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最新非科学入門
雪も降らない今宵。

何気なく吐いた溜め息に、即座に曇ってみせる窓ガラス。
私はそこに、つい今しがた解き終えた化学反応式を指で書き記してみる。
ぼんやりと映るその動作はまるであの人気ドラマの天才学者ようで、書き終えてから少し笑ってしまった。


「まじないか?」
「そんな訳ないでしょ」


この美しく無駄のない図式を、どうしてそのような下世話で非科学的なモノと結び付けられるのか分からない。
思わず漏れ出た溜め息はやはり直ぐさま窓ガラスに水蒸気の粒を張り付かせる。

ぼやけてしまった反応式から彼女の興味はとっくに失せていた。


「勉学は終えたか?」
「勉学に終わりはないのよ」


すん、と鼻を鳴らして擦り寄る楪。
背が高く手足の長い彼女の腕に、私は後ろからすっぽりと包まれた。


「だが帳面は閉じたな」
「宿題は終わったからね」


あまり現代用語に馴染みのない彼女には違いなど分かる筈もなく、そしてそもそも考えるつもりもないのだろう。
そなたは賢いのう、とだけ言って、毛並みの良い耳でくすぐるようにしながら頬擦りをしてきた。


「何時?」
「む?」
「今、何時?」


当然の如く組み敷かれて、しかし何故か今日の私はどこか落ち着き払っていた。
私に覆いかぶさる格好のまま楪は、まだ慣れないらしいデジタル表示の時計を睨みつける。


「零零、零……二、とある」
「0時2分ね」


両腕を首の後ろに回し、こちらに向き直った顔を素早く引き寄せる。
そのまま小さく唇を触れさせてからすぐに離した。


「メリークリスマス」


傲岸不遜な化け狐が珍しく面食らったような顔をしているのが可笑しくて堪らない。
あと数秒後には、積極的とも取れるこの行動に楪はいやらしく笑みを浮かべて応えてくるだろう。

もう少し、あと一度だけで構わないから、ただの人間である私がこの化け狐をからかってみたい。

そう思った私は、彼女が状況の把握を完了しきる前に、今度は見開いてもまだ細いその目元にひかれた紅の上から口付けた。




聖夜の魔力なんて勿論信じていないけれど




(12月25日って特別なのよ、世間的にはね)
(そうか……忘れぬぞ、有栖)








※勿論キリストを知らない狐。

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