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好きなんだけど!
すねお



振り返ると有村と目が合い、たまらずそらしてしまった

やっぱり感じ悪いよな。
でもなんか色々考えてしまって、どうしても平常心でいれる自信がない




「…顔、赤いんだけど」

「気のせい、だって」

「こっち向いて」

「有村…」




マジで今は放っといてくれ


掴まれてる腕すらも、熱くてじわりと痺れる。
有村がじっと見つめる俺は、一体どんな情けない顔をしてるんだろうか




「…文哉さんに、何言われたの」

「っ……いいから、早く行こうぜ。みんな心配するし…」

「俺には言えないこと?」




話をそらそうとしたのに、有村はどうやら引き下がるつもりはないらしい

他のことなど知ったこっちゃないとでも言わんばかりに、中野の話に食い付いてくる



お前だから言えねーんだよ!

そんな叫びも今の空気では言えるはずもなく



もしかして、五十嵐とヤってなかったら笑い話で済んだかもしれない。
でもその“もし”は、誰でもなく自分が原因で起こったことで

なんであんなことしたんだ俺は…!



うまいウソもいつも通り思い浮かばなくて、有村の首の辺りに視線をさ迷わせていた

なんて言えばいいのか分からない


すると有村のため息が聞こえて、身体が反射的に強張る。
顔を上げると、少し苦しそうな有村がいた



なんだ、その顔




「文哉さんには言えて、俺には言えねぇの」

「……」




黙り込む俺に、有村は掴んでいた腕を放した


冷たい夜風がシャツの上からしみる。
有村の手が熱かったから、そう感じるだけかもしんねーけど




「俺、頼りになんねぇ?笹川さんからしたら、ただのガキ?」

「そんなこと言ってねぇだろ」

「……帰る」

「は?」




有村は目を臥せたかと思うと、俺を見ることなく俺の隣を抜けた

今まででは考えらんねぇぐらい、それはもうあっさりと



振り返ると背中はどんどん小さくなっていて、あっという間に人混みの中へ紛れていく



なんだこれ、痴話喧嘩!?

浮気がバレて、怒って帰った彼女みたい



俺が中野とないしょ話してたから怒ったのか?
仲間外れはイヤ?
マジでそうなら十分ガキだと思うんだけど

俺はどうすればいいんだ


追いかけて謝る?
電話して謝る?
家まで行って謝る?


ケンカとか嫌いだから、俺が謝ってすむなら謝る。
でも、意味も分からず謝って満足してくれるほど、有村は簡単ではない



のんきにカラオケに行くわけにもいかず、仕方なくタバコに火をつけて近くの街路樹の柵へ腰をおろした

夜空に紫煙が立ち上り、すぐ風に流されて散る



そーいや、カーディガン貸したままだ




「はぁ…」




タバコの煙と共に息を吐き出した


なんで怒られた俺より、怒ったあいつがあんな顔すんの




「…わっかんねー」




あいつはたまに、今回みたいに急に機嫌が悪くなったりする

たぶん俺のせいなんだろうけど、心当たりもねぇ



こんな考え込むとか、俺らしくねーんだけど



はあ、とため息をつくと、目の前のカラオケから中野が少し慌てた様子で出てきた。
キョロキョロと周りを見渡して、俺を見つけると早足に向かう




「お前ら、何してんねん…!」

「ら、ってなに」

「今悠馬から電話あって、体調不良で帰りますって」

「ふーん…体調不良ねぇ」

「お前も一緒に帰ったんか思たら、知りません、とか言いよるし」

「なんなのか、俺が聞きたいぐらいだわ」




中野は眉間にシワを寄せて、不思議そうに首をかしげた

それ以上何も言わない俺に焦れたらしく、仕方なくといった感じでタバコに火をつける。
俺の前に立って、俯く俺に思いっきり煙をふきかけた




「イジメですか」

「なんや、ケンカしたんか」

「してねぇ……ッ、くしゅ!」

「え、なにそれくしゃみ?キモい女みたい」

「…うるせぇな」




しばらく外にいたせいで、冷えてしまったらしい。
さっきまで熱かった手に温度がない

寒くはないのに、生理的にくしゃみが出る



それよりキモいって何、ひどいな



タバコを足で揉み消すと、頭から服をかぶされたらしく、視界が一気に暗くなった


なんだこれ、誰の

俺の言いたいことが伝わったらしく、それを取ってから見上げると、中野はニヤリと笑う




「それ着とき。やるわ」

「いいよ、寒くねーもん」

「黙って着とけ」

「いいって、ば」




中野は俺の言葉を無視してパーカーを奪い取ると、肩からばさりと俺を包み込んだ

でかいから文字通り、包み込まれてしまう



今まで着てたそれは温かくて、香水の匂いがした


中野のとは、ちょっと違うような…




「それ、翔のやねん。間違えて着てきてしもて」

「別にいいのに…」

「風邪ひかれても、鬱陶しいし」

「素直な感想ありがとう」




渋々それに袖を通すと、前を合わせた中野が律儀にもジッパーを引き上げる


おかんかこいつは



案の定服はでかくて、俺の手ぐらいじゃ袖から出せないほど。
翔もでかいもんな、ムカつくことに




「ありがとー」

「…なんや、大人しいと気持ち悪いな」

「失礼な」

「ほんまに熱あるんちゃうん」




中野は怪訝そうな顔をして、少し腰をかがめた

端整な顔が近付く



慌てて降りてきたのか、少しくしゃくしゃになった髪さえも似合ってんだよな。
イケメンはお得




「な、に」




俺がやっと声を出したと同時に、ゴン、とでこがぶつかった


見上げるような形になる俺の頬に、中野の髪がかかる。
俺より中野の方が熱いと思うんだけど




「何してんの、お前」

「熱計ってんやん」

「手でいいです」

「おかんが、こっちの方が正確やって言うてたもん。ほんで、」





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あきゅろす。
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