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幽霊物件ー1ー


師匠から聞いた話だ。


大学2回生の春だった。
僕はバイト先の興信所である小川調査事務所のデスクに腰掛けて、所長ととりとめもない話をしていた。
「鮭のムニエルならいいんですよ。鮭のムニエルなら」
「いや、他のムニエルも駄目ってわけじゃないよ」
「ええ、それはそうですよ。まあなんでもそれなりに美味いわけですし」
「しかし、なんでもムニエルにすれば良いってもんじゃないよね」
「それですよ。結局」
お互いの溜め息を聞いて、顔を見合わせる。
さっきからやり玉に上がっているのは、僕の調査員のバイトの先輩である加奈子さんの手料理のことだった。
加奈子さんは生活費に困窮すると、人に食べ物をたかる悪癖があった。ただ奢らせるわけではなく、一応手ずから料理は作ってくれる。その料理の腕もそれなりに上手いので、けっして悪い気はしない。ところが、基本的にめんどくさがりなので、いつも似たようなメニューになるのだ。それがムニエルだった。
もともと魚が好きらしいのだが、とにかく調理方法といえば切り身に小麦粉をまぶしてバターで両面をカリッと焼く、ムニエル。ムニエル。ムニエル。ひたすらにムニエルなのだ。
定番の鮭のムニエルに、サバのムニエル。アジのムニエルに、タラのムニエル。ヒラメにカレイにスズキにタイ……。
とにかくなんでも小麦をまぶしてバターで焼き、レモン汁をぶっかければいいという実に短絡的な料理ばかりなのだ。
確かに簡単な料理なのであまりハズレはないのだが、さすがにこうもムニエルばかりだと、一緒に食べているこっちはその常習性に閉口してくる。それどころか、もはやなんの魚なのかよくわからないものまでムニエルとして出してくるのだ。
「ボクはムニエルのムニエルというのを食わされたことがあるよ」
所長の小川さんがボソリと言った。
加奈子さんはこの小川調査事務所のオフィスでも、据付の台所を使って料理を作ることがあるのだが、やはりムニエルばかり出してくる。
「僕なんかムニエルを食べさせられました」
「ム……ムニエルを?」
お互い絶句して、(何のだよ)という突っ込みをあえて飲み込んだまま沈黙が流れた。
その加奈子さんは今、タカヤ総合リサーチという大手興信所に依頼人を迎えに行っている。そこは小川所長が昔所属していた興信所で、独立した今でも付き合いがあり、ときどき仕事を回してもらっているのだ。
ただし、ただの依頼ではない。この業界では『オバケ』と呼ばれる、どこにも相手にされないような奇妙な依頼だ。今回の件も、タカヤ総合リサーチに持ち込まれたおかしな依頼に対し、普通ならやんわりとお断りしてお引取りいただくところを、市川さんというベテラン事務員の機転でこちらに連絡をもらったのだった。
『オバケ』事案専門の調査員である加奈子さんなら、なんとかできるかも知れないという希望的観測のために。
ムニエルを作る人、という肩書き以上に僕は、このオカルト道の師匠でもある彼女の行動に、発想に、思考に、信念に、そして推理に、ゾクゾクするような期待を抱いている。
「あ、帰ってきたな」
所長の言葉に振り向くと、階段を登ってくる二人分の足音が聞こえてきた。



「で、結局どうなさりたいんですか」
小川所長が額に手をやって髪をかき上げる仕草をした。『まいったな』というときにするポーズだ。確かに、今回の依頼はただの依頼ではなかった。隣で聞いている師匠も難しい顔をしている。
「だから、僕の借りてる部屋に幽霊がいる。ルームシェアと同じ状態だから、遺族に半分家賃を負担させたい。簡単な理屈でしょう」
応接机の向かいに座る男は、苛立ってそう繰り返した。
依頼人のその男は三好健二という名前で、30歳独身。1ヵ月ほど前から、市内のあるアパートの1階に越してきて、住み始めたのであるが、その部屋に幽霊が出たのだそうだ。
驚いて、紹介した不動産屋に文句を言いに行くと、幽霊が出るなどという話に、まったく取り合ってくれない。嘘だというなら見にこい、と言って無理やり不動産屋の親父を部屋に連れてきたものの、どこにもそんなものは見えないと言われ、いい加減にしてくれと逆切れをされる始末。
『そんなにこの部屋が気に食わないなら、出て行けばいいでしょう』
不動産屋は、今なら敷金を全額そのまま返すとまで言ったのだが、依頼人の三好は部屋から出ることを拒んだ。理由は、勤務先であるスーパーマーケットと目と鼻の先にあるこの物件を、やっと見つけたばかりだというのに、幽霊ごときのために手放したくない、というものだった。
幽霊をなんとかしてくれ、と言っても、そもそもそんなものはいない、という不動産屋とのやりとりでは埒が明かず、ついに彼が出した結論は、勝手に居座っている幽霊にも部屋代を半分出させるという、おかしな落としどころだった。
「あの部屋で死んだ人の幽霊ですよ。間違いなく。そういう事故物件って、貸すときには事前に説明しないといけないはずでしょう。それを黙って貸しといて、バレた後で気に食わないなら出て行けって。そりゃあ横暴ってもんですよ、横暴」
