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三日月の誘惑
二十七話



幸せだったあの時を、夢に見て―――――――。







二十七話
‐鎮心魂の石‐








「―――ねぇ、お姉ちゃん。目を瞑ってて」

「?なあにツバサ」


一面に咲き乱れる色とりどりの綺麗な花畑―――…そこは、羽隠れの里の秘境とも云われる丘の上だった。


突然の弟の呼び掛けにそちらを振り向く。


「いいから早く!」

「むぅ〜……わかった。…イタズラしないでよ?」

念押しをして、言われた通りにする。

目を瞑ってからしばらくすると、弟の満足そうな声が聞こえてきた。


「はい!目、開けていいよ」


目を開けてすぐ、自分の胸元に違和感を覚え顔を下へと向ける。


―――綺麗な淡い青色の石のペンダントが、首に掛けられてあったのだ。


「これ…って?」

ペンダントの石を触りながら尋ねる。

「お姉ちゃん今日誕生日でしょ?だからプレゼント!加工から何まで、全部僕がやったんだよ」

「うわ、きれーい…ツバサって器用だよね。まだ四歳なのにこんな宝石作りもできるなんて…」

「今回は頑張ったんだ!その石“鎮心魂”って言ってね。心を落ち着かせる力があるんだよ。僕のも色違いの“鎮心魂”で同じの作ったんだ」

そういって同じ形をした白い石のペンダントを目の前にかざす。

「へぇ〜、そうなんだぁ。そんな石があることさえ全っ然知らなかった」

「…お姉ちゃんはもう少し勉強したほうがいいよ?よくサボってるし…、今日も本当は午前中読書の時間だったでしょ」

ツバサの鋭い指摘にうっと怯む。

「……わ、私は体を動かすのが好きなの!あんな分厚い本を読むなんて耐えられないよ」

「将来羽隠れの当主になるのにそんなことじゃダメだよL」

「勉強なんかしなくていいの!私はこの里が平和でいられるよう敵から皆を守ることが役目なんだから。…蓮や黎と一緒にね!」

背中の愛刀を見て微笑む。

「うーん…でも勉強も大切だと思うよ?忍術もたくさん覚えないと」

「―――忍術といえば…ツバサも忍者になりたいんだよね?」

「うん、そうだよ!」

その話をすれば、ツバサは目を輝かせて嬉しそうに言う。

「忍者になんかならなくても私が守ってあげるのに…」

だけど相手は首を横に振る。


「僕ね、世界一の忍者になってお姉ちゃんのお手伝いしたいんだっ!そうすればお姉ちゃんの負担も軽くなるでしょっ?」


その言葉に、目を丸くする。


「お姉ちゃんが困ってる顔見たくないもん。お姉ちゃんは笑ってるのが一番だから!」

まるで女の子のように可愛らしく笑う。


頭が良くて、大人よりもしっかりしているのに。


―――…ふいに、無邪気さを出す。


「〜〜〜っもう、ツバサは!かわいい事言ってくれるなぁ!!」

ガバッとその小さな身体に抱きつく。

「ちょっ…お姉ちゃん苦しいよ!―――って………ぁ」

いきなり自分の頭上辺りを凝視したかと思えば、自分を見て哀れむような表情を浮かべるツバサに小首を傾げる。


「ん?どうしたのツバ…「見つけたぞ、このおてんば娘!!」

急に自分の前に影が出来る。そしてこの声―――…。


「ち、父上っ?!」


振り向けば現当主である自分とツバサの父・蘇芳タカがいた。

慌てて逃げ出そうとしたが、襟元を素早く摘まれ捕らえられる。


「逃げるんじゃないっ。…今日読むべき本はちゃんと読んだのか、ん?」


―――サボったのを知ってるから探しに来たくせに、わざとらしくそう尋ねる父上。


「……誕生日くらいいいじゃん」

「お前の場合いつもだろ。少しはツバサを見習えL」

「〜〜〜意地悪っ!」

呆れたような口調で言う相手に、頬を膨らませて最後の抵抗をしてみた。



すると。



「―――まあまあ当主様、そのくらいでよろしいではないですか。今日は大目に見てあげても」


父上の背後から宥めるような声がしてきた。私は即座に反応して叫ぶ。

「あ、ウツシ!!」

「お嬢、お探ししましたよ」


ウツシは里の偵察部隊の隊長であり、父上が最も信頼を寄せていた一番弟子の男。


私はすぐに父上の手から逃れてウツシの元へ駆け寄りしがみつく。


「まったく―――シュウ、今回は見逃してやるが…明日からは覚悟しとけよ」

「もう少しお嬢は女の子らしくなりませんとね」

「………」

大人二人のその言葉に顰めた顔をする。

それに気づいた二人は笑い、ツバサもくすくすと小さく笑った。


「ほら、母上もお前達のことを家で待ってる。戻るぞ!」

活気に満ちた声と共に手を差し出される。

「うん!」

その手をぎゅっと強く握る。


意地悪ばっかり言うけど―――…温かくて、大きな手を持つ父上が大好きだった。





―――ずっと、離したくないと思っていた―――――…。















目を開けると、一面青一色に包まれた青空。そして耳には、波の音―――…。


ぼーっとする思考の中で、その空に向かって手をかざす。


散歩と言って気分転換をするために家の外の草原で寝転がったところまでは覚えているが…その後の記憶があやふやだ。


―――…どうやらうたた寝をしてしまったらしい。


「…にしても最近よく昔の夢見るなぁ…」

かざした手を握ったりひらいたりしながら思う。



あの頃はまだ何も知らない本当に無知な子どもだった。

次期当主だと言われてもいまいち実感が湧かなくて…。

ただ毎日をどう楽しく過ごそうかなどと、


…そんなことばかり考えていた。



で も 。


ぎゅっと固く拳をつくる。


「…っ何でもっと忍術覚えておかなかったんだろ…」



―――……後悔先に立たず…。



世間で密かに名付けられた“鳥狩り事件”が起きてしまった。



あの夜の悲鳴を思い出すだけでも吐き気がする。


金属がぶつかり合う音。鳥の奇声。充満する血の臭い。死体の山―――――…。


全てが、自分の心の底に鮮明に刻まれてある。



「………」

目頭に手をあてる。


泣きたいけど、泣きたくない。


泣いても何も起こらないから。…誰かが助けてくれるなんて思うのは以ての外だ。

心がどんどん弱くなる。それが何より許せないのだ。



「……っあ゛ーヤバい、本当に気持ち悪くなってきた…」

手を目頭から口へと運ぶ。


さっきから異様に頭がぼーっとすると思ったら。



―――まさか体調崩した…?



