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短編集
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みーんみんみんみんみーん
突然だが、東京の夏は暑い。
アブラゼミの泣き声が木霊するコンクリートジャングル、そこかしこから吹いて来るクーラの排熱風、日光を照り返すアスファルトの道路。
この人が作り出した奇跡の森は、今日もせっせと地球温暖化を進行させる。
そんな東京のど真ん中、裏通りにある小さなビルの2階に俺の事務所はある。
俺の名前は白峰礼偉季〈しらみねれいき〉
職業は探偵。
自慢じゃないが今まで依頼は失敗したことがない。
まあ、仕事もほとんどないんだが・・・
みーんみんみんみんみーん

「あっち〜」

今日も今日とて依頼はゼロ。
電気代節約のためにクーラーを切って窓を開けてるが涼しい風なんかちっとも入ってきやしねえ。

「こちとら温暖化防止に貢献してるっていうのに、この仕打ちはねーんじゃねえのか」

独り言が事務所に寂しく響く。
このままじゃ本当に干からびるかも。
俺は机に足を投げ出し椅子に背中を預けながら窓から空を眺めた。
北向きの窓がこのときは嬉しかった。

「すみませーん」

誰かがドアを叩く音が聞える。
無視だ無視。俺はこれから体力温存の為に眠らなきゃなんねぇからな。

「郵便でーす。すいませーん」

「・・・・」

俺は仕方なくドアへ向かった。

「は〜い。今開けま〜す」

ドアを開けるとそこには当たり前だが郵便局員がいた。

「白峰探偵事務所ですね?速達ですのでサインお願いします」

「・・・」

「はい、確かに。ありがとうございました!」

手紙を受け取って中に戻る。
無駄に元気な好青年だった。
ああいうのがまだ残っているなら日本の未来も安泰だろう。

さっきの様に足を投げ出して手紙を見る。
何の変哲もない茶封筒。
光に透かすが剃刀や爆弾が入ってる可能性もない。
職業柄、こういうのをチェックする様になった自分が少し嫌になった。
封を開けて中身を取り出す。
何処にでもありそうな、ただの便箋。
ふと、読む前に差出人が気になった。
机に放り出した封筒を手に取り裏返す。

「・・・はあ!?」

そして俺はその場所が二度と忘れることが出来ない場所になるなんて、その時点では露ほども思わなかった。


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あきゅろす。
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