100%の管理 from.Iori 世の中下らない人間ばかりだ。 正直なところ、自分が不美人でないことは自覚しているし、スポーツもそれなりにこなすことが出来る。 これらは運良く与えられたものであると解釈し、両親への感謝の念が強い。 しかし学問に打ち込むということ、これは個々の努力次第でどうにでもなる筈。 それを秀才だなんて祭り上げる人々がまるで理解出来ないでいた。 完璧であろうとしたことなどない。 生きる上で当然のことをしてきたまで。 好みの相手?理想の結婚? こんな質問をする方もこの質問自体も馬鹿げている。 敢えて答えてあげましょうか、貴方達は黙り込んでしまうと思いますけど。 もしも私程度の生き方を完璧だと呼ぶのなら、私はもちろん完璧以外に興味はない。 つれない、冷たい女だと言われ続けて来たことに何の文句もない。 しかし彼らが、今の私を知ったらきっと驚くだろう。 「おはようございます、伊織さん」 「…おはよう、ございます」 扉を開けて真っ先に目に入ったのは、何とも珍しい光景だった。 副社長はティーポットに湯を注いでいた手を止め、こちらを振り向いて微笑んでいた。 本日、社長が海外出張に向かわれるにあたって直前に組まれた早朝会議。 普段は共に出勤するのだが、家族会議のようなものだから一人で行かせてくれと私を諭して、彼女は先に家を出ていた。 会議が本当にあっさりと終わったことは、出勤時フロントの友人に聞いていた。 従ってもう副社長にいらっしゃるであろうと思っていたが、まさか紅茶を淹れて待っていて下さってるとは思わなかった。 「いきなりですけど、これ」 差し出されたのは、某有名洋菓子ブランドのロゴが入った小さな箱。 バレンタインデーである今日の為に、彼女が用意してくれたものらしい。 「まぁ、ありがとうございます」 「良かったら今、開けてみて下さい」 彼女にしては珍しく気が早いが、後に続く言葉にその理由はあった。 「今朝はゆっくりできなかったでしょう?今日も遅くなりそうですし。だから今少しだけ、お茶しませんか?」 確かに、せっかくのバレンタインデーだ。 彼女からのチョコレートと共に暖かい紅茶を頂く。仕事にも支障はないぐらいささやかな時間だが、何とも素敵な贅沢ではないか。 「いいですね。では、私からも…」 「あ、ありがとうございます!」 揃いのカップを二つ並べてくれた彼女に、当然の如く用意していたチョコレートを手渡す。 ごくごく嬉しそうに顔を綻ばせたのにつられて、自然と笑みを浮かべてしまう。 そんな私に細い腕をそっと回して柔らかく抱き締めてくれる、私だけの可愛い人。 他人になど興味はなかった。 理想の相手など考えるだけ無駄だと思っていた。 いや、今でもそう思っている。 ただ“真泉雪耶”という存在に、私はどうしようもなく惹かれているのだ。 理由などとうに分からなくなってしまうぐらい、私は彼女に夢中だと、いうことだ。 ハッピーバレンタインデー、最高にして最愛の上司へ ※両性愛?同性愛?彼女にとって問題ではない。真泉雪耶がいればいい。 [戻る] |