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100%の管理
社員は大切に。

午後の重役会議は無事に終わった。
明日は今回の企画における担当社員の皆さんも含めたプレゼン。
自然と気を引き締めた私の手を、伊織さんの掌がそっと包んだ。


「お疲れ様です」
「…ありがとうございます」


意気込んで強張った肩が気持ちよく緩んでいく。
少々照れてしまうが、暖かなその手を柔らかく握り返した。

すると角を曲がって来た集団が、私を見るやいなや甘い笑顔を振りまいてきた。
嫌なタイミングに、とくんと心臓が跳ねる。


「副社長、お疲れ様ですぅ〜」
「お疲れ様で〜す」


お年頃の女性(と言っても私より年上だろうが)特有の声色を響かせ、私の前に集まった女子社員の皆さん。
どちらからともなく、繋いだ手は離される。


「重役会議だったんでしょう?」
「そうなんです」
「お昼ご飯は召し上がりました?」
「えぇ、簡単にですけど済ませました」


私がどうも苦手としているBABY DOLLの香りにくらくらしながらも、ここは勿論笑顔で応対する。
だけど妙に冷たく風が通り抜ける掌が、少し寂しい。

そんな中、「素敵ですね!」と私の時計に触れた方が、一瞬言葉を詰まらせた。
彼女が恐々と視線を向けた先は私の隣。つまり伊織さんだ。
私も(とても嫌な予感がしたが)ちらりと横を盗み見る。

伊織さんも笑顔だった。心底美しいと感じる笑顔だった。
だがしかし、目が笑っていない。

恋人のこういったただならぬ様子に気付かないほど、私は子供でも鈍感でも天然でもない。


「伊織さん、行きましょうか」
「えぇ」


即答した伊織さんの笑顔は、さっきまでの圧力が嘘のように穏やかだった。
…筈だ。




伊織さんによって副社長室のドアが閉められた音は、妙に重く感じられた。
気のせいだと信じたい、が、きっとその期待は裏切られる。

何故ならば私はこの音を、何度となく耳にしているから。
そしてその後どういった展開になるのかも予測できてしまう。
だからこそ私は今、長年苦楽を共にしてきた筈の彼女が素直に恐ろしい。


待って下さい伊織さん、勤務中に内鍵まで閉めてしまうなんて。
伊織さん、私がプレゼントした右薬指の指輪も外すのですか。
あの伊織さん、顔が、顔が近いです。


「ご、ごめ、んなさ…い?」
「疑問形ですね。無理もありません。だって雪耶さんが悪いんじゃありませんもの」


ならどうして?と苦し紛れに問い掛けようとした唇を指で制し、妖艶に微笑む私の秘書はこう言った。


「…私の気が済まないから、というだけの理由です」




その秘書、理不尽につき。




あぁ、かなりお怒りですね伊織さん。
や、唇つねらないで…痛い…。








※日記のスーパー適当落描きでのネタ。

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