「こんな所で寝るんじゃなかった…」


…関節もどことなく痛い。そんな気だるい身体をそろそろ起こそうかなと考えていると。




「…そんな所で何してんだよ」


上体を起こすと、黒い瞳と視線が交わる。


「サスケ…」



―――…自分は余程体調が良くないようだ。普段は気配を消している相手の居場所さえもすぐに察知できるのだが…、



今はサスケの気配が分からなかった。



なので、正直少しだけ驚いた。



「…もしかして探しに来てくれたとか?」

からかい半分でそう口にすれば、相手はその問いには答えず、近くに歩み寄ってきた。

そして自分から視線を逸らさずに言う。


「お前―――本当に姉貴とかいないのか?」

「まーたその話?…前にも言っただろ、いないって」


サスケと再会した―――あのアカデミーの教室での出来事がふっと脳裏に過ぎる。

その時も、そんな質問をされた事を覚えている―――…。


「親戚や知り合いでもいないのか?」

「………何お前、誰か捜してんの?」

逆に質問を浴びせる。

「ああ」

短い肯定の返事が返ってきた。それにほんの少しだけ反応する。


「―――あの再不斬とかいう忍がお前のことを來夜、と言ってただろ。…あくまで予想だが、その來夜という忍……多分俺が捜してる奴と同一人物だ」

「…それでその忍と容姿が似た俺を勘違いした、って?」

「俺はそう考えてる。―――お前の近くに、“蘇芳シュウ”という女…いないか?」

「……さぁ」

リュウはサスケから僅かに顔を逸らし、遠くの海を見る。


風に乗って、潮のにおいが鼻を擽った。それを感じながら、静かに言う。


「その女を捜して、それで見つけて…お前は何がしたいの?そんなに捜してるってことは……憎い相手、とか?」

自分でそう言ってから、軽く自嘲してしまう。


―――…憎い相手。そう言われても仕方がないのだ。それだけ…この子の心を傷つけたということ…。


だが相手はリュウと同じように海のほうへと視線を向けながら、言った。



「―――いや、ただもう一度…会って話がしたいだけだ」



その言葉に、視線をサスケへと戻す。偽りを言っている感じではなかった。

リュウの視線に気づいたサスケは、バッと身を翻して元来た道へと足を運ぶ。


「…ッチ、何でお前にここまで言わなきゃならねぇんだ…。おい、戻るぜ」

そのまま振り向かずに歩いていくサスケに、思わず笑みが零れた。


……ごめんね。いつか、機会があれば全部…話すから。



声にならない声で、そっと呟いた―――。








サスケと二人で家に戻ってドアを開けると、部屋に見知らぬ小さな男の子がいた。

「(誰、この子…?)」

帽子を深く被っている上に、後ろを向かれているので顔が全然分からない。

ドアのノブに手をかけたまま、その場で呆然とつっ立っていると、



「母ちゃん…こいつら死ぬよ」



「何だとォ―――!!!このガキってばよォ―――――!」

ナルトがその男の子に向かって叫ぶ。

リュウとサスケは今さっき戻ってきたばかりなので一体何がどうなってこんな状況に陥ったのか全く理解できていない。


しかし、穏やかでない事だとは瞬時に理解できる。



「ガトー達に刃向かって勝てるわけがないんだよ」

「ンのガキィ―――!!」

「何子ども相手にムキになってんのよバカ!!」

今にも殴りかかろうとするナルトをサクラが服を掴んで止める。しかしナルトはそれを気にも止めず、また叫んだ。


「いいか、おイナリ!よく聞け!!オレは将来火影というスゴイ忍者になるスーパーヒーローだ!!

