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好きなんだけど!
赤いずきんの狼男




昔あるところに、有村悠馬という男の子がおりました。
有村はお母さんと二人暮らしです。
いつも赤い頭巾をかぶっていたので、みんなからは『赤ずきん』と呼ばれていました



ある日、お母さんは言いました




「なぁ、赤ずきん」

「文哉さん、そろそろ名前で呼んでくれません?」

「お前こそ、お母さんって呼んでみ?」

「お断りします」




赤ずきん有村は話が進まないので、しかたなくお母さん(中野文哉)の話を聞くことにしました




「実は森に住んでるおばあさんが、風邪で倒れたらしい。ちょーっとお見舞いに行ってきてくれへん?」

「……」

「最近オオカミとか出るらしくて、物騒やから気ぃつけやー」

「…なんで子供設定の俺が行くんですか」

「設定とかやめよ!怒られるで!」




その時、お母さんのケータイが鳴りました

文哉お母さんはお見舞いのカゴを赤ずきんの前に置くと、慌てて通話ボタンを押します




「わかってるよめーちゃん。ばっちりやから!絶対大丈夫やから!」




テンション高めの声を聞いて、赤ずきんはため息をひとつ。
こうなったお母さんがテコでも動かないのは知っていたからです


赤ずきんはワインとパンの入ったカゴを持つと、しかたなくおばあさんの家に向かうことにしました




「…てゆうか病人にワインてなんだよ…」




なかなか重いそれを睨みつけて、有村赤ずきんは悪魔のような形相で森の中へ入っていきます


ガサガサと草むらを抜け藪を抜け、全く臆することなく森を突き進みました。
そんな赤ずきんの背後から、黒い影が迫ります




「おじょうさん」

「誰がおじょうさんだ…」




ご機嫌ナナメの有村赤ずきんが振り返ると、そこにはオオカミが立っていました。
もこもこの襟巻きに、ふさふさの手と足、ピンと立った大きな耳。
グレーのTシャツと同じ色のスウェットズボン。
ゆらゆらと揺れる大きな尻尾


ニヤリと笑うオオカミに、有村赤ずきんは目を奪われます




「おじょうさん、どこ行くの?」

「…あんたは?」

「俺はオオカミの、笹川昭文」

「笹川さん、腹減ってない?」

「えっ!?」




オオカミはぎくりと肩を震わせました。
赤ずきんを食べてしまおうと思っていたのが、ばれてしまったと思ったのです

戸惑うオオカミをよそ目に、有村赤ずきんは持っていたカゴの中から、パンとワインを出しました




「一緒に飯食おうよ」

「なんで…?」

「いいから、早く」




無理やり座らされ、笹川オオカミはしぶしぶパンをひとつ頬張ります


もしかしてこれで腹一杯にして、自分は助かるつもりじゃないだろうか。
それとも毒でも入っているのか。
オオカミはそんなことばかり考えていました



しかし本当は、有村赤ずきんの一目惚れだったのです

じっとオオカミを見つめたまま、ワインの瓶を差し出しました




「グラスとか気の利いたモノないから、そのまま飲んで」

「……ワイン?」

「結構ヴィンテージ物みたいだよ。あのばーさん、そーゆうの好きだから」

「いただきます」




貧乏性の笹川オオカミは爪で器用にコルクを抜くと、少し匂いを嗅いで、ペロリと舐めてみます


それはそれは芳醇な、とろけるようないい香りでした




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「んー…すげーいいきぶんー」

「おいで」




ワインですっかりでき上がってしまったオオカミは、簡単に有村赤ずきんの腕の中に収まってしまいました

頭を撫でられ耳をくすぐられ、うーん、と気持ちよさそうな声を出します



アルコールに弱いわけではなかったのですが、普段ワインなどあまり飲む機会がなかったため、あっけなく酔ってしまったのです




「かわいい」




有村赤ずきんの甘やかすような手つきに、笹川オオカミはムッと身体を起こしました



そして、




「おれはオオカミなんだからなー。お前なんか、すぐにたべれ、ん、っ」




草むらの上に、あっけなく押し倒されてしまいました




「すぐに…何?」

「す、すぐに…たべ」

「俺が食べてからね」

「っ、なに」




オオカミより悪い顔をして、有村赤ずきんはにたりと笑います。
笹川オオカミは振りほどこうとしましたが、しっかりと押さえつけられた腕とほどよく回ったアルコールに、抵抗できませんでした


