小咄
2009-11-12(木)
定番の怪談(Nさんシリーズ)

「俺達、友達だよな?」
そう言った友人を振り返ると、足を掴まれていたり膝に手が乗っていたりとバリエーション豊かだが、結局は友人を置いて逃げてしまうのが怪談のセオリーだ。
現実にそうなった場合、どうすればいいんだろう。



大学の友人二人とドライブに出掛けた時の事だ。
友人達は前に、俺は一人後部座席に座っていた。
偶々Rの家の近くのカラオケに行った帰り、何故か友人達は怪談を始めた。
あのカラオケ店が出るという噂だったからだろう。
苦笑しつつ聞いていると、足に違和感がある。
何気無く見て、絶句した。
俺の足首を緩く握っている小さな手。
大きさ的に子供だろう。
どうしよう、というか、何だこれは。
今正にこんな感じの話を聞いたばかりだぞ。
だからか、うっかりと口を滑らせた。
「なぁ」
どうした、と助手席の友人が振り返る。
「俺達、友達だよな?」
「何だよいきなり」
さっきの怪談みたいなこと言って、と笑う友人の肩を逃げられないように掴んでやろうか、いやでも残った場合の話なんて聞いたことが無いからな、危ないのかも知れない。
「俺の足を見てくれ」
運転していた友人が車を止め、俺の足元を振り返り、間発入れず飛び出して行った。
助手席の友人も同じだ。
おい、やっぱりか。
このままだと俺は行方不明になるか、気が狂うかしてしまうんじゃなかったか?
大きく溜め息を吐く。
決して余裕なわけではない。
諦めにも等しい何かが胸を占めているのだ。
助けて、とでも言えば良かったのか。
手の力が少し強まった。
嗚呼、泣きそうだ。
不意に車の外で誰かが走ってくる足音が聞こえた。
追撃なら要らんぞ。
骨が外れてしまうのではないかと心配になるような強さで足首を締める手は無視して、外を見た。
それは、首が無いランナーでも兵隊でも髪を振り乱した女でもなく、Rだった。
冬だというのにタンクトップに上着を一枚羽織っただけの状態で全力で駆けてくる。
何だ彼奴は、どうしたんだ?
Rは車の横で止まると、ドアを開けて俺の腕を引いた。
表情からして焦っているのがわかる。
動かない俺に焦れたのか、少し泣きそうな声でRは言った。
「お前もちょっとは努力しろし!」
無いわー、マジ無いわー。
いつもの軽口なのに、其処に込められた感情はいつもとは全く違う。
駄目だと判断したのか、俺から手を離すと拝むように手を合わせて頭を下げた。
「そいつ俺の友達なんです!許してください!」
そのまま土下座でもするんじゃないかと思っていたら、本当にした。
必死に地面に頭を擦り付けて、俺の為に見えない誰かに許しを乞うている。
「お願いします!Nを連れて行かないでください!本当、マジお願いします!今度花持ってきますから!」
泣きそうになった。
気付けば足を掴んでいた手は消えていて、俺はRの肩を叩いた。
「R、離れた」
「…マジで?」
漸く顔を上げたRに、思わず抱きついて涙を堪える。
びっくりした。
色々と、びっくりした。
「…ありがとな」
「…おぉ、まぁ、俺だからねぇ」
二人して泣きながらRの家へと向かう途中、子供の声が聞こえた。

玩具がいいな

Rは「わかった」と呟いて服の袖で涙を拭いながら、俺の腕を掴んだ。
少しだけ、震えていた。




その日の晩、薄情な友人達には一切連絡を入れずRの家に泊まった時の事。
反省すればいい、いや、後悔しろ。
「Rさぁ、何で来たの?」
「ぇ、行かない方が良かった?ww」
「違ぇよ、何で俺が危ないのわかったんだって」
「ぁー…何かね、お告げがあった」
「お告げ?」
「暇だしパソコンいじってたら部屋の隅から気配感じてさぁ、マジ無いわーとか思いつつ見たら白装束な髪の長い仮面の女が立ってて、『東の方角鉄の箱内部友人が拐われる今より走れば間に合うであろう』って言って消えちゃったわけよ」
「…何だそりゃ」
「んで、嫌な予感がしたから行ってみたらお前があんなだったわけじゃん?」
「ぁー…」
「俺の守護霊なんかなー、と」
「…まぁ、とにかく感謝だな」
「まぁ褒めろよww」
「守護霊をな」
「ぇ、俺は?ww」
「知らん」
「ちょww」
…持つべきものは、友達だ。
感謝をしつつも、表には出してやらない。
今更、恥ずかしいだろうが。
まぁ、寝る間際にでも言ってやるかと思いつつ、Rいじりに精を出した。
…ありがとう、R。
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