三好はテーブルをバン、と叩いた。
「まあ、落ち着いてください」
小川所長が、やんわりとそう言って今の衝撃で少しこぼれたお茶を持ち上げ、おしぼりでテーブルをサッと拭いてから、もう一度差し出した。
「……すみません」
三好は鼻息を吐き出してから、お茶に手を伸ばして口をつけた。
彼がお茶を置くのを待ってから、師匠が口を開いた。
「不動産屋は、その部屋で人が死んだということ自体を認めていないんですか」
「そうですよ。人が死んだりしたことなんてなかったって」
「なのに、部屋に幽霊が出るんですか」
「疑っているのか!」
「いやいや、そういうわけじゃないですよ。私もそういう幽霊がらみの話は専門ですし」
小川調査事務所を訪ねてくる『オバケ』事案の依頼人は、たいていほかの興信所を門前払いされてから、最後の最後に流れ着くようにしてやってくるので、信じてもらえないということに関して非常にコンプレックスを持っている。なので、いつも気を使うところだった。
しかし、だからと言ってそんな話を鵜呑みにできるわけはない。なにかの見間違いや、ただの気の迷いということだって、往々にしてあるのだから。
「ええと、その、事故物件のことですがね」と小川さんが言った。
「宅建法に『重要事項説明義務』って言うのがありましてね。まあ、よくトラブルになるんですけど、そういう死亡事故があったとかいうようなことは、賃貸借契約における主観的瑕疵というものになりうるので、契約に際して、借り主に説明をしないといけないということになっています」
「俺も自分で調べたけど、書面で交付しないといけないんでしょ。もらってないですよ。そんな書類」
「いや、ちょっと違いますね。直接35条の案件だったらそうですけど、例えば自殺みたいな不慮の死亡事故の場合は、47条のほうの告知義務になって、口頭でもOKのはずです」
「なんだかよくわかんないけど、口頭でも聞いてないよ!」
「ええと。よく言われるんですけど、1人挟めば2人目はOKっていう慣例がありましてね。その部屋で死亡事故があっても、次に借りる人にさえ説明すれば、さらにその次の人が借りる時には説明しなくていいっていう基準があるんですよ。次の人で問題がなければ、いつまでも延々と引きずらなくてもいいでしょっ、てことでそういう慣習になってるみたいです。まあこれも正確には根拠のないガイドラインみたいなもので、それなら訴えられても大丈夫かなという程度のものらしいですけどね。借りた人数にかかわらず、5年は実質的に告知義務がある、とかいう話も聞いたことありますけど、とにかくこの街の不動産屋はだいたい、1人挟めば2人目はOK、ってことでやってるみたいですよ」
「そんな横着なこと許されないでしょ!」
三好はまた興奮して身を乗り出した。
「いや、まあそれも自発的に説明するかどうかという話だから、三好さんがそういう事実があったのかきちんと問い合わせているのに、嘘をついて隠しているというのは完全にアウトだと思いますよ。それは不動産屋もわかってるはずですけどね」
「だったらどういうことなんですか」
「……」
ようするに、実際のところその部屋でそんな人死にがでるようなことはなかった、ということではないだろうか。
小川さんもはっきりそう言うべきか、迷っているような表情を浮かべていた。
「とにかく、現に幽霊は出るんですよ。俺の部屋に。お札とかもらってきて、貼り付けても全然効きやしない。追い出せないなら、遺族にそいつの家賃分を肩代わりさせないと気が済まないんだよ。家賃っていう名目じゃなくても、迷惑料でもなんでもいいよ。なのに、不動産屋の親父がなにも教えてくれないから、どこに言いに行けばいいかもわからないんだ!」
三好は大きな声で言いたいことを言い切ったからか、少し満足げな顔をして、椅子に深く掛けなおした。
「ね。だから、探して欲しいんですよ。幽霊の遺族を。別に幽霊を問い詰めろなんて言いませんよ。現にそこで人が死んでるなら、調べればわかるはずでしょ。興信所なら」
気持ちの悪い猫撫で声でそう言う三好に、小川さんは苦笑いを浮かべてから師匠の方を見た。
「では、ご依頼はその部屋で死んだ人の遺族を探し出す、ということでよろしいですね」
多少回り道をしたが、依頼内容を整理すると、わりに耳慣れたものになった気がする。
師匠の言葉にようやく三好は頷いて、「お願いします」と言った。



しかし、この依頼人はどこかズレている、というか変なところでクソ度胸が据わっているなあ、と僕は感心してしまった。
幽霊が出るのには目を瞑るから、遺族から迷惑料をせしめたいというのだ。幽霊が出るとわかっていながら、そこで住み続けようという神経が信じられない。
聞くと、やはり子どものころからそういう幽霊のたぐいはよく見るのだそうだ。霊感が高じて、どこかが麻痺してしまっているのだろうか。
料金の説明などをしたあと、調査に係る契約書を交わした。
「今から部屋に伺ってもいいですか」
