[携帯モード] [URL送信]
富士山
師匠と道を歩いていると、小学生の一団とすれ違った。
集団下校だろうか。
みんなランドセルを背負っている。
歌が聞こえる。

「1年生になったら
1年生になったら
ともだち100人できるかな
100人でたべたいな
富士山のうえでおにぎりを
ぱっくんぱっくんぱっくんと」

思わず顔がほころぶ。
小学1年生だろうか。
歩きながら、みんなで声を合わせて歌っている。
僕と同じようにそちらへ視線を向けていた師匠だが、なんだか様子がおかしい。
どうしたんですか、と訊くと

「あの歌、嫌いなんだ」

との答え。
心なしか顔が青ざめているようだ。

「どうしてです?」

「・・・怖いんだよ」

怖い?あんな可愛らしい歌が?
しかし冗談ではないというように、その顔はあくまで真剣だ。

「子供の頃からのトラウマでな。こればっかりは未だに恐ろしい」

「なぜです?」

小学生の群は、もう一度その歌をリピートしながら僕らの視界から消えようとしていた。
師匠は、ふー、と長い息をついてから苦笑いするように唇を歪める。

「ともだち100人できるかな、ってのは別にいいんだよ。
ともだちをたくさん作りたいっていう希望と期待に満ちている。
問題はそのあとだ。100人でたべたいな。
富士山の上で、おにぎりを・・・って、どう考えても、1人ハブられてるよね」

「え?」

「自分と、ともだち100人。合わせて101人のはずなのに」

考えたことはなかったが、そう言われてみればそうだ。

「たったひとり、仲間はずれにされてしまったその誰かのことを思うと、怖いんだよ」

師匠の目は、最後まで笑っていなかった。

[←*][→#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!