いただいたSS
春海さんから
―大切な時間―

奏は、小鳥の髪を切るのが好きだ。
理由は簡単。
小鳥のきれいな薄茶色の髪に、触れることが出来るから。
そして、自分が切った髪を見て笑ってくれる小鳥の、その笑顔が好きだから。
奏はその時ほど、美容師である父親に感謝したことはない。
「――ねえ、ショートヘアってどう思う?」
それは、突然の問い掛けだった。
現在進行形で毛先を揃えるだけのカットを黙々とこなしていた奏は、思わずその手を止める。
「小鳥、興味あるのか?」
「うーん、いつも同じ髪型だったからどうかなって」
「…お」
「止めとけよ」
問いに答えようとして奏が発した言葉は、見事に掻き消された。
奏と小鳥が揃って後ろを振り返れば、視線の先には壁を背にして腕を組んでいる響の姿。
ひーくん…と、小鳥が小さく名前を呼ぶ。
「小鳥は、そのままでいい」
「そうかな。…かなちゃんもそう思う?」
「おれも今の髪型が良いと思う。似合ってるし」
小鳥に改めて問われ、奏は今度こそはっきりと答える。
似合ってるという言葉に小鳥が笑顔を見せたことで、響を取り巻く空気が若干不穏になったことを感じ、奏は苦笑した。
こんな風に相手の気持ちが手に取るように分かるのは、双子ならではである。
「おい!お前いつまで切ってんだよ!」
「はいはい…代われば良いんだろ」
奏はそう言って、ズカズカとこちらに向かってきた響にハサミを手渡す。
そして少し離れた位置で、今度は奏が二人を見つめた。
「ひーくん、何怒ってるの?」
「別に怒ってねえよ」
「本当に〜?」
「本当だっ」
どこか楽しそうなそのやりとりに、奏の頬が自然と緩む。
「………(まだ暫くは、このままが良い)」
奏はひとり心の中で呟いて、その柔らかな空気にそっと目を伏せた。


END

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あきゅろす。
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