師匠がそう提案すると、三好は頷いた。事務所の壁掛け時計を見ると、まだ昼の三時だった。まだ幽霊が出る時間帯ではないかも知れないが、師匠なら昼間でもそういう存在を見ることができる可能性が高い。もちろん、本当にその部屋に幽霊がでるとすれば、であるが。
そうして小川所長を残し、依頼人の三好と師匠と助手の僕、という3人で問題のアパートへと向かった。結構遠かったが、三好が歩いてきていたので、帰りのための自転車を押しながら一緒に歩いて行くことにした。
道々、師匠はいくつかの質問を依頼人にぶつけた。
「その部屋にあなたが入る前に住んでいた人のことは調べたんですか」
「ああ。不動産屋に、前の住人がどこのだれで、いったどこへ引っ越していったのかを訊いたんだけど、個人情報だからとか眠たいことヌカしやがって、どうしても教えてくれないんだよ。仕方ないから、両隣の部屋の人とかに訊いたら、なんか近くの弁当屋でパートをしてた、五十歳くらいのおばさんが1人で住んでたって」
「そのおばさんが……ってことはないんですか」僕がそう訊くと、三好は首を横に振った。
「その幽霊、おばさんじゃないから」
さっきも事務所で師匠が、具体的にどういう幽霊が出るのか訊ねても妙に歯切れが悪かったが、やはりあいまいなことしか言わない。
なぜだろうと訝しく思っていると、師匠が続ける。
「そのパートのおばさんに、話を訊きにいってはいなんですね」
「ああ。どこに行ったか知らないし。でも、それはあんたらの仕事のうちに入るだろ」
師匠は頷いた。
「そのアパートの他の住民たちも、あなたの部屋で幽霊が出ることについて、なにか知っているようなことはなかったんですね」
「そうだよ。だれか死んだなんて話は聞いたことがないって、みんな言っている」
いらいらした様子で三好は自分の頭を指さし、くるくると回してみせた。そのまま強張った半笑いで、なにか言おうとしていたが、結局なにも言わずに黙った。
やがて僕らは問題のアパートに到着した。建てられてから20年は経っていそうな、2階建ての木造アパートだった。住宅街の一角にあり、近くにも似たようなアパートがいくつか散らばっている。
「この部屋だよ」
4部屋ある1階の、右から2番目のドアに向かって近づいて行き、三好は鍵を開けた。
「散らかってるけど」
そう言って玄関で靴を脱いだ三好に続いて、僕らはドアのなかへ入った。
師匠が靴を脱ぎながら言う。
「昼間でも見えることはありますか」
三好はその言葉に振り返り、「さあ」と言って、またはぐらかすような強張った表情を浮かべると、「どうぞ」と僕らを室内へ誘った。
散らかっているとは言ったが、玄関から入ってすぐの台所は綺麗に片付けられていて、食器の洗い物などは見当たらなかった。
しかし部屋に入って僕はすぐに気づいた。その部屋全体を覆う、なんとも言えない薄暗さに。台所の左手には風呂場とトイレのドアがある。そして正面には居間へ通じるドアがあった。上半分に四角いすりガラスが嵌っている。
そのガラス越しに漂ってくる暗さは、今がよく晴れた昼の3時過ぎだということを、一瞬忘れさせるような気がした。
確かに薄気味が悪い感じだ。
師匠の横顔を窺うと、少し緊張したような面持ちで、足音を殺すようにしてそろそろと進んで行く。
三好が正面のドアノブを回して、その向こうの部屋に入っていった。僕らもそれに続く。
そこは洋間で、8畳ほどの広さのなかに、あまり多くない家具類が収まっていて、一見してゆったりとした印象を受けた。その向こうはベランダへ通じる窓だ。1Kということになるが、単身者には十分な広さの部屋に思えた。
しかし、窓から漏れる光は暗い。窓のカーテンに落ちる黒い影は、向かいの建物が遮蔽物となっているためにできているようだ。
「すぐそばに4階建てのマンションがあってな。日当たりが悪いんだ」
僕の視線に気づいたのか、三好が自嘲気味にそう言った。
師匠と僕はさらに1歩、2歩と進んで居間に足を踏み入れ、慎重になかを見回した。確かに明かりをつけていない部屋は薄暗く、どことなく気味が悪かった。生唾を飲んでドキドキしながら幽霊の痕跡を見つけようとしたが、そういうものはどこにも見当たらなかった。
少しホッとして、僕は口を開いた。
「この部屋、ひと月いくらぐらいなんですか」
「共益費入れて5万弱だな」
5万円か。日当たりは悪そうだけど、駅からもそんなに遠くないし、室内も意外と小綺麗で、そこそこいい物件のようだ。自分の職場からも近いとなると、確かに手放したくないという気持ちもわかる気がする。
「カーテン開けていいですか」
僕がそう言うと、三好は「ああ」と言って自分から窓に近づいた。カーテンを開け、窓のロックを外す。
サッシの上を窓ガラスが滑り、外の光こそあまり射し込んではこなかったが、気持ちのよい風が室内に入ってきた。
やや肌寒い風が頬を撫で、吹き抜けていく。
そうして生まれた空気の流れで、入ってきた部屋のドアが背後でバタンと閉まる音がする。
なにも喋らなかった師匠がその瞬間に振り返る。僕もつられてゆっくりと振り向くと、閉じたドアの前に首吊り死体がぶらさがっていた。
「えっ」
思わず後ずさり、転びそうになる。まったく予期していなかった光景に、心臓が爆発するように鳴る。首吊り死体だと?
