闇の中から
第二話
─第二話・吸血鬼について─
(え…と、俺どうしたんだっけ?)
自室のベットの中で大志は目を覚ました。
(あ、そっか。
俺は夢を見てたんだな?しっかしあんな夢を見るなんてバカげてるよな。
あんな事が現実に…)
大志が自嘲気味な笑みを浮かべながらそう思っていると、気付きたくない事に気付いてしまった。
自分のものではない寝息が聞こえる。
まぁ聞こえてる時点で自分のものではないが…。
しかし世の中には、自分のいびきに驚いて目を覚ました事がある人がいるとか…、どうでもいいけど。
とにかく聞こえる。
大志は、そら耳である事を願いながらゆっくりと首をそちらに向ける。
自分が寝ていた布団の中には、やはりもう一人いた。
その少女は幸せそうな寝顔で、たまに
「ぅ…、んっ…」
などといった寝言の一歩手前の様な声を発している。
「ゆ、夢じゃなかった」
大志は激しく落胆する。
「とりあえず、なぜ俺が寝ていたのか思い出せ」
自分で自分に話しかける。
(えーっと、確かあの後──
「美味しそうな…血?」
大志は思いがけない、あり得ない言葉を聞き、冷や汗をかきながら聞き返した。
「そ。血」
可愛い笑顔には似合わない台詞をニリスはサラッと言ってのける。
「私、ヴァンパイアだから」
「それって、その、つまり…、吸血…鬼?」
少女は笑顔を返して肯定した。
「ま、そういう訳ですよ。
では早速、いただきまーす」
──俺、噛まれたのか?)
ニリスは寝ていて答えない。
代わりに首筋に二つ内出血があり、押さえると少し痛かった。
(噛まれたんだろうな。
けど内出血だけだな。
皮膚には傷一つないぞ?なぜだ?)
「お答えしよう」
隣で寝ていた筈のニリスが、いつの間にか正面に座っている。
「!!?…び、びっくりさせんな!」
「大志が勝手に驚いただけでしょ?」
ニリスは唇を尖らせている。
「大志は私達、ヴァンパイアについてなんにも知らないみたいだから、特別にこの私が教えてあげよう。
私達にとって必要不可欠な食料は人間の血液。
だから人間に嫌がられたら手に入れ難いでしょ?
人間は基本的に痛覚を嫌うから、血を吸う時に皮膚を歯で貫いちゃったら、私達にっても不利な訳よ。
それでヴァンパイアのながら痛みを感じはするけど、歯が皮膚を通り抜けるという事が可能になったのです。
でも抜く時に、ちょっとこぼしちゃったから内出血みたいになった訳ですよ。
実は私、人の血吸ったのさっきが初めてなの。
アハハ」
「は、初めて?!今までどうしてたんだよ」
「今までは必要なかったから。
人の体液が必要になるのは、成人になる時、それと成人になってる人達だけなの。
だから血を吸うのは私くらいの年齢以上の人達だけなのだよ」
「でもいくら人間が痛くないようにしても、さっきみたいに倒れるんだったら意味ないん
じゃ…」
「あ、それは安心していいよ。
さっきのは加減がわかんなくて吸いすぎただけだから」
「じゃあ俺は貧血で倒れたのか。
って事は俺今血たりてない?」
「だろうね。頑張って!一日一回は大志の血、貰うから」
大志は純真無垢な笑顔で、とんでもない事を言うニリスを見て人間ではない事を痛感した。
「そんなに度々吸われてたまるかーっ!」
「ぅきゃう!」
ニリスが耳を押さえながら飛び上がる。
「でもでもっ、大志の血を吸わないと私生きてけないんだよ?!」
「その前に俺が死ぬ。
それになんで俺限定なんだよ」
「さっき血を吸った時に契約したから」
大志はその、さっきの事をもう一度よく思い出してみる。
──
「いただきまーす」
ニリスの顔が大志の顔へと近づいてくる。
「ちょ、待っ…」
大志は、恐怖、不安、そして可愛い女の子の顔が接近している事で鼓動が高鳴る。
やがて互いの吐息を感じる程になる。
大志は思わず目を閉じた。
その数瞬後、カプッ。
大志は閉じた目を見開いた。
感じた事のない不思議な感覚。
「ンク…ンク…コクッ…」
ニリスの喉の鳴る音で、間違いなく血を吸われている事がわかる。
だんだん頭がクラクラしてきた。
(あ、やべっ…)
大志は必死に意識を保とうとした。
その時、今までの吸われる感覚ではなく、逆に何かが流れ込んでくる感じがした。
(な…んだ?妙に体が…火照って…、熱いっ)
そこで大志の意識は途絶えた。
──
「あれか!」
最後の、何かが流れ込んで来た時の事を思い出した。
「正解!私の唾液を大志に流し込んで、私を大志だけのモノにしたの!
そうすると、私は大志以外の人の血を吸っても栄養にならないけど、代わりに大志の血は普通に吸った時の三倍以上の効果を発揮するのさ!
それが契約」
「な、勝手な事しやがって。
とにかく俺の血はもう吸わせねえからな。
ヘタしたら出血多量(?)で死んじまう。
それよりお前、さっきから俺が考えてる事に返事したりしてるけど、それも吸血鬼の能力なのか?」
「ん?考えてる事って、大志全部口に出してたよ?」
「……あそ」
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