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短編集
END
家に戻った俺は夕食をご馳走になり、通された二階の部屋から、貸して貰った写真片手に海を眺めていた。
「・・・本当に、何もない所だな」
窓からは波の音しか聞こえない。
日も落ちて、子供の声もしなくなった。
電灯も少ないので島も大半は暗闇に覆われてる。
この島の子供からあの浜辺をとったら遊ぶ所などほとんどないだろう。
「こりゃ、結構責任重大かもなっと?!」
その時、俺の目は浜辺に人影をらしきモノを見つけた。
「ビンゴ、かもな」
俺は急いで下に降り、裏口から浜辺に向かう。

俺が浜辺に着いた時、今まさに犯行が行われようとしていた。
時刻は午前0時半。
島の住人はほとんど寝静まっている。
俺はそのまま歩いて犯人に近付く。
犯人は必死に浜辺に何かを書いており、俺には気付いていない。
「よお、精が出るな」
俺が声を掛けると ビクッと体を震わせ、持っていた流木を砂浜に落とした。
俺は何も言わずに犯人を見つめる。
振り返った犯人の顔は、俺が予想したとおりの顔だった。
「・・・・」
犯人、俺と燐を昼間浜辺の端からずっと見ていた少女は、信じられないというふうに俺を見て固まっている。
(そういうリアクションするってことは、やっぱりなのかね〜)
俺が心の中で溜息をついていると、向うから震える声で話しかけてた。
「・・・あなた、私のことが、見えるの?」
それが決定打だった。
そう、俺がこんな探偵家業をしているのも、それで飯くっていけるのも、すべてはこの‘見える’おかげだった。
なんでも、俺には普通の人間が持っている五感とはべつに、幽霊、普通の人間には見ることが出来ないものを見ることができる第六感が備わっているらしい。
「―――なんで俺にこんな能力が備わったのかは不明だが、まあ。俺はこの能力を使って普通の人間は聞こえない、君達みたいな幽霊の声を聞く仕事をしてるっつうわけだ」
俺が説明を終えると目の前の少女、の幽霊は、まだ俺を信用しかねる目で俺を見つめている。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前は白峰礼偉季。君の名は?」

「渡瀬、美花(わたらせ、みか)」

「そうか、なら美花と呼ばせて貰おう。で、美花は俺に何を話したいんだ?成仏せずにこの浜辺に居続けて、しかも浜辺に何かを残してるってことは、伝えたいことがあるんだろう?」

「・・・本当に」
「ん?」

「本当に、私の話を聞いてくれるの?!」

いきなり美花が俺に詰め寄って来る。
暗く沈んでいた顔は、必死に俺を見上げそんな雰囲気は微塵もなかった。
今まで静かだった美花の突然の変貌に俺は驚きを隠せなかった。

「時間が、もう時間が無いの!!」





「あの、一体どうしたんですか?!こんな時間に浜辺へなんて。
まだ夜も明けてないのに!」

「君に見せなくちゃいけないものがある!そしてそれが、この事件の解決の鍵でもある!!」

「えええ?!」

俺は燐の手を引きながら浜辺に大急ぎで向かっていた。
ついさっきまで作業をしていたので砂だらけなのだがこの際勘弁してほしい。
早くしないと間に合わなくなる。

そして俺は燐を浜辺に連れて来た。 時間は午前4時46分。
日の出が近いのか、海面が明るくなっている。
良かった、ぎりぎりセーフだ。
「え、これって・・・」

「そう、これがあの模様の、正体だ」

そこには、砂浜いっぱいに書かれた文字―メッセージだった。

「これは、君に対するメッセージだ。いつも現れていたのはこれの半分だけだったのさ。 この浜辺は満潮になれば砂浜の面積は半分になる。
丁度今時だ。
だから俺は関を作って海水を塞き止めたってわけさ。 そのお陰で、今も全貌が見れるのさ」

「でも、どうしてこれが私へのメッセージなんですか?」

燐はまだ状況が理解できていないようだった。
不安そうな顔で俺を見上げてくる。俺は溜め息を一つ吐き、話を続けた。
「君は、もうすぐこの島を出て行くんだろ?」

「え?どうしてそれを・・・」

「・・・聞いたんだよ、渡瀬美花にね」

「え?う、嘘!だって美花は」

「そう、彼女はもうこの世にはいない。だが霊となって、今も此の浜辺に止どまっている」

「霊になってって、何でそんなことが解るんですか!?」

「俺にはあるんだよ。そういうのが解る第六感ってやつがな」

俺は興奮している彼女を宥めつつ、 この事件の全貌を話始めた。

「まず事の発端は君の友人渡瀬美花が去年死んだところまで遡る。 ・・・彼女は此所で、溺死した」

「はい。あの日は風が強くて、突然来た高波に、美花は」

俺と燐は、今は穏やかな波打ち際を眺めた。
今は穏やかでも、自然は時としてその牙を人間に向けて来る。

俺は話を続けた。
「普通ならそこで成仏するはずなんだが、何か強い執着心や心残り、怨念、恨みなんかがあると、人は死んだ後もその場に幽霊として居続ける事になっちまうんだ。
俺はそんな幽霊がちゃんと成仏出来るように、その霊が伝えたい事や心残りを聞いてやる仕事もしてる」

