[携帯モード] [URL送信]

闇の中から
第一話
─第一話・元凶現る─

さほど都会でも田舎でもない町、守野(かみの)市にある守野高校。
その通学路である並木道を通って下校している少年がいる。
彼の名は城戸 大志(きど たいし)。
非行に走る事もなく特に優等生という事もない、割と真面目なごく普通の高校一年生だ。
ちなみに今は一人ではなく、小さな時からの親友と共にいる。
いわゆる幼馴染みである彼は天星 堅思(あまほし けんし)。
成績、運動、容姿、性格の全てに長けた完璧人間である。
男女問わず人気も高い。
そんな二人は寄り道もせずにまっすぐ家に向かっている。                                      

「じゃあ、また明日」

「おう」

二人は別れを告げそれぞれの家へ向かう。これは日常の風景。
どちらかが部活や用事のある時以外は大抵一緒に帰る。
二人とも家が近所なので、別れを告げてから十数メートルも行けばもう家の中だ。
大志は鍵を開けて中へ入る。

「ただいまぁ」

声をあげる。これも日常。

「おかえり〜!」

奥から女の子の声で返事が返ってくる。
しかもかなりハイテンションで。
これは非日常。
大志の母親は彼が幼少の頃に亡くなっており、父親は仕事の関係でアメリカへ渡った。
その際に、父に付いてアメリカへ渡るか日本に残るか選択を迫られたが、大志は日本へ残る事を望んだ。
英語は話せないし、住み慣れた場所の方がいいというのが理由だ。
そういう訳で大志は今までの家に残り、父から月々送られるお金で生活している。
ちなみに一人っ子。
それらの事から、彼の声に返事が返ってくるということはあり得ないのだ。

(ど、泥棒?!…が返事する訳ないか。
だとすると、実は俺には生き別れた妹がいた?…、まぁないだろうな。
ならば、引っ越しして会わなくなっていた幼馴染みが押しかけて来た?っていうか、俺に幼馴染みは堅思しかいない。
えっと他には…)

考える事数十秒。
他にも実は許嫁がいたとか、父がメイドさんを雇ったとか、様々な可能性を考えてみたが、全てそれぞれの理由で却下された。

(はぁ、まず現実にそんな事が起きる筈ないか)

大志は自分の頭を現実世界に引き戻し、声の主の正体を確かめるべく、息を殺し注意しながら声のした二階の自室へと向かう。
扉は閉まっている。
大志はまず聞き耳を立てて中の様子を伺う。
物音はしない。
既に窓から外へ逃走したのかもしれない。
それとも別の部屋にいるのかもしれない。
どちらにしろこの扉を開かなくては始まらない。
ゆっくりと開け始める。手には玄関にあった金属バットを握らせてある。
扉が45°くらい開かれた瞬間に、突然扉が勢いよく開かれた。
大志が少しよろめいた時に室内から何かが飛びかかってきた。

「おっかえり〜!待ってたよ、大志」

大志はゴンッと、扉と反対側の壁に頭をぶつける。

(い、一体何が?!)

とりあえず少しずつ理解していく事にする。

(頭が痛い。
頭打ったな。
重い。
何かが俺に乗ってる。
頭を打ったのはこれが飛んで来たからだな?んじゃこれは何だ?)

自分にしがみついている謎の物体に目をやる。

(…女の子。
さっきの声の主だな?年はおそらく俺とあまり変わらないな。
髪は銀色。
変わってるなぁ。
顔は…)

大志が顔を覗き込もうとしたら、その少女がそれより早く満面の笑みをこちらに向ける。

(えっと…、かなり可愛い)

そこで大志はある事に気付く。

「って何で俺の名前知ってんだよ!いやそれ以前に俺の家で何してるんだ!」

怒りをあらわにしている大志に、少女は不思議そうに、しかも自分のしている事がさも当然かの様に答える。

「何って大志の事待ってたんだよ?」

「ああそうか。
だがな、俺の疑問には何一つとして答えてないぞ!」

普段は割とクールな性格をしている大志だが、あまりに非常識な出来事に少し我を失っているようだ。

「もう!大志は一体何が知りたい訳?一気に言われてもわかんないよ!ちゃんと一個一個聞いてよね」

何故か大志が怒られている。
一度深呼吸をしてから始める。

「わかった。じゃあまずお前の名前は?」

「ニリス・ネイル」

「日本語上手いな」

「日本育ちだから」

「次は、えっと、どうやって家に入った?」

「この部屋の窓から。
鍵開いてたよ?不用心だな〜。
泥棒さんに入られるよ?」

「今まさに入られてる」

「え?嘘っ?!どこ?!」

ニリスのキョロキョロさせている頭を押さえながら言う。

「お・ま・え・の・事だ!」

言い終わる時に、頭を掴んでいた手でニリスのおでこを弾く。

「痛っ!私を泥棒なんかと一緒にするな。そんな下等なマネはしない!」

ニリスはおでこを押さえて、少し頬を膨らませながら言った。

「だが少なくとも不法侵入だ」

「うるさいなぁ。そんな事はどうでもいいでしょ?聞きたい事ってのはもういいの?」

「かなりどうでも良くない!
次の質問だ。
なぜ俺の家に不法侵入していた?」

「不法侵入じゃないもん。黙って先にお邪魔してただけだもん」

ニリスは頬を膨らませたままボソッとつぶやいた。諭すように大志が言う。

「それを不法侵入って言うんだ」

「大志さっきから小言多い!そんなに細かい事ばっか気にしてると早死にするからね!
さっきも言ったように、大志の事待ってたの!」

「余計なお世話だ。
次!なぜ俺を知っていて、俺を待っていた?」

「この付近一帯で大志が一番良さそうだったから。
後は大志の名前と家を調べて…」

「良さそう?」

「うん。
一番美味しそうな血を持ってるみたいだったから」

そう言った時のニリスの顔は満面の笑みだった。

[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!