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闇の中から
第三話
─第三話・かいま見せた陰り─

「お休みなさーい」

ニリスが、布団をしっかりとかぶる。

「ちょーっと待て!」

大志はその布団を勢いよくはぎ取る。

「何すんのよ!寒いでしょ?!湯冷めしたらどうしてくれんのよ!」

ニリスはあの後、大志の家で食事(普通の人間と同じ)をし、
テレビなんかを見ながら存分にくつろいだのち、
風呂に入り、
断りもなく大志のパジャマを着て、
その流れでいつの間にかニリスは完全に泊まりの体制が整っていた。
大志は百歩譲ってそこまでは許した。
いちいちツッコミを入れていた事は言うまでもないが。
しかしニリスが今取った行動はさすがに許す訳にはいかない。

「なんでお前は俺の布団に当然の様に入ってるんだ!」

今のニリスの姿はと言うと、男物の大きなパジャマ。
ニリスには十分過ぎる大きさで、かなりダボダボしている。
しかも風呂から上がったばかりで暑いのか、前のボタンは二つ目まで開けている。
そんな格好をした、(性格を気にしなければ)かなりの美少女が同じ布団で寝ていれば、健全な青年男子が耐えられる筈がない。
いや、大志なら耐えそうだが、少なくとも気が散漫してまとも眠れそうにないのは確かだ。

「だって布団があるのここだけだもん」

「確かにそうだが一緒に寝る訳にはいかねぇだろ」

こういう細かい(?)所を気にするのが大志だ。

「じゃあ大志はその辺で寝なよ」

ニリスは大志の部屋の床を指さしている。

「俺が風邪をひく。お前はここで寝てていいから、俺は毛布でも持って行って一階のリビングのソファで寝てくる」

そう言って、部屋を出ようとドアノブに手をかけた時、

「待って、行かないでっ!」

ニリスは悲しそうな目をしていた。
そこにはうっすらと涙が浮かんでいる様に見えた。
その表情はとても真剣なものだった。

「え?」

大志は思わず固まってしまう。

「ねぇ大志、お願い。
今日だけ、今日だけでいいから一緒に寝て!…お願い」

「あ、ああ」

大志は何故か少女の願いを受け入れたくなっていた。
いや、そう思っていると自覚する前に、既に返事を返してしまっていた。

「ありがとう!大志っ」

その時のニリスの顔はただの少女の笑顔だった。
結局二人はニリスの希望通り同じベットで寝る事になった。
真っ暗な部屋には時計と心臓の鳴る音しか存在しないかの様だ。
いつの間にか大志の左手にはニリスの右手が繋がれている。

(あ〜っ、どうして一緒に寝るなんて言ってしまったんだ)

大志は案の定眠れないでいた。
しかしそれは大志だけではなかったようだ。

「ねぇ大志、まだ起きてる?」

出来るだけ平静を装って答える。

「ああ」

「じゃあちょっとだけお話しよ?いいかなぁ?」

「別にいいけど。
でも話すって何を?」

「私、明日から大志と同じ学校に通う事になったから」

「今日は疲れたから、明日の朝改めて驚く事にするよ」

ニリスがクスリと笑った。

「うん、わかった」

大志はさっきの出来事から、ニリスがこうして笑っていてくれる事に妙に安心していた。

「でも大丈夫なのか?学校朝からだぞ?吸血鬼って日の光を浴びたら消えるんじゃ…」

「それは大丈夫。能力使って擬人化していれば日の光は平気。
それに数は随分減っちゃったけど、私達みたいな真祖と呼ばれる種族は亜種と比べて力が強いから、
一般的にヴァンパイアが苦手としている物は、嫌いだけどせいぜい不快感程度で済むんだ」

「へぇー、じゃあニンニク料理とかも大丈夫?食えるか?」

「ふふっ、変な事聞くね。
固まりとか、連日とかは嫌だけど大丈夫だよ。
ありがとう。
それってこれからもここに居て良いって事だよね?」

いつの間にか、二リスは大志にとって重要な存在になっていた。
ほんの数時間共に過ごしただけなのに…。
だけど感じてしまったのだ、二リスの温もりを。
隣に人がいるということの暖かさを。
父がアメリカへ渡ってから、大志はこの広い家に一人ぼっちだった。
自分が選んだ事ではあったが、寂しく無い訳がなかった。
二リスと過ごした数時間が、自分でも驚いた事に何故かとても楽しかった。
一緒に食卓を囲んでいた時間が楽しかった。
テレビを見てダラダラするだけの二リスを怒っている時間が楽しかった。

「お前、帰る家は?」

ニリスが少しビクッとした。

「な、ないよ」

どうやら何かありそうだ。
しかし大志は深くは追求しない事にした。

「そっか。なら仕方ないさ。
ここに住めばいい」

ニリスの顔はパアっと明るくなった。

「ありがとう」

闇で大志にはニリスの顔が見えないが、声の様子でなんとなくそれを感じ取っていた。

「明日…」

「ん?」

「明日一緒に学校行くんだろ?だったらそろそろ寝ろ」

「うん。
おやすみ」

「ああ」

ニリスは、大志の手の温もりを感じながら眠りに落ちていった。

(はぁ〜、そういやこいつが来た時、妹とか幼馴染みとかありえねー事考えてたけど、実際はそれと比べ物にならない程ありえねー奴だったな……。
寝よ)

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あきゅろす。
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