93゚ (10) -Side志紅- 詩遠の姿が見えない。寮にも学校にもどこにも。サボるなんてこと、詩遠は学校に通うのを楽しみにしていたのだから、有り得ないのに。 「まさか、また……?」 "誘拐"の2文字が浮かんだ。やだ、あんな詩遠、もう見たくないよ。あんな悲しそうな詩遠の顔。 相手の血で真っ赤になった詩遠の身体。真っ赤な目。流れる涙。あんな詩遠見たくないよ… 「詩遠を探そうっ」 何日かしてやっと掴んだ。羽山 真矢。誘拐した犯人。 接点なんてなかったはずなのに…詩遠の親衛隊ではなかった。羽山 真矢はきっと狂ってる。 詩遠に被害が及んでないことをひたすら祈った。…しかし、羽山の部屋に行けば泣きまね。 周りからは俺らがいじめているように見えるのだろうか…もしかしたら会長をリコールされるかもしれない。でも… 「詩遠は大切な…大切な友達なんだよ」 1人で呟いた。風に乗って詩遠に届けばいいのに… とりあえず、1人ではなにもできない。遙さんに連絡っ、久しぶりだなあと不謹慎にもドキドキした。 「遙さん…?」 「はい、お久しぶりです」 久しぶりの遙さんの声…不安が一気に押し寄せて、涙が溢れ出てきた。助けて…助けて遙さん。 事情を聞いた遙さんは、その日に幸慈さんと一緒に学校にきた。すぐにでもってなり、生徒会役員を集めて羽山の部屋に行った。 [←][→] [戻る] |