[通常モード] [URL送信]

好きなんだけど!
ギャップ萌えとゆうこと



「マスター、おはようございます」

「おはよう、久しぶりだねー」




ほんとに久しぶり

相変わらずマスターの笑顔は癒される。
俺の荒んだ心が洗われるようだ



珍しく店内は賑わっていて、見たことのない人が結構いた。
普段静かとまではいかないが、落ち着いた雰囲気なのに、どう見ても変だろ




「今日なんかあんの?」

「今週は、新規の割引キャンペーン中だから。珍しいでしょ」

「うん、すごいね。俺、ジャマじゃない?」

「そんなことないよ。ムリにとは言わないけど、お客さんと話してくれたら、助かる」

「それならまかせて」




そんなことでいいならいくらでも手伝うし。
てゆーか、いつも勝手にしゃべってるから



俺はシャツの袖を捲って、シンクにたまったグラスを洗うために蛇口を捻る

食器洗浄機もあるんだけど、電気代が高いから、俺はあんまり好きじゃない

正直ヒマだし



マスターは客と話しながら手はせっせと動かしていた。
次々に鮮やかな色のカクテルが並ぶ




「久瀬くん」

「…あ、はい」




ここでは偽名だから、久瀬が俺のことだと気付くのに時間がかかった。
スポンジを置いてマスターを見ると、ごめん、とジェスチャーをしながらグラスを2つシンクの横に置く


ビール用のグラスだから、入れてほしいってこと。
俺が唯一客に出せるアルコール

五十嵐にはなんでも出すけど



ビアサーバーに冷えたグラスをセットすると、綺麗な琥珀色で満たされた


あー、うまそう。
帰ったら絶対飲もう



マスターの前のカウンターに並べると、ありがとう、と申し訳なさそうに笑う




「全然、こき使って」

「もうちょっとで俺の弟が、手伝いにくると思うんだけど…」




マスター、弟いたんだ




「もう来てる」

「あ、リュウ」




俺の真後ろから声が聞こえ、マスターが安心したように声を上げた


思っていたより若い声




「え…?」




振り返ると、そこには明らかに未成年と思われる少年


金色の髪をピンで上げ、少し着崩したバーテン服、何個開いてんだってぐらいのピアスにヤンチャそうな顔。
身長こそ俺と変わらないものの、どっちが歳上かわからなくなりそうな威圧感


しかもなんか口の端切れてるし。
真新しい傷口からは、まだ血が滲んでいる



これがマスターの弟?

予想以上に若いし、ヤンキーじゃん!
ほんとに血繋がってんの!?




「うわ、なんで血出てんの」

「さっきそこで絡まれたから、ケンカした」

「救急箱、取ってこようか」

「いい。それ、早くしろよ」




リュウと呼ばれた弟くんが指差す先には、俺が入れたビール

マスターは慌ててビールをカウンターで話していた2人組に出した



少年は俺を一瞥すると、興味なさげにエプロンをつける

様になってんな、チクショー




「アンタが、久瀬さん?」

「えっ!?あ…あぁ、そう」

「俺、瀬野龍士(せのりゅうじ)です。よろしく」

「よ……よろしく」




敬語だ!
なんだこの子礼儀正しい!

ほぼ無表情で、決して愛想がいいってわけじゃねーけど、さすがマスターの弟!




「リュウ。ごめん、こっち入れる?」

「んー」




とろとろと歩いていくのは嫌々やってるわけでもなく、マイペースなんだなぁ、と思った

嫌ならそもそも来なさそうなタイプ




「あの子、かわいいね」




カウンターにひとりで座っていた、俺と同い年ぐらいの男が俺に呟く

あの子って、龍士のことだよな。
かわいいってどうゆう意味?
俺が思ってるかわいいとは、また違う意味ですか




「そうですね」

「いくつぐらい?」

「俺も初めて会ったんで。呼んできます?」

「いいよ。俺、おにーさんもタイプかも」

「俺はゲイじゃないんです。すいません」




ここに来るようになってから、もう何回目かわからないセリフ。
最初はいちいちどうしていいか分からなかったのに、今はもう自然と口が動くようになっていた


マスターも、変に期待させない方がいいって言ってたし



男はへぇ、と驚いたものの、にっこりと人懐っこい笑みを浮かべる




「残念。興味もないの?」

「ないですねー。女の子がいいです」

「普通はそうだよね。…じゃあ、1杯だけ付き合ってよ」

「それぐらいなら」




俺は快く承諾した

客に誘われることなんかしょっちゅうだし、マスターもできれば付き合ってあげて、って言う



俺、ここに来てスゲーモテるんだけど。
新たな世界に入るべきなんだろうか



男はどうしても俺の作った酒が飲みたいらしく、まだマシであろうジントニックを2つ、カウンターに並べた




「あと、おしぼりもらってもいい?」

「あ、ハイ」




カウンターの下にしゃがんで、保温機からおしぼりを引っ張り出す。
温かいそれを専用のトレイに置いて、男に出してやった




「じゃあ、いただきます」

「こちらこそ、いただきます」




軽く乾杯をして、グラスを傾ける。
我ながらよくできた方だと思うんだけど


ちらりと男の方を見ると、実に爽やかな笑みをむけてくれた




「すごい、おいしい」

「ありがとうございます。お世辞でも、嬉しいです」

「ほんとだって」




くしゃりと笑う顔が子供っぽくて、見た目爽やか青年なのに、なんで俺なんかのこと気に入ってんだろうかと本気で思う

もったいねー



それからしばらく他愛もない話をして、男は着信が入ったとトイレに行ってしまった




[次へ#]

1/28ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!