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100%の管理
久々のドライブ。

ある晴れ渡った休日。ドライブには最適の一日だ。
しかし考えていることはみんな同じなようで、先日ガソリンスタンドでくまなく磨かれた愛車は、その性能を生かすことなく大渋滞の最中でくすぶっていた。




広い青に辿り着いたら




「…動きませんね」
「…そうですね」


手にしたコーヒーは水音一つ残しておらず、私は黙って缶ホルダーに戻した。
そんな様子に気付いたらしい彼女は、自分のバッグから小さなペットボトルを取り出して言った。


「お茶ですけど」
「あら、恐れ入ります」


ぬるくなった緑茶は、それでも私の喉を爽やかに潤す。
飲み口を拭って返そうとするも丁度動き出した車列に気を取られ、アクセルペダルを浅く踏む。
その間に、ペットボトルは口紅が移ってしまったまま彼女にあっさりと奪われた。


「すみません、口紅が」
「いいえ」


彼女は気にもせず、そのままそれに口を付ける。
口紅の僅かな油分を感じたのか、そっと唇を指でなぞる仕草が実に艶めかしかった。

それを横目で覗いていると、彼女がふと何かに気付いた。
つられてそちらに視線をやれば、彼女が目に留めたのは斜め前方の黒いスポーツカーらしい。
乗員は若いカップルのようだが、この渋滞に痺れを切らしたのか前方注意そっちのけで熱いキスを何度も繰り返していた。


「あらまぁ、お若いですねぇ」


彼女は口元に手を当て、くすくすと笑いながら茶化す。
若いと言うより、何とも子供じみた彼らの行動に私は呆れた溜め息を吐いた。


「事故を起こさなければいいですが」
「そうですね、気を付けて貰わないと」


案の定再びゆるゆると動き始めた車列に気付くのが遅れた彼らは、後ろの車にクラクションを鳴らされていた。


「私も」


ふいに彼女が口を開いた。
後に続く言葉が全く想像出来ず、私は短く返事をしてそれを待つ。


「着いたら、してもいいですか?」


あのカップルにあてられたのか、それともずっと我慢していたのか。
どうやら彼女は私とのキスをご所望らしかった。


「…ほっぺに」
「ほっぺでいいんですか?」


珍しく大胆な発言をしたかと思えば、それが相当恥ずかしくなったのか今度は急に控えめなお願いへと変わる。
しかしいずれにしても、私は口元が緩むのを抑えられなかった。


正直なところ、私としてもこの生殺しのような状態には些かげんなりしていたのだ。
そんな中、絶妙なタイミングで火を点けられてしまった私は、同時に苛立ちに満ちた心が晴れていくのを感じた。

月並みな例え方だが、今日のこの空のように。
その柔らかな髪に、頬に、唇に、触れられるまでにはまだもう少し時間がかかるにも関わらずだ。


「…ご想像にお任せします」
「ふふ、楽しみにしてますね」


目を細めた先に、目的の料金所の看板が見えた。
あそこを抜けて暫く走れば、きっと海が見えてくるだろう。

そしてようやく、貴女に触れることができる。








※雪耶:渋滞→我慢
伊織:渋滞→苛立ち←いちゃつけない

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