いただいたSS
天空朱雀さんから
貴方が嬉しいなら、私も嬉しい。
貴方が悲しいなら、私も悲しい。

だって、貴方は私の一部なのだから。
そう思える程に、貴方を愛しく思うから。

だから、何時だって貴方の傍に居たい。
嬉しい事も、悲しい事も…貴方と一緒に、分かち合いたいから。


いつも見守ってるよ


街外れの人通りの少ない道で、刃がぶつかり合う音、複数の怒号、誰かが争っているような音が響き渡る。
静かな街並みには不釣り合いな、物騒な物音。

しかし、それも無理は無いだろう。
盗賊団と騎士団が交戦中だからだ。

盗賊団と思しき男達は皆ゴロツキといっても過言では無いほど柄の悪そうな身なりをしており、威圧的な双眸をぎらつかせている。
彼らはこの辺では悪名高い盗賊団で、街の人々も彼らの傍若無人な振る舞いにはほとほと困り果てていた。
何故なら、略奪、暴力、誘拐、破壊…悪行の限りを尽くしてきたからだ。

そんな中、派遣されたのがカストレの騎士達だ。
盗賊団殲滅の任務を帯びた騎士達はようやく盗賊団を追い詰め、現在交戦中という訳である。

「ぐあっ!?」

盗賊の1人の呻き声が辺りに響き渡ったかと思えば、その場に力なく崩れ落ちる。
その表情からは、自分が誰からどんな攻撃を食らったのか把握し切れていないようで。

それ程までに速く、的確な攻撃が盗賊を襲ったのだろう。

刹那、空を軽やかに舞い踊るブーツ。
──否、瞬きをしたら見逃してしまいそうな程の速さで軽やかにステップを踏んでいる為、まるでブーツが舞い踊っているように見えるのだ。

「悪行の限りを尽くした盗賊だっていうから、どんなもんかと思ったが…その程度か?」

挑発するかのような言葉をぶつけ、相変わらず軽やかな足取りを披露するのは4番目の騎士──ウェルテスだ。
軽口を叩くものの、彼の眼光は獲物を捕らえて離さない程の鋭さを秘めており。

「くそっ…ふざけやがって!」

挑発に乗ったらしい盗賊が手にしたダガーを振り回し、ウェルテスに突撃をかける。
しかし、自分に狂気の刃が迫り来るというのに、当の本人であるウェルテスは涼しい顔。

「簡単に俺の挑発に乗るなんて、分かりやすい奴。…任務中だから、うっかり殺しちまうかもな」

サラッと言い放つものの、その内容は決して軽んじられるものではなく。
ウェルテスはニヤリと口角を吊り上げると力強く地面を蹴って背後へ跳躍、一旦地面に着地した後再び地面を蹴り上げ宙へと舞った。

滞空時間はほんの数秒であろうか。
その間に盗賊の頭上へ迫り来ると、そのまま盗賊の脳天へ踵落としをお見舞いした。

踵落としは盗賊の脳天に直撃し、盗賊は僅かに呻き声を上げてからその場に崩れ落ちた。
…と同時に、無事に地面に着地するウェルテス。

「…何だ、大した事無いな」

余裕綽々で呟いた所で、不意に背後から感じる殺意にも似たオーラ。
それに気づいて振り返った時には、すでに何もかもが遅すぎた。

先程ウェルテスが倒した盗賊は囮。
その盗賊に気を取られていたうちにいつの間にかウェルテスの間合いまで詰めて来ていた他の盗賊が、手にしたサーベルを今まさに突き立てようとしていた。
おそらく、盗賊を倒して気が緩んだ一瞬の隙を狙ったのだろう。

ウェルテスは一瞬眉をしかめるものの、回避は不可能と判断したらしく急所をガードしてせめて致命傷は避けようと判断したらしい。
しかし、突き立てられたサーベルは突如横からの凄まじい力に弾き飛ばされ、虚しく宙を舞う。
そして、重力には逆らえずに徐々に地面に引き込まれれば、最後は地面に深く突き刺さった。

「…ウェル、大丈夫?」

不意にウェルテスの背後から、聞き慣れた女性の声が飛来した。

ウェルテスはその声に引き寄せられるように背後を振り返った。

「…今の、クレスタがやったんだろ? ありがとな、助かったよ」

「ううん、いいの。ウェルが無事なら、それだけで…」

ウェルテスが無傷なのを確認すると、心底安心した様子でホッと胸を撫で下ろすのは金髪の女性。
彼女こそ、先程ウェルテスに声をかけた女性──クレスタである。

「それにしても…よく俺がピンチだって分かったな? クレスタがいなかったら、ヤバかったぜ」

「だって、ウェルの事はずっと見守ってたもの。ウェルに何かあったらって、私それだけが心配だったから」

クレスタはゆるゆると首を横に振ると、さも当然の事のようにきっぱりと言い放つ。
先程、盗賊の持つサーベルを弾き飛ばしたのはクレスタの能力。
彼女は植物を自在に操る能力を持っており、まるで鞭のようにしなやかな植物の枝を巧みに操り、サーベルを弾き飛ばしたのだ。

