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三日月の誘惑
二十六話



戦いを好む鳥と、癒しを愛でる鳥―――――――。







二十六話
‐刀に宿る忍鳥‐







「大丈夫かい?先生!」

気の強そうな面持ちのタズナの娘―――ツナミが腰に手を当ててカカシに尋ねる。


…ここはタズナのおっさんの家。


あれから蓮にカカシを運んでもらって、タズナのおっさんに道案内をしてもらって、



―――…ようやく自分達は目的地に辿り着いたのであった。



「いや…一週間ほど動けないんです…」

疲れきった表情を浮かべ、布団で横になってそう答える。


―――本当に動けないのだろう。先程から話しをするのも億劫だという雰囲気を漂わせている。


「なぁーによ!写輪眼って凄いけど、体にそんなに負担がかかるんじゃ考えものよね!!」

呆れながらもカカシの顔を覗き込み、容態を窺うサクラに対してタズナは笑う。

「でもま!あんな強い忍者を倒したんじゃ。おかげでもう暫くは安心じゃろう!」

「(……それはどうだろうね…)」

窓際で頬杖をついてリュウはその話を聞く。



…再不斬は多分生きている。そしてあの性格だ、きっと再び襲い掛かってくる。


白を通して事を穏便にやり過ごしたかったが、その唯一の橋渡しとなる白も結局は自分達と戦うことを選んだ。


これ以上相手を説得するのは無理だろう…。



自分がそんな事を考えている間に、カカシは追い忍の事について、尋ねてきたサクラを始めとする下忍一同に細かく説明をしていた。


リュウは窓越しから外を見て、一人ぼーっとする。………いや、してしまう。



―――今夜から一週間の間に暗殺任務を遂行しなくてはならない。それを考えただけで憂鬱になる。

しかも相手の人数がどれ程いるのかも見当がつかない。

再不斬のような上忍を数人雇っているだけなのか、はたまた中忍程度の忍を何十人何百人雇っているのか―――――。


リュウはその瞳を伏せる。


…正直、暗殺任務なんてしたくない。…血を見ることも好きじゃない。むしろ、嫌いなのに…。



………なのに……。



「………」

ぎゅっと無意識の内にペンダントを握り締める。



―――火影じいには絶対知られたくない。知られてしまったら自分はどうすればいい?


