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心に巻き付く茨



それは余りにも突然で、自分の中の刻が止まってしまったかのような錯覚を起こして、体が地面に生えたみたいに動かなくなってしまったんだ。

目に写るは、外套を脱ぎ散らした上半身裸のサソリの旦那の後ろ姿。生気が窺えない傀儡の腕に、クナイの切っ先を何度も何度も突き立てていた。
…所謂、自傷行為。
勿論、傀儡の体、いくらそんな行為をしても痛みも無く、血さえも出はしないだろう。
でも、その痛々しい異常な行動を生身の体をもつオイラにとって、それに…特別な存在であるからこそ、そんな状況を放ってはおけない。

オイラは一言、いかにも近寄り難いオーラを放つ旦那の背中に向けて名を呼んだ。
精神も異常の域であろう旦那は言うまでもなく無言。オイラの存在にさえ気付いているのか危うかった。
どう接していいのか未だに答えが見つかっていなかったが、その一間を破ったのは旦那の方からだった。

薄く開いた口から低く篭った笑い声。そして、次にオイラの名を呼び掛け…一言。血が出ないんだぜ、オレの腕。
恐怖にも似た感覚が体を襲い、途端に金縛りに遭う。だけど後にその金縛りからは十秒と持たずに解放される。その十秒前から、旦那は自虐行動を更に加速させ狂ったかのように声を荒げた。だが残り四秒、静まり絞り出した震える声で呟く。何で血が出ねぇんだよ…と。

十秒後、オイラは旦那を包んでいて、異常という恐怖で見ていたその人はもう強く抱いたら壊れてしまいそうな弱い人間という存在になっていた。
小さくなってしまった旦那は、包むオイラの手から逃れようとオイラの中で暴れる。普段の冷静さを忘れてしまうような子供じみた反抗を。

離せ、離せ。嫌がる旦那を無視して暴れ回る手足を押さえ付ける。それでも頑なに拒否をする旦那に、オイラがいるからと強く訴えた。特別なんだ、大切なんだ、自分の心にある素直で強い想いをぶつけて。
だけど、オイラの訴えは届かなかった。お前にオレの何が理解る…そうオイラにとってキツい一言を浴びせられる。

…オイラはそんなにこの人の事を分かっていなかったか?嗚呼…確かに考えてみれば自分は本当に何も知らないのかもしれない、分かっていないのかもしれない。
愛していればそれでいい、今のオイラ達にとってそんな理屈は安直過ぎたんだ…。

否定を重ねる旦那と、何一つ分かってやれない自分に苛立ち、オイラは一方的に体を交わしてしまった。千切れそうになる共愛を繋ぎとめたいがために。

こんな事ぐらいでしか愛を示せないなんてお前はどこまでも餓鬼だなと、いつものように笑って欲しかったのに、見下ろすその人は虚ろな眼を漂わす。オイラの眼なんて一度も見ない。

苦しい、苦しい。どうしてオイラを見てくれないの。オイラを忘れちまったの。そんなのオイラは嫌なんだよ…。
心が苦しさにもがくのは、まだアンタを愛しているからなんだ。


(お願いだ、もう一度、微笑んでくれ)





デイ→サソな悲恋が書きたかったんです。
悲恋どころかドシリアスだ…。






あきゅろす。
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