「こ、こんな」
絶句した僕の横で、師匠が身構えたまま好奇の笑みを浮かべる。
「ほんとに、見えるんだ」
三好が強張った声をあげる。
こいつ、試しやがった!
幽霊について多くを語らなかったあの態度は、本当に僕らが幽霊を見ることができるのか確かめるためだったのだ。
首吊り死体は、この世のものではなかった。物質として、そこにぶらさがっているわけではない。だが、伸びた首、伸びた舌、表面に膜が張ったように光を失った瞳…… どれもそこにありありと見えるのだった。
ゾクゾクする悪寒に、足が竦む。
首吊り死体の霊からはなんの意思も感じられない。まるでただ、冷たい肉の塊としてそこにあるようだ。
「こいつか」
師匠が、首吊り死体の霊から視線を逸らさずに訊ねる。
「そう」
「こうしているだけなのか」
「そうだよ」
「昼も、夜も?」
「いや、昼間に見えるのは珍しいな。だいたい夜だ」
「ずっといるのか」
「出たり、消えたりだ」
師匠からさっきまでの依頼人に対する敬語が消し飛んでいたが、真剣な口調に違和感がまったくなかった。
霊は女だった。髪が肩まであって、それが顔に掛かっているが、まだ若い女だということはわかった。師匠がゆっくりとドアに近づき、その顔を下から覗き込む。頭はドアの上部、天辺に近い位置にある。霊はそのドアに背中をぴったりつける形で首を吊っていたが、いったいどうやっているのだろう。
もやもやと不安定に霊体の輪郭がぶれるなか、僕は目を擦りながらもっとよく見ようと意識を集中した。すると、彼女の首に掛かった細い紐のようなものが、その頭上に伸びていて、ドアと天井とのわずかな隙間から向こう側へと消えていた。
師匠が慎重な手つきで、彼女の体の脇にあるドアノブを握ると、静かにこちら側へ引いた。首吊り死体の霊をぶらさげたドアは、まるでなんの荷重もないかのようにゆっくりと開いていった。
ドアの上部の隙間へ消えていた紐の続きは、台所側には存在していなかった。どうやら霊は、居間の側にしか現れていないようだ。
しかし師匠は、首吊りの構造を把握したらしい。
「台所側のドアノブに紐の先端を括りつけ、ドアの天辺を通すことで、そこを支点にして体重を支える構造だな。で、ドアを閉じてから、たぶんこっちの居間の側のドアのすぐそばで椅子かなにかを台代わりにして立ち、天井にできるだけ近く頭を持ってきておいて、喉の下に通して輪っかにした紐の先端をキツく調整してから、その台を蹴ったと。こういう手順だな」
なるほど。それなら1人でも首を吊れるし、ドアを動かしても首吊り死体は落ちたりしない。
僕が頷くその横で、依頼人が感心した様子で口を尖らすような表情を浮かべた。すりガラスの向こうが嫌に暗かったのは、死体の霊の背中がそれを覆っていたからなのか。
師匠は再びゆっくりとドアを閉め、居間のなかほどに3人並んで立った。
「これ以上のことは、なにも起こらないんだな」
「そう」
「それにしても、あんた、いい根性してるな」
そうだ。こんな気持ちの悪い霊と1ヵ月も同居しているなんて。
「最初は寝られなかったさ。友だちの家に泊めてもらったりして。でももう慣れた」
変に自慢げな口調に、師匠は同調をせず、むしろ諌めるように言った。
「いや、こんな状況はまずい。いつからこの霊がこうしているのか知らないが、いずれ変質する可能性はある」
「へ、変質って……」
男は不安げに師匠を見る。
「昼間からこんなにはっきり出る霊は、かなり強い存在理由を持っている。簡単には消えていかないし、状況からして完全にこの部屋に地縛している。今はなんの意志も感じられなくても、今後もずっとそうかなんてなんの保証もない。たとえば夜寝ているときに……」
師匠はそう言って、三好に右手を伸ばした。
「手が自分の方へ伸びてきたら、どうする」
「よ、よせ」
三好は師匠の右手を避けるようにあとずさった。
「まあ、根本的な解決ができるかどうかわからないけど、この霊が生前ここで首を吊った経緯を調べないと、どうにもならないな。とりあえず予定通り、彼女が何者なのかを調べるとしよう」
僕はその霊を前にして平然と喋っている師匠を、信じられない思いで見ていた。そのドアにぶら下がった姿を見ていると寒気が止まらず、早くこの部屋から出たくてたまらなかった。
しかし師匠は霊に近づいて、よりじっくりと観察を始めた。自分の手帳に、鉛筆でその姿のスケッチをしている。
「プロなんだな」
