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好きなんだけど!
怪我の功名



舌はすぐに放されたものの痛みがすぐに消えるわけもなく、ヒリつく舌を出したまま有村に恨みがましい視線を向けた




「真っ赤になってる」

「…くっそ、おまえのせいだろ…」

「責任転嫁やめてください」

「ひ、い゛っ!?」




突然舌を親指の腹で撫でられ、かなり情けない声が出る

もういやだ、なにこの嫌がらせ



また手が離れて、俺はすぐに舌を引っ込めた。
おかえり、俺のかわいそうな舌




「それ、あさっての撮影いけんのかよ」

「??なんのこと…」




つい、と有村の顔が近付いて、俺の顎を掴む。
俺の半開きの口を見つめていた


あさっての撮影ってなんだっけ。
確か中野もいたはず




「文哉さんとキスシーンだろ」




思い出せない俺に焦れて、有村が少しイラついた様子で呟く

あぁそうか、痛そうだな。
すげーやなんだけど




「有村せんせーが、確かめてあげる」

「は……っん…!」




にや、と笑ったと思ったら、顎を固定されたまま唇が重なった


何が起こったのか考える前に舌が滑り込んで、少し遅れて刺すような痛みが突き抜ける。
舌が擦れてやけどが痛い

反射的に身体が震えた



確かめるって何!?
今やけどしたんだから痛いに決まってんだろ!




「んんっ……ん゛ー!」




もう泣いてないだけ許して、涙目だけど



右手に持っていた箸が落ちて、フローリングを転がっていく。
テレビからは最近よく見る芸人の笑い声が聞こえていた

そのどの音よりも、唇から聞こえる水音が妙に浮いて聞こえる



つーか痛い痛い痛い痛い!!
マジで!
有村先生痛いっす!!




「んっ、く……ふぁ、ッ痛っ、てぇ…!!」

「本番でんなこと言ってたら、また撮り直しだろーが」

「い、今は、痛てぇに決まってんだろ…!」

「プロならガマンしろ」

「ばか、やめろっ、て」




俺の訴えもむなしく、背中にあったソファに簡単に押さえ付けられ、のしかかるようにまた唇を重ねられた。
抵抗する前に、両腕も押さえられてしまう


蹴りあげてやろうと思った瞬間、有村が左膝にずしりとまたがった



ささやかな抵抗に押し返した舌も、吸い上げられて激痛を産み出す。
ついにまた生理的な涙だが、流れてしまった




「ッッ、っ、ん……は、んぅ…」

「んっ……」




唇を離して、有村は小さく舌打ちをする




「…泣くほど嫌がんなよ…」

「イヤっつーか…痛てぇんだってば…っ…」




だから、何回も言ってんじゃん


ほら、と証拠に痛む舌を出して、有村のTシャツを引っ張った。
俺の上にいるから少し見上げる形になって、目が合う

その瞬間、有村が驚いたように目を見開いた



何かと聞く前に手のひらで顔を覆われ、後ろにあったソファに頭を押し付けられる。
首が後ろの限界まで曲がった気がした




「い゛、ッ―…!?」




なんの仕打ちだこれは

有村の手をはがそうとすると、ギリリと力がこめられる




「いだだだだだだだだだ!!」

「ちょ、マジでやべーから……しばらくしゃべんな」

「何がやべーんだよ!俺の頭の方がやべーんだけど!」




手のせいで有村の顔は見えない


おかげで舌も頭もすげー痛てぇんだけど。
どうしよう、泣くよ俺マジで



すると手の力はゆるめられて。
指の隙間から見えた有村は、むこうを向いて眉間に手を当てているらしかった


何がやべーの。
頭痛いってこと?
俺の方が痛いですよバカ野郎




「…あの、ありむらせんせー」

「喋ったら犯す」




誰か俺の口を縫いつけてください


口をキツく結んだ俺から手を離すとすぐに、有村は何も言わずリビングから出ていってしまう。
喋るなと言われた俺は黙って見送るしかできなかった


どうやらトイレに行ったらしい。
なんだ、吐きそうだったのか?



ひとり残されてしまった俺は、どうしていいかわからず箸を拾って食事を再開することにする。
有村が戻ってきたら、また食えねーかもだし




それから10分ぐらいして帰ってきた有村は、俺の顔を見るなり嫌そうに顔をしかめて盛大にため息をついた

喋るな警告が出てるため、それに対してもんくも言えない




「笹川さんの、ハゲ」

「っ、はあ!?俺の、どこがハゲてんだよ…!」

「喋った」




しまった…!


口を噤んだ俺に、有村ははあ、とまたため息をつく




「別に、もういいけど」

「……な、なんだよお前、生理前か?」

「そうかもね」




流された!



すっかり気の抜けた有村は俺の隣に座ると、ダルそうに冷めたお粥をまた食べ始める



なんなんだ一体

俺が何したんだよ!



心の中の叫びは、誰の耳にも入ることなく散った




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Aliceは駅から大体徒歩15分ぐらいのところにある



途中通る繁華街は、キャバクラやスナックにホスト、果てはソープにヘルス、オカマバーやラブホテルと夜の店で賑わっていた。
昼間に来たことはねーんだけど、それはそれは静かな所らしい


キャッチのお兄さんに呼び込みのニューハーフ。
きらびやかな世界は、田園風景残る日本とは違う国みたいで、俺はちょっと好き




「おにーさん、アタシと遊ぼーよ」

「ごめん、また今度ね」




どう見ても未成年だろうギャルを営業スマイルであしらって、早足に通りを抜ける



いつもならすぐに抜けれる道が、今日は少しざわついて人だかりができていた

回り道でもすればいいものを、少し気になってしまった俺は、足を止めて人だかりの隙間から中を覗いてしまう



顔までは見えないものの、どうやらケンカらしい



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