短編小説集 [4.] 中間テスト直後の週末を明けて私は学校に行った。 テストの初日のあの日、朝早くに彼と会ったから、私はいつもより早くに学校へ来て彼を捜した。 けど朝礼ギリギリになっても彼は来んかったから、一限目終了後の休み時間に呼び出すことにした。 一体何が起きるんやろ。 俺が森川詩織に告白してから丁度一週間。結局そのせいで中間テストは全て散々やった訳やけど。 とにかく今、俺はその森川詩織に、あの校舎脇の一本木の下に呼び出されてる。 あの「イヤや」ってのがあってから初めて顔を合わせてるから、何を言われるか正直ちょっと恐い。 「春賀君…やんね。突然呼び出してごめんね」 「いや、別に…」 俺は名乗った覚えはないから、多分紗菜里にでも聞いたんやろ。 とりあえず何を言われても耐えよう。俺はそう覚悟を決めた。 「この前の、告白の返事なんですけど…」 それを聞いて俺はアレ?と思った。あの「イヤや」ってのが返事じゃないの?って。でも俺は黙って続きを聞くことにした。 「あの、私も前から好きでした。こ、こちらこそよろしくお願いします」 「ホンマっ?」 思わず耳を疑った。そしたら彼女がコクンと頷いた。か、可愛い! そうなるとイヤやの意味が余計に分からへん。けど、その時の俺は嬉しすぎてそんなことすっかり忘れてた。 そんなこんなで俺と詩織は付き合い始めたんやけど、俺は詩織が意味不明に「イヤや」とか言いやがったせいで、 中間テストの結果は半分以上が赤点という進級すら危ぶまれるようなものになってしまった。 あん時は追試とかめっちゃ大変やった。 暁が中間テストの初日なんかに告白なんかしてきたせいで、私は、テストで人生初の赤点を一つ取ってしまった。 おかげでお母さんとお父さんを悲しませちゃったし、あの時は大変やった。 俺と詩織がそれぞれの嫌な思い出を思い出していると、紗菜里が思いついたように言った。 「ねえねえ、もうすぐ一学期の中間テストってことは、つまりもうすぐ二人が付き合い始めて丁度三周年ってことだよね?」 紗菜里がそんなことを言ってしまったもんやから、しかもリッキーまで張り切っちゃって、 俺達二人の三周年記念パーティーを、俺達四人で開くことになってしまった。 そして当日。 「三周年おめでとー!」 リッキーの音頭でパーティーが始まった。 目の前には、紗菜里とリッキーによる手料理が並んでる。会場はリッキーの家のリビング。 今日は家族みんなして仕事だ遊びだで帰って来ないっていうから使わせてもらうことになった。 集合時刻は十八時。 夕飯は紗菜里が作ることになってたけど、リッキーの家のキッチンやから、リッキーも手伝い程度に一緒に作ってくれた。 詩織が一緒に作るって言ったけど、紗菜里とリッキーの二人に「主役はゆっくりしてて」と言って俺も一緒に椅子に座らされた。 みんなでワイワイすんのは楽しかった。 ご飯食べて喋ってただけやけどあっと言う間に時間は過ぎていった。 既に二十二時まであと僅かという時間になってた。 そしたら紗菜里が「もうそろそろお開きにしなあかんね。じゃあ最後に…」 そしてリッキーが「プレゼントターイム!」と言って、二人で綺麗に包装された箱を持ってきた。 「はいどーぞ」 リッキーと紗菜里は、それぞれ俺と詩織に一つずつ渡した。 「開けてみ」 リッキーが俺と詩織がそう言ったから、俺らは素直に開けてみた。中には同じデザインで色違いのスポーツタオルがあった。 「どや?ペアルックやで?」 「ペ、ペアルックて…」 「なんや?嬉しないんか?」 「いや、そうじゃなくてペアルックって言葉が…」 俺とリッキーがそう言ってたら、横から紗菜里が入ってきた。 「二人とも部活してるやん?けど空手とテニスやからどうしよかと思ってんけど、タオルやったら両方使うからいいかなぁって思って」 「うん、ありがとう」 詩織が紗菜里とリッキーに礼を言った。 「二人共、サンキュー」 俺も礼を言った。 「じゃあ次、私が暁に。はい」 詩織が俺に、包装紙に包まれた薄っぺらい物を差し出した。 「見てもいい?」 