三好がぼそりと言った言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか、師匠は淡々と観察を続ける。僕も一応、自分の手帳を広げ、目に付いた状況を書き留めていった。
だがその間も、悪寒が止まることはなかった。首吊り死体の霊のすぐ目前にこうして立ち、じっと観察しているなんていう異常な状況が、自分でも信じられなかった。一かけらの意思も感じられない、抜け殻のような霊がしかし、僕が手帳に目を落としたその一瞬に、冷たい手を僕の首筋に伸ばしてきていたら……。
そんな想像をしてしまうと、生きた心地がしなかった。
しばらくして、師匠が「うん?」と一声唸った。その声にドキリとする。
「どうしました」
僕が恐る恐る師匠の手帳を覗き込むと、鉛筆の先が、スケッチされた死体の首の辺りで、トントンと紙の上に打ち付けられている。
「おかしいぞ」
鉛筆の動きを止め、師匠が死体の霊を指さした。その喉の辺りをだ。細い紐が首に食い込んでいる。僕はそもそものこの状況の異様さに、今さらあえて指摘するほどのおかしさがどこにあるのかわからず、首を傾げた。
「爪痕がない」
師匠はそう言って喉に食い込んだ紐の周囲を、手にした鉛筆で指し示す。
「そうこん?」
爪あとのことか。喉に、確かにそんなものは見当たらない。しかしさっきから、見えている霊体の濃度がだんだんと薄れてきていて、僕には正直もうあまり精密には見えてない。というか、ぼんやりとしている。首筋にそんな爪のあとなど、ここにある、と指摘されてもわからないかも知れない。
「首吊り死体の特徴として、全体重が首に掛かった瞬間に頚骨を骨折して意識を失った場合などを別として、窒息の苦痛に紐や縄が食い込んだ喉を、掻き毟った痕跡が残っている場合が多い。どんなに死のうという意識が強い人間でも、実際に死に迫る苦しみのなかに陥ると、なんとかその苦しみから逃れようと足掻いてしまうものだ。だからこそ、確実に死ぬため、逃げ出せないように足場を蹴り倒して、人は首を吊るんだ」
ここを見てくれ。
師匠はそう言ってぶら下がる霊の左手首を指し示した。そこにはリストカットのあとが幾重にも残っていた。僕もそれには気づいていて、自殺を思い立った彼女が死のうとして、手首を切ったもののなかなか死に切れず、何度か繰り返したあと、とうとうドアを利用して首を吊ることでその思いを完遂したと、そういうストーリーを頭に描いていた。
「霊体がどのようにして現れるかは、霊自身の選択だ。あるいは無意識のそれにせよ。彼女がためらい傷を身体に残したまま現れていることは、彼女がそれをことさら秘匿しようとしていないことを示している。そして衣服の緻密さなどからも死の瞬間の身体の状況を正確に再現しようとしていることもわかる。なのに、喉を掻き毟ったあとがない。これは不整合だ」
爪もこうしてあるのに、と師匠は彼女の指先の辺りを顎でしゃくって見せる。
「だったら、一瞬で気絶したんじゃないですか。首の骨が折れて」
僕のその指摘に、師匠は頭を振った。
「彼女は見てのとおり痩せている。体重はかなり軽いだろう。室内のドアのこんな窮屈な仕掛けで、高い木の枝から首に縄をかけて飛び降りるケースみたいに、一瞬で首の骨が折れたり、失神したりするだろうか」
蓋然性を考えると、違和感がある。
そう言って師匠は険しい顔をした。
「だったら」
僕はそう言いかけて、あとに続く言葉を飲み込んだ。師匠があえて口に出さないその言葉を、自分から言い出すことに恐怖を覚えたのだ。
もし想像してしまったとおり、これが自殺に偽装した他殺死体だとしたならば、この霊の持つ意味がまったく変わってしまうのだから。
依頼人の三好もそのことに気づいたようで、表情を硬くして言葉を失っている。
押し黙って考え込んでいる僕たちの目の前で、ドアにぶら下がる霊体の姿が徐々に希薄になり、静かに溶けるように消えて行こうとしていた、
「消える」
僕がそう呟いた瞬間に、霊は消えた。もう見えない。三好と師匠の目を見たが、2人とも頷いた。どうやら消えてしまったようだ。
しかし、三好が言っていたように、元々現れたり消えたりする霊らしいので、一時的に消えたのだろうと思われた。霊のバイオリズのことはよくわからないが、そういうことは経験上よくあった。
そのまましばらく待ってみたが、やはり首吊り死体の霊は現れなかった。
それから師匠と僕は三好を部屋に残して、このアパートの住人を順番に訪ねて回り、聞き込みを行った。
