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タイムマシン「セルフパロディ」ー1ー
さて、パロディのネタが尽きて久しいのである。
とにもかくにも書き始めればなにか出てくるのではないだろうか。
「師匠、パロディですよ」
「身もふたもないな」
「なにか面白いことを言ってください」
師匠はめんどくさそうに欠伸をする。
「馬は四馬力らしいぞ」
「それ、前にも聞きました」
そのしょうもないトリビアそんなに気に入っているのだろうか。
「じゃあ、読者からのお便りでも読みましょう」
「読むといいよ」
そうだ。この手があったか。我ながら凄いぞ。いま思いついたにしては上出来だ。
「では最初のお便り。過去編の師匠と現在編のウニはどっちがよりザコなんですか?」
バン!
師匠はいきなりテーブルを叩いた。
テーブルが出てくるのでここは師匠のボロアパートらしい。
「過去編でも僕はそれなりに霊感を発揮しているだろう! ずっとヘタレのお前と一緒にされると不愉快だ」
「俺はいま軽く不愉快になりました」
睨み合いになりそうになったので、こちらから目を逸らす。
「現に読者からはそう見えている、という話です」
「それは、僕の師匠が凄すぎて相対的にそう見えてしまうだけだ」
「え。ていうことは今の師匠より加奈子さんの方が上なんですか」
「む?」
論理的にそういうことになってしまうところだが、師匠は簡単に頷かなかった。そしてぼそりと言うことには、「上とか下とか、そういうことじゃない」
出た。負けず嫌いだ。
「他のお便りでも似たようなのがありますよ。加奈子さんと現在の師匠はどっちが上なんですか? とか」
「なんて下品な質問だ!」
師匠はわめきながらまたテーブルを叩いた。
「どこのどいつだ。名前を読み上げてやる」
「ちょっと、止めて下さいよ。あ、マジでまずいですって」
死守した。
死守しました。
息が切れた。
「でも、実際どうなんでしょうね。得意分野は加奈子さんの方が広そうですけど。あの人は西洋系も強そうですし」
「おい。その話、続けるのか」
「いいじゃないですか。ネタもないことだし」
「僕は円周率を小数点以下、六十桁まで暗礁できるぞ」
「だからなに、っていう情報ですね。あと漢字が違います」
「だいたいだな、現にピークの時期がずれてるんだから比べようがないだろう。霊感を数値化するようなこともできないし」
「いま、なんて言いました」
「え。だから、霊感を数値化できないと」
「その前です。ピーク時期がずれてる? それですよ!」
「なんだ、急に立ち上がって」
俺は自分の思いつきにガッツポーズをつくった。
「過去に行きましょう」
「は?」
師匠はアホを見る目で俺を眺めている。
「できますよ。パロディなんだから」
「そんなのありか」
「京子さんがチョベリバとか言うくらいですから、なんでもありなんじゃないですか」
「過去に行ってどうすんの」
「だから、霊感対決ですよ。どっちが先にお化けの正体に迫るか、みたいな。推理小説とかでもあるでしょう。名探偵同士が同じ事件でかち合って推理対決する展開が」
「ええ〜」
師匠は嫌そうだ。負けるのが怖いのか。
「お前に僕の師匠を見せたくないな」
そんな理由かよ。
「パロディですよ。パロディ。気楽に考えてください」
師匠は腕組みをして仏頂面をしている。
「もう決めました。はい。もうタイムスリップしますよ」
「どうやって?」
いちいちこのオッサンは。
「なんでもありなんですよ。いいでしょう、どうやったって。タイムマシンでも、歩くさんの特殊能力に巻き込まれる設定でもなんでも」
「まて。歩くを絡めるのはやめよう」
師匠はふいに不安になったようにキョロキョロと部屋の中を見回しはじめた。
「いませんよ。心配しなくても」
思い出した。
なぜか分からないが、歩くさんの前で加奈子さん絡みの話をするのは禁句っぽいのだ。いや、うすうす理由は分かるような気もするが。
やたら気になったのか押入れを開けて誰もいないのを確認しはじめた師匠を止めた。
「じゃあ、タイムマシンで行きましょう」
タイムマシン、どうしようかな。
いいや、もうこれで。
「このタンスの中がタイムマシンになってます」
「お。ドラえもんだな」
「すみませんね安直で。じゃあ行きますよ」
タンスの引き出しに手をかけると、師匠はまた部屋の中をうろうろしはじめる。
「なんですか。行きますよ」
「いや、行くなら行くでしょうがないが、こんな格好はまずい」
そう言って着ていく服を選びはじめた。
「なあ。どっちがいいかな」
「どっちでもいいですよ。早く行きましょう」
「まあ待て。あ、あとあれも持っていこう」
師匠は押入れに顔を突っ込んで、最近手に入れたお気に入りのオカルトグッズを出してきた。そして、僕の師匠に見せびらかすのだと言って嬉しそうにしている。
「ああ、もう。未来のものを持ち込んじゃだめですよ。あと過去の自分に会うのも厳禁です」
「誰が決めたんだそんなこと」
「バック・トゥ・ザ・フューチャーでドク=エメット・ブラウンが言ってました」
「ああ、こないだ金曜ロードショーでやってたな」
「もう、とにかく行きますよ」
「ちょっと待って。僕どっか変なとこないか。歯。歯も磨かなきゃ」
俺は問答無用でタンスの引き出しをあけ、師匠をその中にぐいぐいと押し込んだ。
「あ、ぬるい。なんか気持ち悪い。わ。なんかぬるいんだけど」
うるさいなこの人は。
のび太もそんなこと言ったことないのに、どっからその感想が出てくるんだ。
タンスの中は歪んだ時計の模様が散りばめられた見覚えのある亜空間で、俺と師匠はカーペットのような形のタイムマシンの上に乗っていた。
「こんなの動かせるのか」
師匠は勝手に計器類を触ろうとした。
「ちょっと、待って! そんなこと言いながら触ったらいかにも事故りそうじゃないですか。いいからじっとしててください」
はい、ピポパ。
余計な描写は事故の元だ。
タイムマシンは安っぽい人工音を立てて亜空間を移動しはじめた。
「身を乗り出さないで下さい!」
なんでこの人はこうなのだ。でも死ぬとこ見てみてぇ。
しばらくすると静止して、上部に黒い穴が開いた。
「つきました」
俺は穴のふちに手をかけて懸垂の要領で這い上がる。
出た先の真上に薄暗い天井が見える。
ん。なんだここは。
上半身を乗り出すと、それはどこだか分からない会社のような一室にある机の引き出しだった。他にも机が並んでいる。結構広い。本当になにかの会社のフロアのようだ。
変だな。どこだろう。
そう言えば、どこに出るか決めていなかったことを思い出す。
なんとなく加奈子さんのボロアパートのタンスから出てくるようなイメージをしていたのだが。
机の引き出しから降りると、続いて師匠も引き出しから顔を出す。
「なんだここ」
「さあ。人っ子一人いませんね」
昼間らしいが、フロアの明かりは消されていて薄暗い。窓にはすだれ式のシャッターが下りていてそこから光が漏れている。


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