三日月の誘惑
二十八話
苦手なのは、相手も自分が苦手だから―――――――?
二十八話
‐見極められた正体‐
タズナの家を出て、草原を抜けて―――…森の中に入る。
波の国というだけあって水が豊かなため、森に生い茂っている木々はみな青々と大きく成長していた。
「ではこれから修業を始める!!」
仮眠をしたことで少しばかり回復したカカシが松葉杖を使い歩いていたが、
ある地点で立ち止まりリュウ達へと向き直り、そう言った。ナルトはそれに元気よく返事をする。
「と…その前にお前らの忍としての能力、チャクラについて話そう」
カカシが人差し指を立てて、説明を始めようとしたが、
「?あのさ!あのさ!チャクラって何だっけ?」
「「「「………」」」」
全員がナルトへと目を移す。当の本人は「聞いたことがあるよーな、ないよーな…」と腕を組んで思い出そうとしている。
「アンタそれでよく忍者やってるわね…。学校で何習ってたのォ!」
サクラは怒り、カカシはガクッと肩を落とす。
「(…それで高等技の影分身が出来るなんて……ナルトってある意味天才だなL)」
リュウは乾いた笑いをした。
そんなチャクラを理解していなかったナルトにサクラは分かりやすく説明する。
だが、相手は「そんなの体で覚えればいい」などと言って人の好意を無下にする。
それにサクラはムカッと腹を立たせたが、サスケもナルトの言葉に賛成のようだ。
「現に俺達は術を使えている…」
「いーや、お前らはまだチャクラを使いこなせていない!」
ナルトとサスケの考えに制止をかける。
つまりカカシが言いたいことをまとめるとこうだ。
・今のナルト達はチャクラを効果的に使えていない
・なぜならバランスよくコントロール出来ていないから
・そのためエネルギーを無駄遣いしてしまい、長時間戦えないなどという弱点が出来る
大きく言えば、この三つだ。
「(…あー、早く終わってくんないかなぁ…)」
こめかみを押さえながら、ぼーっとする。―――…さっきから頭が痛い。
「(……何で?日頃から身体は鍛えてるはずなのに……)」
「体でそのコントロールを覚えるんだ。命を張って体得しなきゃならないツラーイ修業!」
そんな中、事は着々と進んでいく。
「なっ…何をやるの?」
“命を張る”という言葉に些か不安になって尋ねるサクラ。
「ん!?」
カカシは緊張感もない様子で、言った。
「木登り…!!」
意表をを突かれた言葉に、ナルト達は一瞬呆気に取られた。そして、ナルトが叫ぶ。
「木登りー!!?」
「そうだ」と飄々と頷く相手に、ナルトはものすごく嫌そうな顔をした。サスケもサクラも怪訝な顔をしている。
「そんなことやって修業になんの?」
「まあ話は最後まで聞け。ただの木登りじゃない!手を使わないで登る」
その言葉にまたまたナルト達は驚く。
サスケは目を丸くし、ナルトはいかにも楽しそうに、サクラはさらに疑うような眼差しで…。
「…どうやってやんの?カカシ先生」
リュウがナルト達に代わってそう尋ねる。
「ま!…見てろ」
そう言うと、カカシはサッと印を組んで足にチャクラを集める。そして近くにあった木へガッと足を当てた。
そして、普通なら不可能なのに…スタスタと木を登っていく。もちろん先程言った通り、手は使わず―――…足だけ、で。
「………」
「登ってる…」
「足だけで垂直に…」
「すごーい…」
サスケは無言で驚いていたが、ナルトを先頭にサクラ、そしてリュウが感嘆の声を上げる。
―――…リュウは表面上、だったが。
木の枝に足を吸着させた状態のカカシが、こちらを見下ろした。
―――いや、今の格好から言えば見上げているといったほうがいいのだろうか。
今の格好…それが逆さまだったからだ。
「…と、まあこんな感じだ。チャクラを足の裏に集めて木の幹に吸着させる。チャクラは上手く使えばこんなことも出来る」
自分達に向かって笑いかける。
「ちょっと待って!木登りを覚えて何で強くなれるのよ!」
サクラがこの木登りがどう強くなることに結びつくのかと叫ぶ。
そんなサクラを始めとし、下忍達に今回の修業目的を教えていく。
そう、この木登りには二つの大きな意味がある。
それは―――チャクラの“調節”とチャクラを維持する“持続力”を身につけること。
それを説明してから、カカシはクナイを取り出した。
そしてナルト達の足元にそれぞれ投げつける。
「今、自分の力で登りきれる高さの所に目印としてそのクナイでキズを打て。そしてその次はその印よりさらに上に印を刻むように心がける。
お前らは始めから歩いて登るほど上手くはいかないから、走って勢いにのりだんだんと慣らしていく…いいな!」
「………カカシ、先生…」
リュウは引き攣った顔をする。そして、意を決して手を上げ訴える。
「何で俺にだけクナイがないんだよ。いじめ?」
その言葉にナルト達がリュウの足元を見る。確かに、そこにはクナイはなかった。
「―――リュウには今からちょっと話があるから。それが終わったらネ」
(今っ?!)
