感謝の言葉を最期に *死ネタ注意 真白い空間の部屋の中には、静かに横たわる見慣れた人。 その空間の境目より外で佇むオイラは、呆然と立ち尽くしていた。 「サソリは、死んだ」 耳に届いたその声が、誰の物であるのかも分からなかった。 未だに境界線を越えようとしない足は、心のどこかで他人事の様に言われた「動け」という命令に従い、ようやくさも重たそうに動いた。 眼前まで辿り着く。 いつもの様に見ていた目の前の人は、今日も同じくいつもと変わらぬ汚れ一つとない顔でいた。 眠っている。 そうとしか思えなかった。 頬に指を滑らす 冷たい。 この人は傀儡だ、いつもと、変わらない。 胸に手を置く 鼓動がしない。 心臓はなかったんだ、動いてないのは当然だ。 口に掌を当てる 息をしてない。 呼吸を必要としない体なんだ、これも、当たり前だ。 「…、旦那」 そう呟いたとき、 オイラの顔は、みるみると大理石の様に、青白く変わった。 いつもなら 「何だ、デイダラ」 って、少し笑いながら、オイラの目を見て、必ず答えてくれるはずなのに。 今日は、違う。 「……、旦、那、」 何も、言わない。 「サソリの、旦那…っ」 答えて、くれない。 それが「死」という物を実感させ、溢れる悲情を抑える事が出来なかった。 もうプライドも何も関係なく、愛する人の首に抱きついて泣きじゃくった。メンバーがいる事も気に止めず、感情を殺す忍である事も忘れて。 他愛のない会話が楽しかった。 芸術論争のあとの仲直りが清々しくてたまらなかった。 馬鹿だな、って小突かれるのが嬉しかった。 名前を呼ばれるのが、好きだった。 好きと言われるのが、愛おしかった。 愛していると、囁かれるのが、倖せだった。 流れ出る涙は止められずに、苦しさで胸が張り裂けそうになるけど だけど オイラは、笑った。 笑ってこう言った。 “ ありがとう、旦那 ” |