育ての親とも言え、師匠と言っても過言ではない―――…あの優しい老人は、自分をどう見るのだろう。


…仮に受け入れてくれたとしても、きっと特別扱いされる。………そんなのは、嫌だ。



「…君?」

「………」

「リュウ君?」

「…え?」

「大丈夫?顔色悪そうだけど…」

名前を呼ばれ、ふと声がしたほうへ顔を向けると、心配した面持ちのサクラが自分の傍にいた。

他の者達も自分の異変に気づいてこちらに顔を向けている。

「…あ、いや、大丈夫!ちょっと疲れてウトウトしてたっ!」

アハハ、と軽く笑って背伸びをする。

『―――本当かよ…お前最近ぼーっとしてること多い気がするぜ?』

「蓮…」


壁に寄り掛かりながら腕組みをし、眉間に皺を寄せる蓮を見てリュウは少しだけ俯き、口を開いた。


「あのさ…」

『ん、何だ?』

腰を下ろし自分の目線と同じになる相手に、真剣な顔をして言った。



「お前いつまでいんの?」



『…は?』



…思いもよらない質問返し。


「お前の今回の役目はもう終わっただろ?さっさと刀通してあっちに戻れよ」

「…そういえばこの兄ちゃん、さっきからずっといるってばよ」

淡々と言葉を紡いでいくリュウとそれに便乗するナルト。

『ひっでぇ言い草だな。何だ、俺は邪魔者かっ?!』

「そうじゃないけど………さっきツナミさんに言い寄ろうとしただろ。俺が前もって言わなかったら」

『お前は俺をいつもそういう目で見てやがったのかっ?挨拶しようとしただけだ、挨拶!!』

「…あー、はいはい。分かったからLとにかくほら、刀に戻れ」

慌てて言い返す蓮にやっぱり言い寄ろうとしたな…と頭の中で思いながら、刀を鞘から抜こうとした。



…が。



『いやだ』


その一言。



「『いやだ』じゃない。戻れ」

『最近体が鈍って仕方がないんだよなー。だから強い奴と戦わせてくれたら戻ってやるよ』

「無茶言うな!却下だ」

『なら戻らねー』


刀を向けるが、相手は微動だにしない。


―――蓮を刀に戻すには、相手が刀に触れなければならない。


「………」

『お、降参か?』

相手が勝ち誇った顔をして言う。

リュウは刀を納めるかと思ったが、そのまま刀身に指先をくっつけ、血を垂らした。

『狽チ?!』

さっと青い顔になる相手をよそに、リュウは口を開く。


「…森羅万象・全ての力あり。汝の主の呼び掛けに人型として応え癒しを運べ、【黎】」

そう言って印を結ぶ。


その途端、室内にも関わらず小さな風が吹いた。


静かで、それでいて身体を包み込むような優しい風が頬を撫でると、何もなかった空間からすうっと人影が浮かんできた。


絹のように柔らかそうな細く長い碧髪。金の瞳。白い肌。


―――…美しい女が、その場に現れた。


『―――お呼びですか?』

ふわっと優しく微笑まれる。

「黎、久しぶり。頼みがあるんだけど」

『!』

一瞬、黎が自分を見て驚いた表情をしたが、“事情は後で蓮から聞いて”と目で合図を送ると、再び笑顔に戻る。

「…き、綺麗な姉ちゃんだってばよ…あっちの兄ちゃんといい、この姉ちゃんといい…一体何なんだってばっ?」

突如現れた黎をじいっと見ながら、今までの光景を一部始終黙って見ていたナルトが言う。

『(今シュウ様はリュウというお名前で正体を偽っているのですか?)』

「(さすが黎!この姿の時はその名前でお願い)」

その場の状況を把握して誰よりも対応が早い黎に、リュウは思わず拍手を送りたくなる。


『名乗るのが遅れてしまって申し訳ございません。私はリュウ様の忍鳥で医療忍術を司っております、黎と言う者です。お気軽に黎とお呼びください』

黎が全員へと向き直り、浅くお辞儀をする。

『―――それでリュウ様、何か御用があったのでは?』

「…あいつが駄々こねて刀の中に戻らない。連れて帰ってL」

そう言ってとある人物を示す。その指先を目線で追うと、外へ逃げようとしている蓮がいた。


『蓮―――…帰るわよ』

『わ、分かったからそんな目で睨むなっ!L』

黎がその金の瞳を細めて一言そう口にすると、蓮は即座に降参した。だがそれに追い討ちをかけるようにリュウは意地悪く言う。

「ちなみにまたナンパしようとしてた、見境なく」

『!!ばっ…、何言ってるんだっ?!誤解だからな、黎!俺はそんなこと全然…『蓮』

黎はにこりと微笑むが、その笑顔に対して恐怖を抱く蓮とその光景を楽しく見るリュウ。



『あなたのその芯まで腐った脳みそ………啄ばまれたいの?』



鬼畜なことを笑顔で言う。そんな黎に対して全員が呆気に取られ、そして顔を引き攣らせた。

『わ…悪かった…L』

素直に謝る蓮を見送った後、黎はリュウを再び見る。


『―――…少し顔色が優れないようですが…何かございました?熱でもおありなのでは……』

「…いや、大丈夫。それよりあそこの横になってる人の容態見てあげて。そこまで深刻じゃないと思うけど」

一瞬曇った顔を浮かべる相手に微笑んでからカカシを指差す。

『(ぇ、あの方って…確かカカシ様ではないですかっ?……一体どのような経緯で…)』

「(…火影じいに一杯喰わされた…)」

明後日の方向を見て、乾いた笑いを浮かべるリュウになるほど、と苦笑をする。


『―――それでは少し失礼いたします。お手を見せてくれませんか?』

「え…あ、あぁ…」

カカシの元へと歩き、その場で正座をして手を差し出す相手に、カカシは素直に言われた通りにする。

黎はカカシの手に自分の手を重ね合わせ、瞳を伏せた。


『…チャクラ不足と所々の擦り傷、裂傷―――…後は特に問題ありません。このくらいの怪我でしたら数日すれば動けるようになります』

「ご苦労様、黎」

『いえ、とんでもございません。お役に立てて光栄です。

…では、私達はこれで失礼しますが………何かございましたらすぐ私共にお申し付けくださいね?』

「…ありがと」

黎は未だぶつぶつ文句を呟いている蓮の腕を引っぱり、リュウの元へと戻る。

そして刀にそっと手を当てると、再び微弱な風が室内に吹いた。


その風と共にまるで刀に吸い込まれるように二人は姿を消した―――。



「……すっごい人達だったわ…Lねぇリュウ君、あの黎って言う人自分のこと忍鳥って言ってたけど…本当っ?全然そんな風に見えなかったけど…」

「あー…、一応人型として出てきてもらったから。本当は鳥の化身だよ。

蓮は攻撃型で黎は防御型を得意とする忍鳥なんだ。ちなみにあの二人夫婦なんだ」

「狽ヲ、そうなのっ?!(…ちょっとがっかりだわ…L)―――でも羨ましいなぁ、あんな親身になって心配してくれる口寄せ動物がいるなんて」

どこかの書物で口寄せ動物についてのことを読んだのであろうサクラが呟くが、リュウは首を横に振る。

「口寄せとはちょっと違うよ。口寄せ動物は巻物や契約書がないと呼べない。

だけどあの二人は刀の中にある別空間に住んでいるんだ。……心配性っていうのは認めるけどね」

苦笑をするリュウ。



―――昔から蓮も黎も心配性で…、自分のことをよく気にかけてくれていた。


でも“あの日”を境に、必要以上に自分の異変を敏感に察知するようになった。



あの二人は何も悪くないのに。―――…むしろ犠牲者だ。



「………最高のパートナー達だよ」

刀をぎゅっと抱き締める。




自分には勿体ないくらい、






慈悲深く、優しい鳥達―――――。









***“あとがき”という名の言い訳***

蓮・黎のことを少々説明しようと思いまして…。ここで補足というちょっとした知識を。
【鳳凰】とはめでたいことを象徴する鳥で雄を【鳳】、雌を【凰】と称します。
だから【鳳】と【凰】の鍵である蓮と黎は夫婦なんですw

しかし他の者には蓮と黎が【鳳の鍵】・【凰の鍵】というのは伏せています。
ただのシュウさんの忍鳥ということしか火影さえも知りません。

次回、カカシ先生との絡みがちょっとあります。
………というか本当にサスケとの絡みがないですね(つーかあんまり会話にも出てこないL
複数贔屓だとどうしても誰かに偏ってしまう↓↓

…バランスの取れないダメダメ管理人デス…


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あきゅろす。
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