「じゃあ美花は、何がそんなに心残りなんですか!?どうしてこんな所に囚われたままなんです?!」

「・・・さっき言っただろ?この事件の鍵は君だって。つまり彼女は君の事が心配で成仏出来ないでいるのさ」

俺は彼女に構わず話を続けた。

「彼女は君に気付いてもらわなくても良かった。此所から見守るだけで十分だったんだ。 だが君は東京の大学に行くために、もうすぐこの島を離れてしまう。だから彼女はこの砂浜を使って、君にメッセージを伝えようとしたんだよ」

燐は砂浜に膝を着いた。
死んでも尚親友が自分を見守ってくれている事実に耐えられなくなったのかもしれない。 燐は砂浜に涙を落としながら、顔を上げずに、震えた声で俺に尋ねた。
「彼女、美花は、まだ此所にいますか?」

俺は隣に目線を移す。
美花は俺が話始めてからずっと、燐の前に立っていた。
泣き崩れる彼女を見て、なんとか慰めようと燐の肩に手を伸ばすが、その手は燐をすり抜けてしまった。

「ああ、居るよ。君の目の前に」

燐は、はっと顔を上げるが、彼女の目には映るわけもなく、見当違いの方を向いて、美花の名前を呼んでいる。
(こればっかりは、どうしてやる事もできない)
その時、世界が急に明るくなった。
俺が後ろを振り返ると、今まさに昇ったばかりの太陽があった。
朝日が、美花を透けて燐に降り注ぐ。
燐の視線は美花に固定されていた。
「み、美花?」

燐の口から有り得ない言葉が漏れた。

俺と美花は一瞬理解が追いつかなかった。

「り、燐?」

「見えるよ、私、見えるよ!!美花のこと、見えるよ?!」

燐は美花に触れようと手を伸ばすが、やはりすり抜けて届く事は出来ない。

「燐、私・・・」
「美花、私、貴方に言いたいことがあるの」

「な、何?」

「私、大丈夫だから。ちゃんと美花の気持ち、私に届いたから。だからもう、こんな所に居なくてもいいんだよ?!」

燐が泣きながら美花に気持ちを伝える。
こんな奇跡の時間いつまで続くのか解らない。
燐は一気にたてまくった。
「だから、美花、安心して、成仏して」

燐が言い終わり、美花は、ゆっくり頷いた。
美花のほほにも涙がつたう。

「うん、うん、うん」

美花は何度もしゃくり上げながら頷いた
そして俺の方に顔を向ける。

「本当に、ありがとうございます。 やっと燐に、私の気持ち、伝えることが出来ました」
「いや、俺は何もしていない。これは、君達が起こした奇跡だろ」

「でも、貴方が来てくれなかったら、私も燐も、たぶん会うことはなかったと思うから」
そうして美花は、俺に体ごと向き直り、

「だから、ありがとう。白峰さん」
俺に見せた笑顔は、とても輝いて見えた。










あの後、渡瀬美花は朝日に溶ける様に消えていった。 高峰燐は、以外にも引き止めたりはしなかった。
もう彼女には心配をかけたくないらしい。
俺達が砂浜を片付けている時に、燐の親父がテレビ局の連中を吊れてやって来て、まあ一悶着あったがそんなことはどうでもいい話だ。
こうして、今回の事件は幕を閉じた・・・はずだった。







みーんみんみんみんみーん。
突然だが、東京の夏は暑い。
アブラゼミの泣き声が木霊するコンクリートジャングル、そこかしこから吹いて来るクーラの排熱風、日光を照り返すアスファルトの道路。
この人が作り出した奇跡の森は、今日もせっせと地球温暖化を進行させる。
そんな東京のど真ん中の裏通りにある小さなビルの2階に俺こと白峰礼偉季の事務所はある。
だが、俺はいつも全開にしている窓を今日は締め切っている。
何故なら俺は、もう当分暑さには困らないだろうからだ。


「で、だ。君は一体何時まで居続けるきだ渡瀬美花!!」

「も〜、そんなに怒らないで下さいよ〜。ほら、私がいたら夏だってとても過ごしやすいじゃないですか〜」

結論から言うと、俺は今、渡瀬美花に取り憑かれている。
なんでも、成仏するときに俺の事が気掛かりだったらしい。
そして気がついたら俺に憑いていたそうだ。
全く迷惑極まりない。

「それに、こんなにかわいい娘に憑かれて、礼偉季さんも悪い気はしないでしょう?それに私のことは美花って呼ぶって言ったじゃないですかー」

頬を膨らませる彼女を見て、自分の中の彼女のイメージをかなり変更する。

「これが素の君か・・・」

「ふぇ?」

「いや、何でもない」

俺は机に突っ伏した。
これから俺は少女の幽霊を侍らせた探偵として生きていかなくてはならないのか?
そんな事を考えて、俺はますます憂鬱になる。
彼女、美花は俺の頭の上でまだなんか騒いでいた。
彼女は早く成仏してもらはなくてはならない、それが彼女の為なのだ。 そう考えながらも、この夏ぐらいならいいかな〜と思っている俺もいた。








表通りに、裏路地へと続く一本の交差点。
その入口に奇妙な看板があった。
そこには「生きた人間から死んだ人間まであらゆるトラブルをリーズナブルなお値段で、確実に解決します。
白峰探偵事務所、この道まっスグ!!」
と書かれていたそうな。

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