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柔らかな束縛
大浴場を独占。

寮施設内の大浴場は、寮生に対して24時間解放している。
ボクと絹華は混雑しがちな時間を避けて入浴してはいるが、やはり何人かとは被ってしまうもの。
そのためいつもは一通り済ませたら、二人してさっさと出てしまうのだ。

それが今日は運良くこの大浴場に二人きり。
普段の慌ただしさを微塵も感じさせないほど、今のボク達は寛いでいた。


「こう広いと、月並みだけどアヒルを浮かべたくなるね」


ボクはふと、何の気なしに呟いた。
我ながら子供じみた発想に呆れられるかとも思ったが、意外にも絹華は微笑んでくれた。


「アヒルも幸せでしょうね」
「ふふ」


何だかとても可愛らしい台詞に、自然とボクの頬も緩む。
(うんきっと、幸せだと思う。今のボクと同じように)

絹華の陶器のような白い肌は、じっくり温まってくれたのかほんのり桜色に染まっている。
それをとてもとても美しく感じたボクに一つの考えが浮かんだ。


「ピンクのアヒルが欲しいな」


絹華は意外だとでも言うように、二,三度まばたきをして聞き返した。


「ピンク?」
「桜色ね」
「それはまた…どうして?」


多分彼女は、以前ボクが雑貨屋で目にした色とりどりのアヒル達に対して「黄色以外は邪道だ」と言ってのけたのを覚えているのだろう。
もっともあの時のアヒル達は、ショッキングピンクを始めとした極彩色で固められていたのだが。

不思議そうにこちらを見つめる絹華の頬に手を伸ばすと、ボクはわざと真面目な顔をしてこう答えた。


「絹華のほっぺみたいな色したアヒルに、絹華号と名付けて可愛がる」


絹華は一瞬だけ目を丸くしたかと思うとすぐにそれは形のいい弧を描いて、浴場には笑い声が響く。
つられて笑いながら離れようとしたボクの手を捕まえて、彼女はそっと唇を寄せてから湯の中へと放した。


「じゃあ私も、桜色の廻号を買わなくちゃ」
「ボクも桜色?どうして?」


ボク自身のイメージとしては、桜色はなかったのだけど。
そうだな、例えば水色とかオレンジとか、そんな色を口に出すかと思っていた。


「やぁね、廻のほっぺも桜色よ。とっても綺麗な」


言いながら絹華はボクの頬に手を添え、その熱を確かめるように優しく撫でた。
そんなことされたら、ボクの桜色はもっともっと濃くなってしまうのに。


「…熱い」
「のぼせた?」
「分かってるくせに」


意地悪な問い掛けと意地悪な掌に、とうとうボクの吐く息さえ熱い。
それすら飲み込んでしまうみたいにして、絹華は深く唇を重ねてきた。




そして広がる桜色




そこにボクの全てが溶けていってしまいそうな錯覚。
ボクは何だか無性に怖くて、だけどやっぱり幸せで、彼女の背中に腕を回してきつく抱き締めた。








※廻もバレー部だしあまり日焼けはしてないんですよね。

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あきゅろす。
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