わかったことは、1ヵ月前に三好がこの部屋へ引っ越してくる前は、近所の弁当屋でパートをしていた、田坂という名前の50年配の女性が住んでいた、ということ。そしてその前に住んでいたのがだれだったのか、だれも知らない、ということだった。
と言っても、訊ねたときに住人が部屋にいたのは三好を除く7つの部屋のうち、4つの部屋だけだった。そこで師匠は自分の名刺に102号室に関する情報が欲しい旨を書き付けて、残り3つの部屋の玄関ドアの下の隙間からなかに滑り込ませた。
最後に付け足した『薄謝進呈』という言葉がどこまで効果を発揮するかは、神のみぞ知る、というところだ。
そして次に先住者がパートをしていたという弁当屋に歩いて行った。その弁当屋はよく見るチェーン店で、夕方のかき入れどきの直前という、ギリギリ客が途絶えているタイミングで訪ねた僕らを、いかにもベテランという佇まいの60歳くらいの女性店員が出迎えた。
「ああ、田坂さん? 覚えてるもなにも、辞めてからまだ3ヵ月よ。まだもうろくはしてないわ。あはは。え? どうして辞めたかって訊かれてもね。……家庭の事情って私は聞いたけどね」
師匠が興信所の名刺を渡し、田坂さんの住んでいた部屋で昔起こったかも知れないある事件のことを調べている、と告げると興味津々という様子で身を乗り出してきた。
「今の連絡先、私知ってるわよ。こっちからは教えられないけど、今本人が家にいたら、あなたたちのこと話してみましょうか」
そうして彼女は頼みもしないのに、店の電話を使ってどこかに掛け始めた。
弁当屋のパートという同じ場所でのルーチンワークをこなしている日常に、興信所の人間がある事件について調べていると言って訪ねてくるという、テレビドラマのなかのような展開に、少なからず興奮しているらしい。
やがてかしましい挨拶を電話口で交わしたあと、女性店員は「はい」と言って受話器をこちらに預けてきた。師匠が電話に出て、しばらく話していたが、やがて礼を言って受話器を返した。店員は「もういいの?」と言いながらまた電話に出て、甲高い声で相手とやりとりしたあとで、チンと切った。
事件とやらのことを詳しく訊きたがっている彼女を、上手くなだめすかして、師匠と僕は弁当屋をあとにした。
「田坂さんはシロだな」
「関係なさそうですか」
「ああ」
102号室の前の住人である田坂さんは、4年ほど前からその部屋に1人で住み始め、弁当屋でパートをしていたが、3ヵ月前に郷里の母親が倒れたのでパートを辞め、介護のために実家へ帰ったのだそうだ。
そして2ヶ月ほどの空き家期間を経て、今回の依頼人である三好が不動産屋の紹介で102号室を借りた。そして1ヵ月経って今にいたる、ということになる。
肝心の、田坂さんの前にだれが住んでいたのか、という問題については、残念ながらなにもわからなかった。
田坂さんが覚えていたのは、自分が越してくる前は、しばらく空き家だったらしいということだけだ。
ただ、学生が多く、住人の入れ替わりが激しいあのアパートのなかで、2階の204号室の住人は、パン屋でバイトをしている陰気な男らしいのだが、恐らく自分より前からあそこにいたはず、ということだった。
思い出してみると、204号室は不在で、名刺を放り込んだ部屋だった。なんとかして、その男に話を訊く必要がありそうだ。
「田坂さんは、幽霊なんて見たことがないってさ」
ずいぶん直球で訊いたものだ。しかし、それが本当だとするならば、あの102号室の幽霊は、田坂さんが出て行った3ヵ月前から、三好が越してくる1ヵ月前までの、およそ2ヵ月間に空き部屋に侵入し、首を吊ったということになる。
「いや、そもそも幽霊なんて、生まれてこのかた一度も見たことがないそうだ。だから、ずっと部屋のなかに現れていたのに、気づいていなかった可能性もある」
なるほど。見ない人はとことん見ないものだ。ましてあんななんの主張もしない霊ならば、坂田さんがあの部屋の住人であった間、存在しないも同然だった可能性は高い。
そうして、僕や師匠のように霊感の鋭敏な三好がやってきてから、再びあの霊の存在が再開された、というわけだ。
そう考えていて、ふと、嫌な予感がした。
もしそうだとしたら、あの霊は4年以上前からあの部屋にいたことになるが、そこには4年間という時間の経過による安定性が保証されていないことになる。
