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好きなんだけど!
どうしましょう



誰って、昨日会ったとこじゃん。
そりゃ昨日初めて会ったんだけど、覚えてないとかひどくねぇ!?



固まる俺に、中野は狐みたいな目を細めて距離をつめる




「もしかして、文哉の知り合い?」

「……あれ、別人?」




うそ、まさかの双子オチ!?




「双子やねん」

「うわぁマジで、初めて見た!すげーそっくり」

「せやろー。よー間違えられんねん」




中野2号(仮)は、中野より人懐っこい笑みを浮かべた。
そう言われてみれば、中野より少しトゲがない気がする


それにしてもよく似てるな。
クローンって言われた方がしっくりくるかも



すると2号の携帯が鳴り出し、画面を見ると慌てて辺りを見渡した




「ほな、俺彼女待たせてるから行くわ」

「あぁ、間違ってごめん」

「いつものことやから、ええよー」




ひらひらと振る白っぽい手が、どす黒い夜空に映える。
中野はもうちょっと焼けてて、健康的だったよな



ふらりと人混みに消えた2号を見送って、俺も待ち合わせの駅へまた進む




俺がついて10分もしないうちに、もう見慣れた車が駅の裏口に滑り込んだ。
表通りほどではないにしろ、こっちもそれなりに人が多い

いつもなら俺が乗り込んですぐに出発するはずが、有村は訝しげに俺を見ている




なに?
俺なんか変…?




うわ



俺バーテン服じゃん!
そういや有村にバイトしてること、言ってねーわ



これは非常にまずい。
やっぱ怒られるよな、絶対怒られるな



俺はカバンを前で抱えて、ちらりと運転席を見た


ガン見じゃねーか。
お願いこっち見ないで!
なんで着替えて来なかったかな、俺のばか!




「帰ってから聞く」

「……はい…」




さすがにここでもたもたするわけにもいかず、有村は渋々といった感じで車を出した


ピリピリと暗い車内は吐きそうなほど空気が悪くて、早くついてほしい気持ちと、一生つかなければいいのにと思う気持ちで非常に複雑だった

どっちも地獄なんだよなー



結局一言も話さないまま、車は有村のマンションの駐車場に停まる。
どうしてもこの沈黙に耐えれなくて、俺はいそいそと車からおりた

逃げれるわけじゃないんだけど、後ろから怒り心頭で歩いてくる有村を見たら、逃げたくもなってくるだろ



俺はネクタイをゆるめながら、教えてもらった番号でエントランスのロックを解除する

地獄への扉を自分で開いた気分。
あぁ、腹痛くなってきた



有村はマジで一言もしゃべんねぇし、俺をストレスで殺すつもりだろうか



のろのろと歩いていると、後ろを歩いていたはずの有村がいつの間にか前にいて、エレベーターが降りてくるのを待っている


今から言い訳を考えようか。
なんて言えば怒られない?

いっそ、実はコスプレが俺の趣味で、そーゆう方々とオフ会してましたって言ってみようか。
さすがの有村でも、俺の趣味までとやかく言えねーだろ


よし、これで行こう



顔を上げると、前で有村が玄関の鍵を開けていた


あれ、いつの間に?
ちょっと待って、俺まだ心の準備が…!




「入って」




そんな俺の気持ちもよそに、有村はドアを押さえて俺を見る。
カバンを握る手に、嫌な汗がにじんでいた


夜中だってのに、煌々と照らす廊下の照明が玄関に射し込んでいる。
それに比べて暗い室内は、ぽっかり開いた口みたい



後ろから有村が入ってきた。
ドアが閉まるのに比例して、玄関が真っ暗になる

上がっていいのかもわからず、俺は振り返った



その間に最後まで閉まった扉のせいで、ついに部屋が真っ暗になってしまう。
ガチリと鍵が閉まる音がした

腕を掴まれる感覚に、不自然に身体が跳ねる




「で、なんなのその格好」




まだ目が慣れないから、暗闇で有村の声だけが妙に浮いて聞こえた。
表情どころか、顔がどこにあるのかもわからない




「っ、これは……俺の、趣味で…」

「……あ?」

「こ、コスプレが趣味なんだって。それで、今日はオフ会を…」

「へぇ?」




やべーな、全然怒ってんじゃん。
ごまかしきれてねーよ。
どうしよう、誰でもいいから助けて


少し目が慣れてきたのか、ぼんやりとだが有村の輪郭が見えてくる




「そのオフ会とやらは、どこで、何人でやったワケ?」

「えっと、今日は7人ぐらいで…」




知らねーよ!
大体オフ会なんかやったことねーし、そんなコスプレするために集まんの!?

有村の声は完全に冷めてるし。
なんか俺墓穴掘ってねぇ?



「たかが趣味のためにそんなバカなことして……映画潰す気?」

「うっ……」

「その話、本当だったら、俺キレるから」




暗闇で光った目に、心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥った

これは、殺し屋の目だ。
このままいくと、殺される…!



もううまい言い訳も思い付かない。
いや、元々時間があって冷静に考えたとしても、俺に有村を納得させる言い訳なんか思い付くはずもなかった

昔からそーゆうの、苦手だし



どこかのカーテンが開けっ放しなのか、月明かりで辺りが見えるようになっている


俺は視線をさ迷わせて、目は見ないままに口を開いた




「……俺さぁ、Aliceでバイトしてんだよね」

「…いつから?」

「お前に連れてってもらった日に、マスターにお願いした」

「なんで」

「俺、撮影あんのに、ゲイってよくわかんねーし…リアルで見れば、わかんのかなって思って…」




そこまで言うと、有村は俺の腕を掴んだまま、盛大なため息をつきながらずるずると玄関にしゃがみ込んでしまう


左腕が引っ張られて、俺もやや前屈みになった




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あきゅろす。
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