100%の管理
ドライブから帰宅。
車のキーを指定のフックへ引っ掛けながら、ミュールを脱いで玄関へ上がる。
足の裏を伝わるひんやりとした感覚に、我が家に着いたという実感が湧く。
「お疲れ様です、雪耶さん」
「伊織さんこそ」
いつからか二人の楽しみになっていた二人きりのドライブ。
部下として自分がやるのが当然だと言ってはばからない伊織さんを何とか宥めすかせて、行き帰り交代で運転を担うことに決めていた。
ちなみに今日の担当は、行きが伊織さん、帰りが私だ。
ソファーに身体を預けるなり、束ねていた髪の毛を解く。
潮風を浴びたせいか、やはり少しぱさついてしまっている。
手ぐしも思うように通らない髪を、伊織さんは少し撫でてから引き寄せ、私の唇を柔らかく舐めてクスリと笑った。
「しょっぱいですね」
「…お風呂、入りましょうか」
言ってから気付く。
私は今とんでもないことを口走ってしまった。
(入りましょうかって何だ、私…!)
「入ってきます」でもなく、「入ってきて下さい」でもない。
「入りましょうか」
何の意図もなく発した言葉だが、これは一大事だ。
それを顕著にあらわすのが、他でもない伊織さんその人。
切れ長の目を見開いて固まってしまっている。
「違うんです、あの、お先にどうぞ伊織さん」
「雪耶さん」
「あ、えっと何だったら私から入りますね、すぐ上がりますから」
「雪耶さん」
「…はい」
見る間に妖しく細められた瞳に、素直に返事をしてしまう。
言い方は悪いかもしれないが、今の私は正に蛇に睨まれた蛙そのものだ。
カエルは好きだが、私自身がそうなりたいと思ったことは微塵もない。
「入りましょうか、一緒に」
嬉々とした様子で、熱を帯びた頬を撫でてくる指。
こうなってしまってはもう、最後まで素直に従うしか道はない。
「…はい」
「ふふ、久しぶりですね、二人で入るのは」
私の額にキスをしてから立ち上がり、伊織さんはクローゼットへ向かった。
迂闊な発言を改めて後悔していると、着替えを手にして戻って来た伊織さんが急かすように私を呼んだ。
「さ、雪耶さん」
「…はい」
にっこりと微笑む彼女は、ご丁寧に私の着替えまで揃えて来てくれたらしい。
これから浴室で起こるであろう出来事を考えると、自然と溜め息が漏れてしまった。
この人に抗うなんて初めから、私には不可能なことなのだ。きっと。
土曜日、23:47
(あれ、私の下着は…?)
(あぁ……今夜は必要ないかと思いまして)
(……)
※結局日曜日は家に籠もりっぱなしになる訳ですね、わかります。
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