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好きなんだけど!
ねこと約束



「久瀬くんがイヤなら、警察に言う必要もないし」

「俺、店になんかされる方がイヤだ」

「用心棒がいるから、大丈夫」




マスターは笑顔で仏頂面を指差した。
龍士がいるなら心配ないけど




「マスターってなんでそんな優しいの?俺の作り出した幻覚だったりする?」

「俺何もしてないよ。今日はもう閉めるから、ゆっくり休んでて」




爽やかスマイルで、マスターは部屋を出ていく。
絶対あの人は俺の幻覚だ。
それか神



なんか心の底からほっとして、俺はソファの背もたれに身体を沈めるように座り込んだ

隣に龍士も無表情で座る


何考えてんのかわかんねーとこが、実家で飼ってる猫みたい



自然と笑ってしまったらしく、龍士が訝しげにこっちを向いた




「龍士、今日はありがと。マジで助かった」

「いいって。それより今度、メシ奢ってください」

「いいよー。何食べたい?」

「……焼きそば」

「もっといいもん食べに行こーよ。そんなん家で作れんじゃん」


前屈みに座っていた龍士も、ごろんと後ろにもたれる。
俺より下にずり下がって、俺の肩へ頭を預けた


猫だ猫。
どっちかって言うとライオン?

この金色の髪をぐしゃぐしゃに撫で回してやりたい。
マスターみたいにぐりぐりしたい

絶対怒るよなー。
やめとこ



眠いのか、龍士はあくびをして目を擦る




「じゃあ、久瀬さんが作ってください」

「……焼きそば?」




龍士が無言で頷いた




「そんなんでいいの?」

「目玉焼き乗っけたやつがいいです。半熟の」

「安上がりな男だな。いいよ、今度うち来いよ」

「行きます」




龍士の眠そうな声聞いてたら、俺まで眠くなってくる。
ひとつ大きなあくびをして目を閉じた



なんか今日は疲れた

襲われるわ、龍士にあんなことさせるわ、最近変なことだらけだし


厄年なの?
お祓いしてもらうべき?



なんかまったりしてたらタバコ吸いたくなってきたかも。
龍士嫌がるかな。
外行くか




「なぁ龍士、ちょっと―…」




どいてもらおうと顔だけ起こすと、隣から規則正しい呼吸が聞こえてくる

頭しか見えないが、俺が身体をずらすと重力に従って膝の上に落ちた



さすがに起きるかと思ったのに、少し身動いだだけで、肩が静かに上下している


なにこれかわいい。
寝たの?
喋ってたくせに寝るとか、子供と一緒ですよ龍士さん



膝の上のライオンを、どうしてくれようかと悶えていると、ドアが開いてマスターが入ってきた




「うわ、龍士寝ちゃったんだ」

「マスターお疲れ様、もう終わった?」

「終わったよ。今日はありがとう」

「迷惑かけただけだし。ごめん」

「そんなことないよ。助かった」

「マスター。これ、ガチ寝?」

「うん、こいつどこでも寝るから」

「わしゃわしゃしていいかな」

「しばらく絶対起きないから、何してもいいよ」

「マジで。なにこのギャップ」




ふわふわの傷んだ髪に鼻を埋めると、甘ったるいシャンプーの匂いがする

なんだこれ、彼女の家からでも来たのかこいつ。
女の子の匂いだ。
こいつヤラシー!
オッサン恥ずかしい!



顔を上げると、マスターがネクタイを外しながら笑っていた




「俺、有村くんに怒られそう」

「なんで、俺のせい?」

「そう。たまには有村くんにも甘えさせてあげてね」

「俺、あいつには激甘よ?」

「それならいいけど」




なんで有村?
あいつも甘えたいお年頃なのか。
マスターにはなんか相談してんの?
俺には言えないこと……ホームシックか!
あいつプライド高そうだしな、家族が恋しいなんて俺には死んでも言わなさそう


そこまで考えて、ふと有村の言葉が頭を過った




『1週間下僕な』




忘 れ て た !




「マスター、俺、用事あったんだ」

「えっ、大丈夫なの?」

「たぶん。ごめん、龍士お願い」

「あぁ、それはほっといていいから。着替えは?」

「カバンの中。でもこのままでいい」




龍士を膝からソファにおろすと、起きないようにそっと立ち上がる

マスターの言う通り、全く起きる気配もない。
生きてんのかも疑わしいな、これ


俺はカバンを掴むと、マスターを振り返った




「ほんとごめん。マスターも気をつけてね」

「笹川くんも、変な人に着いていっちゃだめだよ」

「努力します」




俺はAliceを飛び出すと、携帯から有村を呼び出してコールする

今は0時過ぎ。
忙しいだろうから、まだ仕事かも

歩きながらタバコに火をつけると、3コール目で有村の声が聞こえた




「おつかれ。仕事だった?」

『今終わったとこ』




少し疲れた声。
毎日こんな時間までやってたら、そりゃ疲れるわな。
俺なら逃げ出してるかも。
若いってすごい




「俺、メシ作りにいけばいいの?」

『覚えてたんだ?』

「今思い出した。なんか買って行く?」

『あるもんでいいよ。今、外?』

「んー」

『迎えに行くから、待ってて』




仕事終わりに、なんとゆうフットワークの軽さだ

迎えを断る俺の言葉を一蹴して、場所を伝えると通話は強制終了されてしまった



携帯をポケットに直すと、カバンを肩に掛け直す。
その拍子に、反対側の肩がすれ違った男にぶつかった




「っ、すいません…」

「ん、ごめんやでー」




関西の独特の訛りに聞き覚えのある声。
俺より遥かに背の高いそいつを見上げる


この前見た七三ではなく、普通におろされた前髪で雰囲気は違うものの、メガネと顔はどう見ても




「…中野…?」

「ん?」




つい、と顔を近付けて、中野は首をかしげた




「えーっと……誰やっけ?」

「……は?」




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