「どーぞどーぞ」 「詩織ちゃん、何あげたん?」 「テニスラケットのグリップに巻くテープ。暁のやつちょっとボロボロなってたから」 「おお!サンキュー!丁度これ欲しかってん」 「じゃあ最後は暁から森川にやな。まさかないとか言わんやろなぁ〜?」 リッキーがそう言った。 「ちゃんとあるって。はい」 「ありがとう。開けてもいい?」 「おう」 それは、ペンギンのネックレス。 「あ、ありがとう」 「ペンギン?ちょっと子供っぽくないか?」 リッキーがそう言うと、紗菜里が「そんなことないよ。絶対似合うと思う」と言った。 「そうかなぁ?」 リッキーはあまり納得のいく感じではなかったけど、それ以上は何も言わんかった。 「それじゃあ、片付けしよか」 詩織がそう言って、みんなで後片付けをした。今度は俺と詩織も参加した。 「みんな、気ぃ付けて帰りや」 「また明日な」 「リッキー、バイバイ」 「今日はありがとう」 俺と詩織と紗菜里はリッキーの家を後にした。 学校のすぐ近くにあるリッキーの家からは、俺ら三人共同じ電車やからみんなで一緒に帰った。 電車に乗ってからは、二駅早い俺と紗菜里が降りる筈やけど、 俺は「詩織家まで送るわ。悪いけど先帰ってくれるか?」と言って電車に残った。 「そんなん別にいいよ。紗菜の方が可愛いしか弱いねんから紗菜を送ったりーや」 「私は大丈夫。家も駅から近いし」 詩織は遠慮したけど、紗菜里がそう言ったから詩織は俺に送られる事を了解した。 「紗菜里、近いとは言えホンマに気ぃ付けろよ」 「うん。ありがとう」 駅から詩織の家まで向かう道。 「なぁ、なんで私がペンギンめっちゃ好きなん知ってるん?誰にも言ってないのに」 さっきのネックレスの話。 「ああ。ただ、詩織の持ってる物、さり気にペンギンのやつ多いから好きなんかなぁって」 「気付いてたんや…。私が幼稚園くらいの時にお父さんとお母さんと私の三人で水族館に行ったことがあって、 その時にペンギンに惚れ込んでそれ以来めっちゃ好きやねん。 けどちょっと子供っぽくて私に合えへんやろ?だからあんまり人にはゆえへんねん」 「そっか。けど合えへんことないと思うで。紗菜里もゆーてたやん」 「紗菜もたぶん私がペンギン好きなん気付いてて、気ぃ使ってくれてるんやと思う。普通はリッキーみたいに思うって」 「詩織、そんなことない。大丈夫や。詩織は普段キレイな奴やけど、たまにめっちゃ可愛いねんから」 「暁…」 詩織は一度小さく微笑んだ。 「うん。ありがとう」 話してる内に詩織の家の前に着いた。 「詩織、これ。三周年記念プレゼント」 「え?さっき貰ったやん」 「それはみんなの手前用やって。それもあげたかったけど、こっちもあげたかってん」 「ありがとう。見ていい?」 俺は頷いた。 「あ、キレイ」 俺が渡したのは水色のピアス。 「さっきのは可愛い詩織に。これは綺麗な詩織に。って感じや」 詩織は声を上げずに笑った。 「何ゆってんのよ。ホンマにアホやねんから。でも、嬉しいわ」 「実は深い青とどっちにしよか迷ってん」 「そうなん?私水色も好きやけど深い青も好きやで」 「じゃあ、それは今から七年後。十周年の記念日にプレゼントするわ」 「ホンマにっ?ありがとう」 「おう。じゃ、もう大分遅なったし、そろそろ帰るわ」 「うん。ありがとう。また明日学校で」 「おう、また明日」 今日はいっぱいいいことあった。一番嬉しかったのは、七年後、十周年の記念日にってやつ。 七年後も一緒にいようって言われた気がして嬉しかった。 そうやなぁ。暁に告白されて悩んでた時に紗菜に教えて貰った考え方でいくと、今の私と暁の勝負は引き分けってとこやな。 でも十周年の日にはきっと私が勝ってたるからな。 俺は家に着くと、とりあえず紗菜里にメールして無事家に帰ってることを確認した。 紗菜里に心配性って言われた。 それにしても今日の詩織はいつもより素直で可愛かったな。 そういや学校以外で会ってる時は結構そういう傾向あるかもしれん。 あ。ってか、告白した時に詩織が言った「イヤや」の意味、俺未だに知らんわ。 [前へ][次へ] |