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TRANSACTION【BL】
悪夢5


「…まあ、お前の言い分も
間違っちゃいねぇが…」

「殺されたんだ!
絶対、敵をとってやる…!」

「待て小僧」


男は怒りを宿した俺の目を
真正面から見ると、ふっと笑った。

その気の抜けるような笑顔に、
一瞬こいつがヤクザだということを
忘れそうになる。

そして男が手を上げた時、
俺はまた昨日みたいに殴られるんじゃ
ないかと無意識に体を竦めたが、
それは杞憂に終わった。


「お前、まだガキじゃねぇか」


昨日、最後に感じたあの温もりと
同じそれが、頭にあった。

ぽふぽふと優しく叩いた後、
ぐりぐりと撫でまわされた。

何故か振り払うことができなくて、
俺はされるがままになり、
視線をあぐらをかいた男の足にやった。


「何歳だ?」

「…15」

「高校生か?」

「中三」

「ぷっ、だはははは!!!
言っちゃわりぃが、中学三年生のお前に
何が出来るってんだ?」

「もうすぐ高校生だっ…」


何故か恥ずかしくなって、
俺はチラリと男の顔を見た。

すると男は笑うことをやめ、
手を俺の頭からはなした。

真剣な眼差しで見つめてくる男に、
俺も真剣に向き合った。


「この業界には復讐心で入ってきたヤツ
なんて五万といる。
だがな、皆復讐なんかする前に
足洗っちまうんだ。
何でかわかるか」

「…さぁ、」

「復讐なんて、過去にすがる奴が
するもんだって。
他人のために刑務所になんか
入ってたまるかって、後々皆
そうやって笑いながら生活していくんだ」

「そんなのーーーーー」

「本気じゃねぇって?
殺された奴らが報われねぇって?
けどな、殺された奴らだって自分のために
人殺しなんざしてほしくはねぇだろうよ。
…わかったか?
じゃあ神島組には言っといたから
あの家にかえーーー」

「…に、そ………せろ」

「あ?」

「俺に、そう思わせろ!」

俺は布団を剥いで立ち上がった。

復讐をやめる?
そんなの今の俺には出来っこない。

男の言う通り、ガキだから。

この業界の人がそう言ってんだったら、
こいつらがそう思わせてくれんだろ…?

だったら、


「俺を、この組にいれてください」


やったことねぇけど、
精一杯の土下座。

布団に頭擦り付けて、これ以上ねぇっていう
全身全霊のお願い。

どうせ身よりもない。

このままここから出たら施設行きだ。

あんな厳しくて要塞みたいな場所、
死んでもごめんだ。


沈黙が長く続いた。

俺の緊張が部屋を満たしてるみたいで、
酷く重苦しく感じた。

自分の心臓の音が厭にデカく聞こえて
男に聞こえているんじゃないかと思った。

刹那、部屋の襖の向こうから声が聞こえた。


「若頭、飯ですよーって、あれ?
おう小僧おはよう!
お前の分の飯もあるぞー」

「え…」


俺は驚いて顔を上げた。

‘てめぇ!今日は飯一人分多く
っつったろうが!!あぁ!?’

朝、聞いたこの言葉…

もしかして、俺の飯?


「若頭が昨晩帰ってそうそう
‘明日は飯一人分多く作れ’って
言ってくれたんだぜ!
小僧も幸せもんだよなー」

「おい、佐久間…」

「へいっ、なんでしょう?」

「てめぇいっぺん死んでこいや!!!」

「えぇっ!?
す、すみませんしたぁ!
では、あの、お待ちしておりますんで!」


嵐のように佐久間と呼ばれた男が
去った後、男は立ち上がって
俺を見た。


「浴衣がはだけてる。
ったく、てめぇは寝相がわりぃな」

「あ、の…」

「あぁ?」

「飯って…」

「…チッ、あいつ余計なことを…。
朝飯食い行くぞ。まず組員を紹介する。
今日は色んな話をしなくちゃならねぇ」

「ってことは…、」

「旭組によく来たな。
俺は旭組の若頭、旭龍眞(アサヒタツマ)だ。
お前は?」

「あ…俺、五十嵐燐(イガラシリン)って
言います…。お世話になります」

「ふっ、さっきまでやけに偉そう
だった癖に今更敬語か。
固っ苦しいから辞めろ」

「でもさっきの人はーーー」

「いいから!俺がやめろっつったんだ。
や め ろ」

「…わ、かった」






母さん。父さん。
俺、母さんと父さんの敵打ちを
したくならないように、旭組に
はいりました。

今までも波乱な人生だったけど、
多分これからもっと慌ただしくて、
危険な毎日が送れることでしょう。


俺が、真っ当な人間になるまで
見守っていてください。




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