ガトーだかショコラだか知らねーが!そんなの全然目じゃないっつーの!」

「フン…」

顔を下に向け、その男の子も言い返す。


「ヒーローなんてバッカみたい!!そんなのいるわけないじゃん!!!」


その言葉に、ナルトの堪忍袋の緒がプチッと切れた。

「な…何を―――っ!!」

「やめなさいってば!!」

「死にたくないなら早く帰ったほうがいいよ…」


最後の忠告をして男の子がくるりと身体を半転させた。そのままダッと自分のいるドアのほうに走ってくる。

ボフ…

「おっと…大丈夫か?おイナリ君」


自分にまるで顔を埋めるようにぶつかってきた相手を気遣い、その帽子越しに頭をポンとたたくリュウ。

明らかに自分より背の低い相手が、顔を僅かに上げる。


「!」

その顔を見て、リュウは息を呑む。

「どこへ行くんじゃイナリ」

タズナがその男の子に向かって呼びかける。

「…部屋で海を眺めるよ…」

振り向くことなくそう呟いてから、相手はその部屋から出て行った。

その後ろ姿を黙って見送るリュウ。


「あ、てめェ待てってばよ!!」

ナルトがサクラの腕を振り切って、同じように部屋から出て行く。



「すまんのぅ…」

居た堪れない静寂の中、タズナがぽつりと言う。ツナミも僅かに顔を曇らせている。


リュウは顔をドアのむこうに向けたまま、小さく尋ねた。




「失礼ですがこの家……ガトー関連で誰か亡くされましたか?」




「「!!」」

タズナとツナミが驚いたような表情でリュウを見る。それを横目で確認して、目を伏せる。



「あの子…生き甲斐を無くしたような眼をしてた…。あれは大切なものを目の前で奪われた者がする眼だ」



―――…まるでかつての自分のように。

………いや、もしかすると今もたまにあの眼をしてるかもしれない。



過去は、決して変わらない。…拭えないのだから…。



タズナとツナミはその言葉に黙ったまま、手を僅かに震わせた。


「………」

カカシはリュウの顔をじっと見る。



(―――ねえ、後で話しがあるんだけど……いい?)

(………)


返事はせず、その代わり溜息をつく。





―――…あーぁ、なーんか嫌な予感…。











***“あとがき”という名の言い訳***

…カカシとの絡み(会話)までお話が進みませんでしたLサスケとの会話ばっかり…じ、次回こそっ!!;
というか、もう本っ当にこの話進むのが遅いっスね…。次回もあんまり進まないかも…orz(バカの失脚

…さあ、気分を変えてっ!!(無理やり;
今回も夢(昔)編がちらっとありましたね(このサイトにはコレが多い)
鎮心魂―――こんな石はもちろん実際にはありません!管理人のオリジナルっス。
精神(心)を落ち着かせる一種の制御道具だと思ってくだされば十分です。
そして新たに聞いたことのない名前が出てきました。
そこでちょっとした説明を!

蘇芳タカ:シュウ・ツバサの父親。当時の蘇芳家の当主で羽隠れの若長。
蘇芳ツバメ:   〃  の母親。タカの妻。(ここでは出てないけど一応)
守門ウツシ:羽隠れの偵察部隊隊長。シュウにとって兄のような存在だった。

―――とまぁ、こんなカンジですかね?
もう少し詳細が知りたい方は“登場人物設定2”を書くので御覧になって下さい。(短くなると思いますが…)

それではシュウさん、長い言い訳を読んでいただきありがとうございました☆


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