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月夜ノ物語
第二章
〜第二章・第一ノ印象〜
 
真白が自分の教室に帰ってから2‐Aの教室では、舞が仲間の囲まれながら月影姉妹のそれぞれについて話していた。

「あのねっ、真白さん…じゃなくて、真白に部室解放してる時はいつでも遊びに来ていいよって言われたんだぁ!」

「えぇ、いいなぁ。それって私達も行っていいの?」

「いいと思うよ。今度一緒に行こうよ」

「やったっ」

舞の友人達も舞の時と同じように喜ぶ。
しかしその内の一人が妙に神妙な顔をしてこう言った。

「あのさぁ、舞さっき月影さんと何か話してたよね?何話してたの?何か酷い事言われなかった?」

 その言葉に他のメンバーもうんうんと頷く。

「大丈夫だったよ。数学の宿題でわからないとこを聞いてただけだから。
駄目元で聞いたけどちゃんと教えてくれたし。それになんとっ、優しい言葉まで掛けてくれたんだよ!」

周りを囲っていた友人達全員が心から驚いている。

「それだけじゃないよぉ、最後にホントにちょっとだけだけど笑ったんだよっ!」

「ええ〜っ?」

「嘘だぁ〜っ」

「マジぃ〜っ?」

等、それぞれの言葉で驚きを表現する。

「私、月影さんが笑ったのなんて見たことないよ?」

「私も私も」

 それくらい真紅は普段笑わないのである。
その真紅が笑うとなると大問題である。
実際に何が起きる訳ではないのだが、同じような毎日を過ごしている高校生には丁度良い話題なのだ。

「私ちょっと月影さんが笑うとこ見てみたいかも」

「でも絶対似合わないでしょ。笑っても気持ち悪いだけじゃないの?」

「それが、すっごい可愛いの〜っ。だって私ちょっと照れちゃったもん!」

「アンタは真白さんが好きなんじゃなかったの?」

「う〜ん、真白さんとは違う感じなんだよなぁ。真白さんが百合だとしたら、月影さんは薔薇って感じ?」

「それ名前のイメージじゃん?」

「でもホントにそんな感じなの!」

 仲間達に信用して貰えず、思いっきり頬を膨らます事で自分の意見を主張する。
すると仲間の内の一人が少しだけ舞の意見に同意した。

「でも確かに月影さんてすごい美人だし、笑うと綺麗かも…」

 その言葉に舞は皆に、追い討ちをかけるように言葉を継ぎ足した。

「だよね?だよね?でしょ?ほら、ね?絶対そうなんだもん!嘘だと思うなら皆も見てみたらいいんだよ!」

「でもそう簡単に笑いそうにないし…」

「私、もう一度月影さんの笑顔見たい!ようし、絶対に月影さんを笑わせる!決めた!皆も手伝ってね?」

 そう言った舞の顔は何故か妙にスッキリしたような、何かを吹っ切ったような、そんな顔をしていた。

「…えぇぇ〜?」

「あはは…」

 だが友達の反応は、微妙だった。



 二年C組の教室。
一人の男子生徒がいた。
彼の周りには、心なしか女子生徒の数が多いようだ。
彼女達の目的は当然その男子生徒、桂木 美緋(かつらぎ みあけ)である。
彼は容姿が整っており成績も優秀なのでファンが多いのだが、
周りで騒がしくされるのを嫌う人なので、直接彼を囲む事無く、近付いていってそっと見て楽しむ人が多い。
美緋は女好きではないが、しかし、女は皆自分の思い通りになると思っている。
が、そういう女性が多い事もまた事実ではある。



 終礼も終わり、生徒の殆どは帰路に付いている。
が、一部の女子生徒は美緋を目指して走り出していた。
たまにこういう事が起こる。
普段は大人しくしているのだが、誰か一人が美緋に近付くと、我負けじとする者達が一気に押し寄せるのだ。
そうなると、決まって美緋は走って逃げる。
足も速いので逃げ切るのは簡単だが、疲れるのは嫌いだ。

「そろそろ撒いたか?ったくいい加減にして欲しいよな」

 美緋は少しだけ息を切らしながら、後ろを振り返って追っ手がいないか確認する。
当然足は止めていない。

「きゃっ…」

 なので、らしくない事に誰かとぶつかってしまった。

「あっ、悪ぃ。大丈夫?」

 ぶつかった女子生徒がぶちまけてしまった書類を、一緒に拾いながら美緋は謝った。
しかし、拾いながらも身構えている。相手が女だからである。
だが彼女は、美緋に一切反応しない。
何故なら、彼女が真紅だからだ。

「あれ?君は俺を追い掛けたりしないのか?」

美緋はつい聞いてしまった。

「は?何故私があなたを追い掛けなくちゃいけないの?あなたの事を知りもしないのに」

 その真紅の言葉に美緋は衝撃を受けた。
この学校に自分を知らない女子がいるとは思っていなかったからだ。

「お、俺の事知らないのか?」

「知らない」

「ホントに?!桂木 美緋だぞ?」

「はぁ〜、あなたしつこいわね。知らないって言ってるでしょ?あなたもしかして変態?」

 真紅はとても冷めた眼で美緋を見た。

「もうぶつからないように気を付けてね、変態さん?じゃあね」

「なっ……」

真紅は歩きさっていってしまった。

「なんだよアイツ、スッゲーむかつく!拾ってやったのに礼もなしかよ!おまけにこの俺を変態扱いしやがって!」
 


二人の出会いは最低だった。


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あきゅろす。
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