拍手ログ エリートと葛藤。 「私は、伊織さんの言うことはきちんと聞けますよね」 唐突な言葉に振り返ってみると、ソファーで何やら唸っている我が上司。 「そう、ですね」 「それなら私に、今回そのコートは諦めろって言って下さい!」 言うやいなや彼女は、開いていた雑誌から大袈裟に顔を逸らして両目を覆う。 「…は?」 「早く!私の心が完全に傾かない内に!」 なるほど、とりあえず意図は把握できた為私は彼女に向き直って言った。 「雪耶さん、今回はそのコート、諦めて下さい」 プライベートでも私はついつい“副社長”とお呼びしてしまうことが多い。 勿論今回は抜かりなかったが… 「…ッあーダメだぁ…」 がっくりと肩を落とす彼女。やはり諦めきれないらしい。 「もうお買いになれば宜しいじゃないですか」 「ダメです。私今年スプリングコート既に二枚買ってしまったので」 一企業の副社長とは少しの浪費など問題ない身分な筈。 しかし溜め息を吐いて頭を抱える彼女は、どこをどう見てもごく普通の女子大学生だった。 (そこがまた可愛いのだけれど) ※かなりの慎重派。 [戻る] |