悪魔も喘ぐ夜
*
「行きますよ」
ベッドの端から立ち上がって促す兄貴に
頷いて、麗が眠るベッドをそっと抜け出し
た。
何も知らずに眠る無邪気な顔を一度だけ
振り返った。
麗は何も知らなくていい。
何も知らずに、寝てて。
兄貴の怒りの刃が麗に向くなら、こんな
ものではすまないだろう。
そんな気がするから。
この身一つ差し出してその狂気を受け入
れて、麗の寝顔が守れるならそれでいいと
本気で思った。
“ぼく、もっと強くなるから”
そう言ってくれた。
“ぼくがお兄ちゃんを守るよ”
その気持ちだけで十分だ。
だから、俺に守らせてくれ。
弟の背中に隠れているだけの兄なんて格
好悪すぎる。
こんなでも…頼りなくても、麗の“お兄
ちゃん”だから、さ…
まだどうすればいいのかは分からないけ
れど、堕ちたからには這い上がってみせ
る。
おやすみ、麗…
パタン…
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