なぜなら、霊体は僕らのような霊感の強い観察者の存在によって、逆に影響を受けることがあるのだ。霊感の強い三好がやってきて1ヵ月。つまり観察される対象となって、まだ1ヶ月ということだ。ということは、ああいう、ただそこに現れるだけの無害な存在として安定しているとは、まだ言い難いのではないか。
そのことは、出たり消えたりする、という三好の証言とも一致する。
なんだか不安な気持が増してきた。胸が静かに高鳴り始めている。
そうだ。三好は、昼間に出るのは珍しい、と言っていた。たまたまだ、としか思わなかったが、本当にそうだろうか。今日は師匠がいた。あの底の知れない霊感を秘めている師匠がいたのだ。その師匠に反応して現れたのではないだろうか。
だとしたら、今あの霊は非常に不安定な状態にあるのかも知れない。
変質、という言葉が脳裏に浮かんでゾクリとした。
「一度アパートに戻る」
同じことを考えていたのか、師匠はそう言うと、心なしか早足になった。部屋には今、三好が1人でいる。久しぶりの休みを取ったから、掃除をしておきたい、と言っていた。
その背中を、いつの間にか現れた首吊り死体の霊が、じっと見つめている。さっきは自分の足元を見下ろしていたはずなのに。
その両手が苦しげに蠢き、後ろを向いた三好の背中に、どろどろと伸ばされる。指先が届かないはずのその距離が、なぜか縮まっていく……。
ああ。
思わずそんな恐ろしい妄想を頭から振り払う。
歩いてアパートに戻った僕たちは、すぐに三好の部屋を訪ねた。
「大丈夫か」
「え、なにが」
三好は取り込んだ洗濯物を畳んでいる最中だった。首吊り死体の幽霊は出ていないようだ。
師匠は、この部屋の先住者だった田坂さんから聞いたことを説明した。
「204号室の男か。確かに暗そうなやつだったな。ほとんど見ないけど、昔からずっといるなら、この部屋のことも知ってるかも知れないな」
頷いている三好に、師匠が忠告をした。
「この件が片付くまで、だれか友だちの家にでも泊めてもらうのがいいと思う」
「そうかな」
三好は不承不承頷いた。
「少なくとも、夜は家にいないほうがいい」と言って、師匠は「さあ、次は不動産屋だな」と僕に目配せをした。
やっぱり行くのか。無駄足だと思うが。
借り主が訊きに行っても、個人情報をタテに前に住んでいた人が誰なのか教えてくれなかったのだ。それが前の前の住人のことだと言っても同じことだろう。
しかし師匠は三好に不動産屋の場所を聞いて、「よし、行こう」と僕をせかした。来るときには歩いてここまで押してきた自転車にまたがると、師匠はその後輪の車軸に足をかけた。
そうして2人乗りで走ることしばし。回りに更地が目立つ場所にその不動産屋はあった。
『オキワ不動産』という屋号が見える。
「こんにちは」
ガラス戸を開けてなかに入ると、奥の事務机にいた眼鏡を掛けた小太りの中年男が、読んでいた雑誌を置いて顔を上げた。
「学生さん?」
そう訪ねる不動産屋に師匠は首を振って、「ちょっと尋ねたいことがあるんです」と言った。とたんに不動産屋の親父の顔が曇る。
三好の依頼を受けた興信所の者だと名乗って名刺を渡し、あの部屋でなにか事件がなかったか、そして前の前の借り主はだれだったのか訊ねた。
親父は不機嫌そうに、「何度来ても教えられない。そんな事件もなかった」と繰り返すだけだった。
師匠は、頭のおかしい依頼人に変なことを頼まれて、こっちも困っている。幽霊の遺族に家賃を半分払わせるなんて無茶なことは絶対させないし、できるわけもないけど、落としどころがないとあの依頼人も納得しない。このオキワ不動産にも何度も来て迷惑を掛けることになる。任せてくれたら、元の住人に迷惑を掛けるようなことのないように上手くやるから、教えて欲しい。
そう言いつのったが、親父は首を縦に振らなかった。
「ケチ。ばか」
師匠は最後にはアカンベをして捨てセリフを吐くと、顔を真っ赤にした親父に追い出された。
師匠から「おい、もう1回行って、ドケチって言ってこい」という指示があったので、僕は1人でそれに従う。
飛んできた消しゴムの黒いプラスティックケースを避けながら、その不動産屋を後にした。
「さて、次はどうしようかな」
僕の運転する自転車の後輪に乗っかって、師匠は妙に楽しそうだ。
「あの。考えたんですけど。市内で若い女性が首吊り自殺って話だったら、ニュースとか新聞に出てる気がするんですよね。僕、こないだ事務所のスクラップ記事を分類ごとに整理して、ファイリングしたんで、ひょっとしたら見つけられるかも知れませんよ」
