摂津の野良神サマ!
野良神・摂津のきり丸
「あばばばばばばばば……」
どうしたものか。
野良の猫たちを逃がす為、石を投げつけて自分に引き付けたところまでは良かった。
一匹だけなら逃げ切れると考えたのだが、妙な仮面をつけた野犬は、群れを呼んできてしまったのだ。
退路(街へ続く石造りの階段)を塞がれ逃げおおせた先は木の上。16歳にもなって木登りするハメになるとは思わなかった。
ひなたは木の下で唸りをあげる野犬(狼?)たちを見下ろす。
いつか諦めて帰るかと思っていたのに、なかなかしつこい。足場の悪い枝の上にかれこれ30分。そろそろ足も枝も限界だ
(………ん?)
つかまっていた幹を撫でると、何か彫られたような傷を見つけた。見ると、
“摂津のきり丸”
春夏冬中!
Tel090−####−####
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そう刻まれていた。
(きり丸…?変わった名前…)
しかも、電話番号つき。イタズラ書きするにもなぜこんなところに?
普通なら相手にもしないだろう。それでも、
(―――――あれ!?あたしなんで……)
ひなたは気付けば電話をかけていた。
(プルルル…)
つながらない。やはり誰かがでたらめに記したものなのか。そう思って電話を切ろうとした時、なにか白いもの
が視界のすみに過ぎった。
「……シロ!!!」
先程逃がしたはずの、野良の一匹だった。
シロは、一直線にこちらに向かってくる。まさか、
「―――――――――ニャァアアア!!!」
野犬の一匹が彼に気付いてしまった。シロの小さな体ではあの不気味な野犬たちに敵いっこない。
「シロ!危ない逃げて!!」
―――――助けなければ。木から飛び降りてシロに駆け寄る。その時、
(―――プッ)『もしもーっし!!こちら早くて安心派遣神様、摂津のきり丸でっす!』
電話が、繋がった。
シロを抱きかかえながら、電話口に叫ぶ。
「―――――――たすけて!!!」
野犬が一斉に跳びかかる。ああ、もうダメだ。
『…かぁーっしこまれやっしたー』
―――――――――――――――――ヒュン!、
一陣の風が吹いた。恐る恐る目を開けると、いつのまにか野犬は消え去り、残ったのは砂塵と、
「…ご指名ありがとうございます。はじめまして、八百万の神がひとり、武神のきり丸でございます」
二振りの刀を携えた、八重歯を覗かせ笑う少年だった。
20130929
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