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好きなんだけど!
ちょっと待って!




「はいカットー!ちょっと休憩したら、次行くからねー」




最初の会社内での、他愛もない日常風景の撮影。
入りは普通の映画と変わらない。
これがこれから、R18のドロドロゲイ映画になるんだ




この辺は特に問題もなく、あっさり終わった

一応俺だってこれぐらいならできるんだぜ…って顔を、後ろにいた有村悠馬に向ける



それを見るなり呆れたようにため息をついて、頭の上にゴン、と冷たい感触




「んだそのドヤ顔」

「俺はやればできる子なんだ」

「うぜェ」




言葉とは裏腹に、くっと笑みをこぼし、頭の上から手をのけた




「次もトチんなよ」




頭の上に乗っていた物が、バランスを崩して落ちる。
俺は慌ててそれを受け止めた


ブラックの缶コーヒーだ。
誰かにもらったのか、買ってきてくれたのか



それを聞こうにも、メイクさんの所まで行ってしまった背中が教えてくれるわけもなく、俺も近くにあったイスに座って冷たい缶をあける



俺が甘いものがダメって知ってたから、ブラックコーヒー?
それともたまたまか


なんかちょっとだけ、マジでちょーっとだけ、認められたような気がして、嬉しさで顔がにやけた




いや、待てよ。
そんな事知らなくて、嫌がらせ的な意味でくれたのかも



うにゃうにゃ考えてたら、スタッフから集合の合図。
次のシーンの撮影に入るらしい。
次のシーンって、なんだっけ?




「じゃあ次、ソラが爆発するシーンね」

「えっ、お前爆発すんの大丈夫!?」

「バカじゃねぇ。ソラの『気持ちが爆発』だよ」

「気持ち…?」




ああそう言えば、確か次はソラが告白するシーンで、読み間違いでなければ、無理矢理のキスシーンがある。
ぜひ読み間違いであってほしい


まあこうゆうのって、普通はするフリだよな。
あっ、でも…エロシーンってどうすんのかな。
俺やったことねーんだけど



て言うかこいつ素でしゃべってるけど、誰かに聞かれたらどーするつもりだ

いや、別に俺は関係ないし。
むしろバラしてやりたいぐらいだからねホント



俺はセットのドアの前に立つ


ここから入ったら、しばらく会話。
それから勘違いしているソラに押さえ込まれて、無理やりキス。
抵抗するも何もできず、ソラの告白。
ショックで逃げ出す


でオッケーだよな?



昼ドラとかにありがちな展開。
しかもこのあとソラにつかまるんだけど、その時のセリフが、弘人(俺)を抱き締めて耳元で


『逃げんなよ』


だかんね



有村悠馬で想像したら、マジ男前

眉間にシワよせて複雑な顔で言うんだぜ。
俺も言ってみたいもんだわー



リアル変質者だな
逃げるわそりゃ




「じゃあ行きまーす!」




カウントと共に集中する

手をかけていたドアノブをまわして中に入ると、デスクにむかう有村悠馬。
俺に気づいて後ろを振り返った




『久瀬さん、お疲れさまです』

『お疲れ。まだ残業?』

『キリのいい所でやめようと思ってたら、こんな時間で』

『あんまムリすんなよー』




じゃあ俺先帰るわ、のセリフが言えなかった。
腕を掴まれたと思ったら、振り返るなり唇を塞がれる



ちょっと待って、俺、キスされてる―…!?
まだ早いし、予定の立ち位置にすら立ててない



びっくりしすぎて声も出ない


舌が滑り込み、ゆっくりだが強引に口内を貪られていた。
閉じようにも舌がジャマして閉じられない。
パニックで手に力も入らない




なんだこれアドリブ!?
いやいやいや気持ち悪い!
ないだろコレ!
でも監督も止めないから、やめることもできねぇんだけど




「んっ……!ちょ、何…!」




このままだと色々ヤバイから、震える手で有村悠馬を押す。
結構あっさり離れてくれたものの、撮影は続行

このまま行くの!?


どうしていいかわからず、息を整えながら有村悠馬を見つめた。
お前がやったんだから、ちゃんと軌道修正しろよ!




『…先輩、昨日、誰といたんですか?』

『き、昨日は……友達とっ…』

『嘘。ここで祥平とキスしてんの、見ました』

『あれは、あいつが酔ってて、女と間違えて…!』

『それ、祥平が言ったんですか?まさか鵜呑みにしたわけじゃないですよね?』




近い近い近い!


両腕はまだ掴まれたまま、またキスされそうで、俺は目を伏せて目を合わせないようにする。
こっから俺のセリフはほとんどないから、このままやり過ごそう




「こっちむいて」




こんなセリフあったっけ?とか思いながら視線を上にやると、愛しいものを見るような、優しい目。
思わず心臓が跳ねた。
こんな至近距離で見せられたら、たとえ演技でも、心臓に悪い


たぶん間抜けな顔でみとれてたから、ちゅ、と軽いキスを2回唇に落とされる


ダメだ、集中しねーと




『俺、久瀬さんのこと、好きです』

『えっ…?』

『久瀬さん見てたらたまんなくなる。祥平とキスしてんの見た時、頭おかしくなるかと思った』

『……待って…俺、男だし…』

『関係ないです』




腰を抱かれ顎を掴まれ、引き寄せられた。
唇が触れそうな距離で見つめられる。
次の俺のセリフを待ってるのか



まさかもうキスしねぇよな?
こうゆう演出だよな!?


つーかこいつの顔、エロ…!




『ッ、冗談だろ…?』

『…なんなら試してみます?冗談か本気か…』

『北村っ……ゃ、ん―…!』




ほらな!

ここで俺は逃げ出すはずだったのに、腰はしっかりホールドされてしまって、有村の体を押すも、逃げるに逃げられない。
俺はどうすりゃいいんだ。
なんで止めねぇの!?



正直ちょっと涙目になってきた。
また勝手に入ってきた有村の舌が、今度は俺の舌をなぞり上げる。
ぬるりとした感触で、身体中に鳥肌が立った




「…ん、ん……ッ…!はぁ…っ」

「はっ……震えてる…」

「っ、テメ……ん、ぅ…!」




今のは北村ソラじゃなくて、有村悠馬だ。
すぐに唇を塞がれてやや酸欠気味になる


もう倒れそう



ふいに背中の手がゆるんだ。
やっと解放されるチャンスに、有村の胸を押して逃げ出した。
事務所のドアを閉めて、今は機材やらの荷物置き場になっている廊下の隅の方まで走る

そのまま壁にもたれるように、ずるずると座り込んでしまった




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