(そ、今)
明らかに不満そうな顔をする相手をよそにカカシは木から先程と同じように下りると、そのまま森の奥に入っていく。
「……とりあえず行ってくるL」
そう他の者達に言い残して、リュウもその場を後にした。
下忍達からかなり離れた場所まで来ると、カカシは急に立ち止まった。それに並行してリュウも足を止める。
「…えーと…、それで話って何でしょうか?L」
…つい敬語を使ってしまう。なぜなら直感で自分にとって嫌な感じがしたから。
「んー、単刀直入に言うと………シュウでしょ」
うわ、いきなり核心突いてきやがった。
「…誰ですか、それ?」
断定的な相手の言葉に、敢えてシラをきる。
「―――ふーん…」
カカシがこちらへと振り向いて、目を細めた。その人を探るような目に、不覚にもうっと怯む。
「―――前々から誰かに似てると思ってはいたけど、今回の任務ではっきり分かったよ」
「………」
リュウは無言で相手の言葉を聞く。ここで下手に動いては逆に自分の首をしめることになる。
「まず演習でのあの動き…あれは下忍レベルの動きじゃない、明らかに上忍レベルだ」
「…まあ自分が下忍じゃないということは認めるよ」
―――…火影じいも口を滑らしたことだし。
「そして今回の任務の前に受けた猫の捕獲任務でのあの会話―――何で女忍しか知ってなさそうなことを知ってたの?」
「だから知り合いの女忍に聞いたって言っただろ?」
「―――仮にも忍なのに、容易にそんな秘密めいたこと教える?」
「……そういう人もいると思うけど?」
この質問については反論を続ける。
「じゃ、最後。再不斬が君に向かって言ったあの來夜という暗部名…。
この名前知ってるんだよね…仮にも暗部の後輩だし、今は総副隊長の位についてるし。―――これはどう説明するの?」
「他人の空似、はたまた人違い」
キッパリと言い放つ相手。
「強情だね、シュウは。ま、そこがまた良いんだけどv」
「……しつこいですね、カカシ先生は♪」
お互いにっこりと笑う。―――――カカシは素らしいが、リュウはどことなく愛想笑いのような感じだった。
「じゃ、それだけが用なら俺はもうあっちに戻るから」
片手をひらひらと振りながら踵を返すと、それと同時にカカシのいるほうからドサッと音がした。
「?」
訝るような表情で後ろを振り向くと、カカシが片肘をついて苦しそうにしていた。
「!っちょ、ちょっと…?!」
「……ん、だいじょーぶ。少しだけ目眩がしただけだから」
「アホ、大丈夫なわけないだろっ。そう言うならもっと大丈夫そうな顔をしろ!」
カカシの元に駆け寄り、症状を確認しようとしたが…
ガシッ
「ぇ?」
その手を、掴まれた。
―――――これに似た展開、前にもあった気が…?
だが時既に遅し………引き攣る顔で相手を見ると、にっこりと微笑まれた。
「言ったデショ、大丈夫だってv」
そう言いながら、リュウの両手を掴んでその手で解術の印を組む。
ボンッ
小爆音と共にその場に煙が湧き起こった。そしてその中から現れた一人の女。
「………一つ教えて。まさか目眩って……うそ?」
高く澄んだ声が相手に問う。
「だってそんな演技でもしないと近くに来てくれないデショ。…いっつも俺を見ると瞬時に逃げるし」
その言葉にエメラルドグリーンの瞳がキッと睨む。
「あれはカカシが追いかけるからだ!……っ私がムカつくからって、何であんな意地悪するのっ?」
些か幼さが残る顔が眉間に皺を寄せてカカシを見上げた。そして啖呵を切ったようにそう訴える。
「―――――は?」
カカシは自分の腕の中で口を尖らせて唸っている相手を見下ろし、間の抜けた声を出す。
「あ゛ー、もう、分かりました。あの時カカシを叩いたことは本当に謝る!