べろ、と舐められた首筋に、笹川オオカミの身体が強張ります



こいつは、ヤバい

オオカミの本能がそういっていました




「ちょ、っ…待って!」

「待つわけないじゃん」

「やだー!」

「やじゃない。じっとしてろ」




オオカミの首に赤ずきんが歯を突き立てると、ギャン!と鳴き声が上がります



その時、草むらから派手な音が上がり、赤ずきんはそちらを一瞥すると、慌てて笹川オオカミの上から飛びのきました

オオカミの目の前を、鋭い風が横切ります




「あ、っぶね……誰だよ、お前…」




赤ずきんの鋭い視線の先には、もう一匹のオオカミがいました

くすんだ金色の毛の、獰猛な目をしたオオカミです。
隠すつもりのない爪が日光に反射していました




「金原アキ。そこの笹川さんの旦那だよー」




アキオオカミが言うと、有村赤ずきんの眉がピクリと反応します。
それを見て、アキオオカミは意地悪く笑いました


赤ずきんは、ひどく不快そうです




「人の奥さんに手出してないで、さっさと消えてくれる?」

「お前が消えろ」

「やってみれば」




不穏な空気が流れ、笹川オオカミはコッソリとその場を逃げ出しました




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「くそ…誰が旦那だよ…」




笹川オオカミはため息をつくと、重い足を引きずりながら顔を上げます


鬱蒼とした森の中に、人工的に開けた場所。
ぽつんと建つ木の家は、赤ずきんのおばあさんの家でした

予定は色々狂ってしまいましたが、結果オーライ、ここまでの苦労も吹っ飛んで、少し早足に近づきドアを開けました




「おじゃましまーす」




暗い部屋に、するりと忍び込みます

隅のベッドはおばあさんが寝ているらしく、ふかふかとした掛け布団が静かに上下していました。
笹川オオカミは、そっと足音も立てずにベッドへ近付きます




「…おばーさん?寝てんの…?」




規則正しく動く毛布に反応はなく、オオカミは赤い舌で唇を舐めました




「それじゃ、遠慮なくー…」




ばさ、とふとんをめくると、中にいた龍士おばあさんは、うめき声をあげ寒そうに身体を丸めます


いただきます、とオオカミが牙を光らせるのとほぼ同時に、眠そうな目がうっすらと開きました




「……さむい…」

「え、っえ…!ふわ…ッ!!」




不機嫌そうなおばあさんの手が伸び強い力で引っ張られると、酔っているオオカミは簡単にベッドへ倒れてしまいます

ヤバい、と身体を起こす間もなく、龍士おばあさんは笹川オオカミにしがみつき、めくられたふとんを、今度はオオカミごとかぶってしまいました




「おっ…俺はオオカミだぞ!!お前なんか、食べてやるんだからな…!!」

「うん……もうちょっと、寝かせて…」

「…こいつ…っ、ばーさんじゃねー、し、馬鹿力、ッ…!!」

「静かにして下さい…」




そう言われて、むに、と唇を親指で押さえられてしまいました




「も……俺が悪かったから、帰るから…放せよ…!!」

「………」




がっちりと脚と腕でホールドされ、逃げられそうにもありません。
すでに静かな寝息が聞こえてきます


オオカミはもう一度脱出を試みましたが、ピクリともしない腕に、がっくりとうなだれました



(このまま赤ずきんが来て猟師を呼ばれて、ついに、俺も殺されるのか…。

……でも、なんか眠いしあったかいし…もういいかな)



酔っていたせいもあって、笹川オオカミは暖かい毛布の中で、ついに眠りに落ちてしまいました




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「…〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」




猟師のめーちゃんは、声にならない声を上げました


目の前にはベッドに丸まって眠るオオカミと、それに抱きついて眠る龍士おばあさん。
2人とも、すやすやと幸せそうに眠っています

それを見つめるめーちゃんも、かなり幸せそうです



隣に立つ赤ずきんは、顔が引きつっていました




「なにこれ…どうなってんの」

「文哉の電話では【赤ずきん×オオカミ】だったんだけど、これはこれで…」

「ちょっと、貸して」




赤ずきんは猟師から猟銃を奪うと、長い銃身をおばあさんの脇腹の辺りに押し当てます

ふー、と長い息を吐く赤ずきんの服はボロボロで、疲れきっているように見えました。
どうやらアキオオカミに、かなり苦戦したようです




「え!?おばあさん殺すの!?おかしいよ、ダメダメ!!」

「ほっといて」




猟師と赤ずきんが言い合っていると、笹川オオカミがやっと目を覚ましました

そして、ぼんやりとした視界の端にうつる猟銃を見て、しっぽの毛を一気に逆立てます




「ぎゃーーーー!!!!!やめて下さい殺さないでなんでもしますから!!」

「「なんでも…?」」




赤ずきんと猟師の声が、綺麗にハモりました

オオカミの悲鳴で目を覚ましたおばあさんは状況が飲み込めないらしく、眠そうな目をこすってから、興味がなさそうに大きなあくびをしていました




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「ほら、ここついてる」

「っ…教えてくれれば自分で取れる!」

「俺が取りたいの」

「いや!恥ずかしいから、やめろ!」

「顔真っ赤」




赤ずきんはあれから、オオカミの家に住み着いてしまいました

ことあるごとに迫ってくる赤ずきんに、オオカミはすっかりされるがままです。
食べようなどとした日には、きっと三日三晩犯されるに決まっているのですから




「ねぇ、俺のお願い、いつきいてくれんの」

「お前が女になったらな!」

「俺は笹川さんが男でもかまわないよ」

「…っ…」




【結婚してくれ】

それが有村赤ずきんのお願いでした。
もちろん、笹川オオカミが受け入れるわけありません。
それでも赤ずきんは諦めることなく、毎日のように告白を続けています



オオカミは真剣な顔を見て、困ったように食事を再開しました

結婚しろとせまってくる赤ずきんに困っているわけではありません。
ほだされている自分に困っているのです




(嫌じゃねーとか、絶対、おかしい!)




こうして赤ずきんとオオカミは、幸せに暮らしましたとさ


めでたしめでたし




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皆さまにいつもありがとうございます文第一弾!(←長い)
大変おまたせしましたいつも申し訳ございませんorz

毎回言ってますが久しぶりすぎて書き方わかんないn(略


書きたいことはいっぱいあるのに、話にまとめることができず、実力不足を痛感しております…!
最初からだけどね!←





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