少女を追って凪沙もその世界へと旅立つ事となる。
この物語はそんな二人のお話。
END.
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