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好きなんだけど!
incomprehensible




『あいつには渡さない』

『待って、俺、断ったんだって…っ…』

『これから好きになるかもしんないでしょ?』

『なんねーよ!なぁ、外から丸見えだからっ…』

『だからやってんの』

『ッ、ん……!』




熱い唇を重ねられ、助手席の窓に押さえ付けるように貪られる

あっという間に舌が入ってきて、口内を好きに動き回った


昨日の記憶が一々頭をよぎって、身体がじわりと熱を持つ。
撫でられる耳が熱い



嫌悪感って、いつからなくなったんだっけ




『っ、ん……はぁ…』

『…弘人、ほんとかわいい』

『はぁ……っ…も、やめ…』

『ムリ言わないで』




またキスをして、俺の頭はどろどろに溶けていく。
意識はここにあるのに、気持ちがふわふわとおぼつかない



やっぱりこいつのキスはうまい




『んぅ…っ…』

『っ…ごちそーさま』




濡れた唇を舐め、中野は目を細めて笑った




「カットー!笹川くん、できるじゃん」




監督の声に、ぼやけていた意識がはっとする。
目の前の中野が、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でた




「お前今、昨日の男のこと思い出してたやろ」

「なっ…ん、んなわけねーだろ…っ!」

「ウソやん、めっちゃエロい顔してたで」

「してねーから…!」

「ドすけべ」

「うるせーな!どけっつの!」




ケラケラと笑う中野を車から追い出して、俺も外へ出る



さっきは全然そんなことなかったのに、なんて清々しい天気なんだと思った

思いっきり身体を伸ばしていると、隣にいた中野が靴のまま俺を蹴る




「や、めろっつの」

「俺のおかげやろ。コーヒー」

「は?」

「悠馬のんと、3人分。走れ」




買ってこいってことか


有無を言わさないイケメンスマイルに、俺は走る他選択肢はなかった




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「有村」

「っ、つ…」




バスの中でリクライニングを倒し、目にタオルを乗せてアイシングしていた有村の、無防備な喉に冷たい缶コーヒーをつける

予想通り有村は身体を跳ねさせ、怪訝そうな顔でタオルを取って俺を見た




「…びっくりした…」




この後は有村だけ撮影があるから、俺と中野はしばらく休憩




「俺のせいで、何回もごめん。疲れた?」

「あー……うん、疲れたわ。いろんな意味で」

「すいませんでした」

「なんか知んねぇけど、吹っ切れたの?」

「う……いや、なんと言うか…後で考えることにした」

「よかったじゃん」




コーヒーを飲む有村は、なんかいつもより冷たいってゆーか、よそよそしいって言うか

なんだろ、俺の勘違いかもしんねーんだけど。
やっぱり撮影のこと、怒ってるんだろうか



自分のコーヒーを飲んで、ちらりと有村を盗み見る

それに気付いたらしく、有村は少し笑って俺の髪を摘まんだ




「頭ボサボサなんだけど」

「中野がぐしゃぐしゃにしたのと、走ってきたから」

「ふぅん…」




有村はそれを簡単に手で直して、コーヒーを一気に飲み干す




「今日の親睦会、来んの?」




そう言えば、朝なんか言われた気がする。
五十嵐のことで頭がいっぱいで、ちゃんと聞いてなかった


親睦を深めるためと称した、ただの飲み会。
監督も来るだろうから、行かないとまずい




「行く」



俺の返事を聞いて立ち上がった有村は、そばにかけてあったスーツのジャケットを着ると、座ったままの俺の頭を指先で軽くなでた



こーゆう所、年上として見られてないよなぁ、とつくづく思う。
なんか嬉しそうだからいいんだけど

もしかしてペットか何かの代わりにされてる?




「コーヒーありがと。ごちそうさま」

「どういたしまして」




やっぱり変

元気ないっつーか、なんか怒ってる?



最近ぶちギレることの少なくなった有村は、感情がわかりにくい。
それならいっそキレてくれた方がわかりやすいんだけど



考えるだけで何も言えない俺を置いて、バスから出ていく有村


なんか、勝手に仲良くなったと思ってただけに結構なダメージ。
一体なんなんだ、俺が何をした




「…わっかんねー…!」




頭をガシガシと掻きながら、背もたれに頭を預ける。
でかいひとりごとは、誰の耳にも入ることなく消えてしまった

コーヒーが、いつもより苦く感じる



そうこうしている内に有村の撮影が始まったらしく、外が静かになった

俺もまだまだまぶしい外へ、重い腰を持ち上げて出る



丁度日除けの下に、中野がジャケットを脱いで座っていた。
熱心なことに、台本を読んでいるらしい




「熱いのに、中で読めよ」

「んー?いや、誰かさんがおったから、気ぃつこたってんやん」

「なんの気だ」




タバコに火をつけて、そう言えばまだこいつに翔とのことを話していないことに気付く


有村が、かなり遠くでキャストの女の子と話していた




「昨日、翔もいたんだよ」

「……は?」

「お前、双子だったんだな」

「いやいやいやいや、待って、ほな、笹川さんの初めてって翔なん!?」

「こわいこと言うな。お前と同じ顔ってだけで萎えるわ」

「ちょ、ほんまやめて。心臓に悪いから」

「勝手に勘違いしたんだろ」

「てゆーか萎えるって何、失礼やわぁ」




中野は一旦パニクったものの、簡易のイスの背もたれに身を沈め、安堵の息を吐く

読む気がなくなったのか、台本は閉じてテーブルの上にぞんざいに置かれた



自分もタバコに火をつけ、空になったコーヒーの缶に灰を落とした




「その例の男も、ホストなん?」

「いや、全然関係ねぇの。翔はたまたま会っただけっつーか、捲き込まれたっつーか…」

「今日の親睦会で、洗いざらい吐いてもらおか」

「やめて、俺今日は飲まねーから」

「なんや、改心したん?」

「もう禁酒するわ」

「あほやな、飲んで忘れんねんやん」




中野の言葉に、俺の儚い決心はぐらぐらと揺れる





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あきゅろす。
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