クレスタの助けもあって、ウェルテスはまるで舞い踊るかのように鮮やかな動きで敵を次々と薙ぎ倒していく。
盗賊の最後の1人に強烈な後ろ回し蹴りをお見舞いすると、ようやく地面に着地して辺りを見回した。

「…よし、任務完了…だな」

「ウェル、お疲れ様」

「ああ、クレスタもお疲れさん」

今地に両足をつけて立っているのは騎士団の人々のみ。
その場に倒れ込む盗賊達を一瞥してようやく殲滅した事を確認すれば、すぐさまクレスタがウェルテスの元へ駆け寄ってきた。

ウェルテスの言葉ににっこりと心底嬉しそうに微笑むクレスタ。
しかし、何かに気付いたらしいクレスタの顔が一瞬にして不安に歪む。

「……? どうかしたか?」

「どうかしたかじゃないわよ、ほら此処…怪我してるじゃない」

「ん? あ、本当だ。まぁまぁ、この程度の掠り傷、大した事無いって」

「駄目よ、幾ら掠り傷だからって化膿でもしたら大変よ。ちょっと待っててね」

特に怪我は気にしていないのか、能天気な発言をするウェルテスをよそに、心配そうに眉をしかめるクレスタはすぐさま救急道具を取り出しててきぱきと傷の手当てを始めた。
まずは傷口を消毒してから薬を塗り込んだガーゼを貼り付ける。
クレスタの手際の良さに感心しつつ、そんなに大袈裟にする事でも無いのに…と言いたげな表情を浮かべるウェルテス。

「たかが掠り傷程度に、そこまでしなくても大丈夫だって」

「もう、ウェルったらいつもそうやっていい加減なんだから。…はい、お終い」

「もういいのか? 流石、手際良いな」

「ふふっ、ありがとう。ウェルに誉めて貰えるととっても嬉しい」

手当てを終えてウェルテスから離れるクレスタは、彼からの言葉に照れ臭さと嬉しさが入り混じったような微笑みを浮かべる。
彼の身を、心から案じているのだろう。
すると、救急道具を片づけながらクレスタがポツリと呟いた。

「…ウェルは小さい頃からいつも無茶ばっかりして、怪我だらけで…。私、その度にいつも心配してたの」

「クレスタは…本当に優しいんだな。いつも人の事ばかり考えてるだろ」

「人の事、っていうより、ウェルの事ばっかり考えてるのは本当かも」

「…へ? 俺の事…?」

「ええ、そうよ。ウェルが怪我していたら、私も辛いし…ウェルが幸せなら、私も幸せなの。まぁ…私にとって一番の幸せは、ウェルと一緒に居られる事なんだけどね」

クレスタは一切の迷いの無い強い光を秘めた双眸でウェルテスを見つめると、少し照れ臭そうにはにかんでみせた。
そんなクレスタの真っ直ぐな瞳に吸い寄せられるように、彼女の瞳を一心に見つめるウェルテス。

──騎士団に入ったのも、ウェルテスと一緒に居る為。
その目的の為だけに騎士団に入り、こうして任務を熟している。

クレスタにとって、ウェルテスの事が全て。
彼がいなくなってしまったら、きっと彼女も生きてはいけないだろう

ずっと彼の傍に居て、彼と一緒に色んな事を分かち合いたい。
小さい頃からずっと彼の傍に居て、ずっと彼の事を見守ってきたから。
だから、これからも彼の事を見守っていきたい。

その為なら、自分はどんな事もするつもりだ。
人を傷つけるのはあまり気は進まないが、それが騎士の任務なら自分は甘んじてそれを受け入れている。
騎士団に所属していれば、ウェルテスと一緒に行動出来るのだから。

それくらい、自分にとってウェルテスは大切な存在。
切っても切れないような、まるで自分の一部のような…そんな掛け替えのない存在なのだ。

クレスタはそこで思考の深淵から這い上がると、再びウェルテスに柔らかい笑みを向ける。

「ね、任務も終わった事だし、一緒に帰ろう?」

「…ん? ああ、そうだな。何時までも此処にいる必要も無いしな」

「…私ね、こうしている今が凄く幸せで…嬉しいの。…ね、手繋ごう?」

「それは俺もだよ。クレスタが居るから、俺もこうして幸せな気持ちでいられるんだしな。…そうだな、手繋ぐか」

少し躊躇いがちに差し出されたクレスタの手を、しっかりと握るウェルテス。
手からじんわりと伝わってくるクレスタの温もりと鼓動を感じて、ウェルテスはそれだけで満たされていくのを感じた。

そんな、小さいけれど…2人にとって掛け替えの無い、幸せ。


END.



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