柔らかな束縛
容赦ない北風。
この寒さに対して悪態を吐いて歩く少女に、私は苦笑いした。
「当たり前でしょう。そんなにスカートを短くして」
オーバーニーソックスを履いてはいるものの、彼女のセーターの下から覗くスカートの面積は明らかに小さい。
廻は北風に吹かれて赤みを帯びてしまっている太股(彼女は「絶対領域と呼びなさい」と言う)を軽く叩き、口を尖らせた。
「短い方が好き」
「そう」
私もそっとその部分に触れてみた。
彼女の絶対領域とやらすっかり冷えてしまっていて、指の背で少し撫でると僅かに粟立っているのを感じた。
「じゃあ私も短くしようかしら」
「絹華が?」
「だって」
ぎょっとしたような表情で見つめられる中、私はにっこりと笑って答えた。
「短い方が好きなんでしょう?廻は」
ほら、赤くなった。
我ながら意地が悪いとは思う。しかしこういう反応が面白くてたまらない。
彼女もからかわれていることは感づいているだろうが、私はこれをやめられない。きっとこれからも。
「う、あー…そういうことを言う」
「何?」
「いや。それよりね」
廻は毎日きちんとワックスでスタイリングしている髪をくしゃくしゃといじった。
誰が見ても照れ隠しと分かるが私は敢えて何も言わない。
「絹華は絶対、今の長さぐらいがいい」
「あら、どうして?」
彼女は私のスカートに目をやるとそれを僅かに摘んで、そしてすぐに離した。
「そっちの方が似合うじゃない。それに天下の絹華お嬢様が、お御足を安売りしてはいけません」
「何だか矛盾してるわ」
それに“お嬢様だから”と言うならば、大会社を営むご両親のもとに育った廻も同じだ。
しかしそんな訳の分からない理由への反論をするより先に、廻の口が開いた。
「いいじゃん。その脚はボクにだけ見せてくれれば」
そうして、繋がれる手。
にぃ、と笑うその顔は、悪戯っぽさに満ち満ちていて。
不覚にも私は自分の頬に集中していく熱と、背中に寒さとは違う感覚を感じた。
あぁ、これだからやめられない。
彼女との恋は。
(水泳の時は出ちゃうわよ)
(…揚げ足取らないで)
※いじりいじられまたいじる。
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