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「時雨、時雨!!すごいっあたしがこれから住むのってもしかしてここ!?」

「あぁ。ここらじゃ1番でかい所だな。」

「まじで!?」

ドームからドームに移動する為のバスに揺られながら、窓の外に見えた新しいドームに歓喜の声を上げる。



かれこれあたしも今年で15になった。



隣で気怠そうに座っている大男、時雨にこの4年間で音響師としての全てを叩き込まれた。

あたしとしてはこのまま時雨の助手として働いていても良かったんだけど、時雨が他の世界を見るのも良いと言ってあたしが15歳になった日に学校に行くことを決定された。



そして、最近知った事なんだけど時雨は結構名の通った音響師らしい。

その弟子に当たるあたしも知らないうちに知名度が上がっていた。

そのせいか、これから住むドームでも音響師として過ごすみたいだ。

個人的にあたしも時雨も世間から騒がれるのは良い気分ではない。

だからあたしは普通科に入った。

音響師になる為の科もあるらしいけど、あたしはすでにそこで習う事以上の事まで習得している。

学校のカリキュラムを見た時、時雨は「低レベルなお遊びだな。」って言って鼻で笑ってた。

実戦に出ているあたしと卒業間近の学生を比べても力の差はありすぎると思う。

比べられる対象が先生でも同様だろう。





「おい。」

「なにー、時雨ー。」

あたしが返事をするのと同時に車内にアナウンスが流れた。

そろそろ第1ドームに入るのかな。

「時雨、あたしの眼鏡知らない?」

癖毛の赤髪を後ろで纏めながら訊く。

特別目は悪くないむしろ良いけど、変装の為の黒の伊達っぽい眼鏡。

髪を纏めるのも変装の為だったりする。

「そんな事俺が知るか。」

時雨もくたびれたワイシャツの胸ポケットからフレームの細い眼鏡をかける。

これも変装みたいな。

眼鏡って、あるのとないのとじゃあ全然違う。



膝の上に肩掛け鞄を置き、内ポケットを探ると指先に眼鏡が引っ掛かった。

やっと見つけた眼鏡をかけるのと同時にもう1度アナウンスが流れる。

直後、窓の外から空気が歪むような重たい音がした。



「……動いたな。」

眉間に皺を寄せた時雨の呟きに首を傾げる。

何かあったのかと口を開いたら、後ろからでかい衝撃がきた。

そしてバスの動きが止まった。



この衝撃は何度か経験したことがある。



原因は…………音魔だ。



そこまで理解して先ほどの時雨の言葉に納得する。

あの呟きは、多分地中に潜っていた音魔に対してのものだったのだ。



「運転手さん達はまだ気付いてないみたいだけど、どうしますか時雨ししょー。」

「面倒だ。お前が行ってこい。」

「えー……。」

いくら文句を言っても時雨は動く気がまったくないみたいだ。

「運転手には上手く伝えておく。思う存分暴れろ。」

正直言ってずっと座っていたから体が痛くてしょうがなかった。

暴れられるのは嬉しい。



「…………拡声器は?」

「そんな物あるわけないだろう。」

「ですよねー……。」

あまり喉を使いたくなかったから一応訊いてみたけど、やっぱり拡声器なんて言う素敵な物はなかった。

ちょっとがっかり……。



「それじゃあ、行ってきますね師匠。」

窓を押し開けて縁に手を掛けて足を乗せる。



「おい、馬鹿弟子。」

「はい?つか馬鹿じゃないし。」

出ようとしたら声を掛けられ、顔だけを時雨に向けた。



「髪と眼鏡はどうすんだ。」

「……あ。」

時雨に言われて慌てて髪を解き眼鏡を外して今まで座っていたシートに放る。

危ない危ない、変装のまま仕事してたら変装の意味がなくなるわ。



「あ、一応ヘッドフォン……。」

鞄の口から飛び出ているヘッドフォンに手を伸ばす。

「使うな。そんなに手間の掛かる相手じゃねぇ。」

時雨があたしの手をはたき落とした。

「それともお前は第1ドームと言えどドーム内でドームの外にいる雑魚相手にヘッドフォンを使うほど弱いのか、馬鹿弟子。」

なんかムカッとする事をニヤリとした笑みで言われた。



「……じゃあ、まぁ、行ってくるよ?」



「ちょ、お嬢ちゃん!?何してるんだい!まだバスの外には出ない方が……。」

窓から上半身を出したら後ろのシートに座っていたおっちゃんが慌て出した。

「だーいじょーぶ。あたし音響師だから。」

おっちゃんに向かってピースをして、そのまま窓枠を蹴った。






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