93゚ (10) 「ただいまー…」 裏門から幸慈と一緒に入り、その後ろからは業者さんがいっぱい。…色々買ってくれたもんな。 業者さん…手伝えなくてごめんなさい。手を貸そうとすると邪魔されるんです。このヤクザ様に。 挨拶をしても蓮さんからの応答はない。あれ?いないのかな? 「部屋に行ってみよう」 そう呟き、蓮さんの部屋に足を運ぶ。…が進めない。手首がなにかに引っ張られてる。 幸慈だった。腕を掴んで離さない。 結構な力加減で、手首がキリキリ痛む。それに気付いたのか、少しだけ緩んだ。 「こーじ?」 「あー…やめとけ。 今はたぶん寝てるから」 あ、そっか。いつも教会で働いてるもんね。そりゃ疲れるよね。 じゃあ…部屋の近く行かない方がいいかな?家具置くのにドタバタするし…。 「こーじ…外行こ? 聴かせたいものあるんだ」 俺がそう言うと、優しい笑みを浮かべ頷いてくれた。…、なにこれ…すっごい照れる。 自分でも身体が熱くなってるのわかってた。顔を隠して裏門に出る。 「あ、そこら辺に置いておけ。後はやる」 幸慈が業者さんに感情の込もってない声で命令する。同情してあげたくなった。 ここまでご苦労様でした…。怖かったですよね。俺も怖いです。 蓮さんに拾われた階段に座ると、幸慈も隣にドカッと座った。威圧感がある。 「下手だけど… 」 いつもの調子で歌を歌う。頭に浮かんでくるメロディ。俺もわからないけど、歌おうとすると出てくるんだ。 暫くすると周りには人ざかりがあり、空には小鳥が。 なんとなくだけど、猫やいぬ・虫なども聴いてくれてる…そんな気がした。 [←][→] [戻る] |