それでも許してくれないなら…け、決闘でも何でも受けて立「ちょっ、ちょっと待って!L」
一人話を進める相手の両肩に手を置き、カカシは慌てて制止をかける。
「―――…誰が、誰をムカついてるって?」
「…カカシが私をに決まってるじゃん」
「それ、誰から聞いたの…?」
「…他の上忍達から。あの時叩いたことを怒ってるとは思ってたけど、皆の言葉で確信がついた」
「(〜〜〜っあいつら、人の恋路を邪魔しやがってっ…!)」
今ここにはいない仲間の顔を思い浮かべ、怒るカカシ。
確かにシュウに頬を叩かれた事は記憶にあった。
しかしそれは弱気になっていた自分に喝を入れるためのもので―――…少しもムカついてはない。
…どういう経緯でシュウがここまで誤解してるのかは分からないが、原因は分かった。
一呼吸間を置いてから、とりあえず相手の信用を得ようと試みる。
「―――あのね、シュウ。俺は少しもムカついてないよ」
宥めるように言うが、相手は一向に警戒を解かない。
「………絶対うそだね。隙を見せた私に奇襲かけるつもりだ」
「……………」
―――――…ここまで来ると重症だなL…ま、別の意味での襲いたい気持ちはあるけど…。
内心とんでもないことを考えるカカシ。
「んー、奇襲はしないからv」
………さりげなーく肩から腰へと手を回す。ここで真っ赤になって照れてくれるのが理想だが…。
「―――…私を絞め殺す気だっ……」
「…何でそこでそんな怯えたような反応するの?L」
自分の想い人にここまで恐がられていることに軽くショックを受けていたが……、
“恐い”という言葉にあることを思い出し、カカシは一瞬動きを止める。
―――あの再不斬が現れる前の読心術の会話での妙に頭に引っかかった言葉。
「ねぇシュウ。……あの時言った“恐い”ってどういう意味なの?」
そう言った瞬間、シュウがびくっと身体を震わせた。
「あの時、シュウが俺の意識をナルトへと向けさせることで気を逸らせようとしたこと―――気づいてないとでも思ってた?」
シュウは俯いていた顔を上げる。その表情は先程とは全く違い、真剣だった。
―――――あまりにも、違いすぎるその豹変ぶり。
「シュウ……?」
カカシは無言でただ自分をじっと見つめる相手に不安になって尋ねる。すると相手は視線を僅かに逸らして、不機嫌な顔で言った。
「言わない……言いたくない」
まるで駄々をこねる小さな子どものように、首を横に振る。
「どーして?」
ゆっくりと続きを話す相手。
「………いくらいつも呑気なカカシでも…言えばきっと私を気味悪がる。誰にも知られたくない………」
そう言ったシュウの姿は本当に弱々しそうだった。
―――好きな人だがらという偏見からそう見えたのかもしれないが、本当に切なそうな声だったのだ。
「もう離して…必要以上に人と接したくないの……」
相手の胸元に手を当て押し返すが、一向に手を緩める気はない様子のカカシ…。
「―――…シュウ、言って…でないと離さない。俺はシュウの心の内が知りたいの。―――火影様も心配してたよ、シュウのこと」
真剣な顔つきをして頬を包み、その顔を覗き込む。
そんな相手の真剣さと火影の名前を聞いたシュウは暫く迷っていたが、諦めたように目を伏せる。
そして、言った。
「私が恐いのは―――…人を殺すことを心の底から楽しむ、
自分自身―――――」
***“あとがき”という名の言い訳***
この話だけ読んだら思いっきりカカシ夢だな…編でした。ジャンルは甘になるんですかね?
カカシがシュウさんに惚れた理由、そしてシュウさんがどうしてあそこまでカカシ先生が苦手(むしろ恐怖?)なのか。
それは番外編に書きます!ぜひ読んでみてくださいv(この話を載せてる頃にはUPしてるかな…;)
さてさて、この話の一番最後のほうに書いた『シュウさんが恐いのは自分自身』というキャッチフレーズ(買Lャッチフレーズっ?!!;
「あー、やっぱりね…」とお気づきの方もちらほらいたのではないでしょうか。
…すみません、オチがいまいちないネタでして……Lでもこれだけではまだ全貌が明らかになっていませんね。
いろいろ推理してみてくださいな☆
…多分全貌知っても「あー、やっぱり…」と思われるでしょうが…(面白くないこと言うな!
そして今更ですけどこのサイトの夢を読むにあたっての注意事項。
―――頭の中を空っぽにして読みましょう♪(←始めに言えっ!!怒
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