僕の提案に、師匠は賛同した。
「よし、手分けしよう。そっちはそっちで探してみろ。私は三好のアパートに戻って、もう少し周辺を探る」
師匠が自転車を持っていた方がいいだろうということで、僕は歩いて小川調査事務所に戻ることにした。
「おい、これ持っていけ」
師匠が紙を渡そうとする。首吊り死体の霊をスケッチしたものだった。かなり上手い。本当に器用な人だった。
「大丈夫です。僕だって見えましたから」
変な自尊心で断ろうとしたが、「いいから持っとけ」と押し付けられた。
「じゃ、後で」
師匠と別れ、僕は歩き出した。
事務所に着くと、小川所長がデスクに座ったまま居眠りをしていた。
これでかつては大手興信所のタカヤ総合リサーチの敏腕調査員だったというのだから、本当かと疑いたくなる。
僕は新聞記事のファイルが詰まった棚を眺めて、そこから『事故・自殺・変死』という分類のものを抜き出した。そして自分のデスクでそれを広げる。
この事務所を開設した数年前からのものが多かったが、それ以前のものもある。所長が個人的に収集していたのだろうか。『自殺』というインデックスを貼った項目があり、そこに地元で起こった自殺に関する報道記事が集められていた。所長の指示で僕が整理したものだ。労働が報われたような気になる。
しばらくファイルをめくっていると、小さな記事に目が留まった。

『○○日午後1時ごろ、○○市下内田の会社員、田岡章一さんの次女、早苗さん(17)が、自宅アパートで自殺しているのを家族が発見し、119番通報した。警察では事件性はないものとして動機などを調べている』
 
これだけの記事だった。しかし、その横に添えられていた顔写真に僕の目は釘付けになった。あの首吊り死体の霊だ。間違いない。
念のために師匠が書いたスケッチを見たが、特徴を良く捉えている。同一人物に違いなかった。
ただ、生きていたころの彼女は、モノクロの紙面のなかで学生服を着て微笑んでいる。あの嫌に暗い部屋で見た、生気のない表情とは違う、可愛らしい笑顔だった。
新聞は地元紙の夕刊で、当日昼の出来事だったので、恐らく入稿ギリギリのニュースだったのだろう。自殺の様子など、詳細は不明なままだ。翌日以降に後追い記事がないかと思ったが、そのスクラップには閉じられていなかった。
日付は5年前の今ごろだった。
田岡早苗。生きていたら22歳くらいか。名前がわかった。これは大きな収穫だ。
僕は興奮して三好の家に電話を掛けた。番号は依頼の契約書に書いてあった。
「はい、もしもし」
三好が出たが、師匠が近くにいたので呼んでもらった。
「わかりましたよ! どこのだれなのか」
記事の内容を説明すると、師匠は怪訝そうな声を出した。
「下内田? ここは岩田町だぞ」
指摘されて気づいた。そういえばそうだ。
もう一度記事を読み直す。
『下内田の会社員、田岡章一さんの次女、早苗さん(17)が、自宅アパートで自殺……』
そうか。自宅アパートという言葉で誤解したが、早苗さんは実家から出て、岩田町のあのアパートで一人暮らしをしていたのではないだろうか。確かに、あの三好が住むアパートは単身者向けで、家族が住むには狭すぎるだろう。
そう説明すると、師匠は「不正確な記事だな」とぶつぶつ言いながらも「よし、こうしよう」と提案した。
「岩田町のアパートがあくまで田岡早苗の一人暮らし先だったなら、下内田にはまだ家族が住んでいる可能性が高い。父親の名前もわかっているし、広い地区じゃない。そのあたりでちょっと聞き込みをしたら家はわかるだろう。今日はもう日が暮れるから、明日朝から行ってみよう」
その言葉に顔を上げると、通りに面した窓からいつの間にか夕日が射し込んでいた。
小川所長は机についたまま、まだ寝ている。なんの夢を見ているのか、やけに嬉しそうな寝顔だった。
「今日はもう帰っていいぞ。ご苦労だった」
師匠からそんな言葉があった。
電話を切って、今日あったことを考えてみる。
幽霊が出る、というアパートに行き、実際にその幽霊を見るだけでなく、それがどこのだれなのか探し当てたのだ。こんなことができる興信所がほかにあるだろうか。
それを思うと、その一員であるということが無性に誇らしかった。



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