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柔らかな束縛
不安な夜。

鳳絹華は完璧と呼ぶに相応しい人物である。

彼女を知る者が聞けば、十人中十人が首を縦に振るだろう。


美しい容姿、常にトップクラスの成績、生徒会長を務めるほどの人望。
口を開けば透き通った声、筆を走らせればお手本のような字。
幼い頃から叩き込まれたセレブとしての礼儀作法に、更にはコンクール上位の常連となる程のピアノの腕前。


完璧だ。誰もがそう言って疑わない。
勿論ボクだって頷くだろう。

彼女が、それを望んでいる場では。




「廻、ごめんなさい」


絹華はさっきからそればかり繰り返して、ボクの胸に縋りついて泣いている。
長くて綺麗な髪やいつも皺一つない制服が乱れることさえ気に留めず、子供のように小さくなっていた。


本当、は。
絹華はとてもとても弱い女の子だ。

繊細で非常に不安定で、それなのにいつも気を張り詰めている分、一度崩れるとこんなにも脆い。


「怒ったでしょう?ねぇ、お願いだから」


完璧と称されるものを、絹華は充分過ぎるほど持っている。
彼女は人前ではそれを決して揺るがせない。
由緒正しき大財閥の一人娘として、彼女は常に完璧でいなければならないから。

ボクもそれを重々承知している。
だから彼女が“完璧なる鳳絹華”を望み、そうであろうとしている間は、周りと同じく“完璧なる鳳絹華”に対して賞賛を与えるのだ。


「嫌いに、ならないで」


この“ただの鳳絹華”は、ボクだけしか知らない。知らなくていい。
ボクの前で笑い、ボクを思って怒り、ボクに縋って泣き、ボクのために壊れてくれる、可愛い人。

救いを求めるようにキスをねだる唇を、そっと自分のそれで塞ぐ。
狂気じみた征服感が、ボクの背中を駆けずり回った。


「廻…」


8年間掛けて培ってきたバレーボール選手としての自信と、17年間掛けて与えられてきた家族からの愛情、


「貴女がいないと私…」




揺るぎないものなんてそれしか知らなかったこのボクが、




彼女と出逢ったたった2年にも満たない時間の中で手に入れた、ボクにだけ許された特権。









※気さくで可愛らしいバレー部のエース?とんでもない。

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