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※SCC22、雪勝・ちょっぴり柔勝新刊サンプルです。
正十字学園ではない学園パロディです。ご注意ください。



此処は私立十字学園。東京に立地している進学校である。今現在、俺がいる場所は学校の敷地内に立地している図書館。その図書館には少しばかりだが、個人で時間制限付きでレンタル出来る小さな勉強部屋があった。冷暖房完備で、多少なりの防音加工もされており、テスト期間前や受験前になると、数日前から予約でいっぱいになる学内でも人気のシステムだった。

その日、テスト期間でもない平日の放課後。

学内で一番の友人である奥村雪男が、俺、勝呂竜士をこの勉強部屋で勉強をしないかと誘ってきた。テスト期間ではないので、予約などする人もほとんどなく、図書館自体も閑散としていたので、部屋を借りるのは簡単だったからだろう。

奥村くんと二人でゆっくり勉強が出来ると言うのは、願っても無い嬉しいことだったので、もちろん即座に二つ返事をした。
二人で部屋に入り、暫くの間は黙々と勉強に集中した。
平日と言うこともあり、時間制限も無く閉館時間前まで静かな環境と空調の利いた部屋で勉強が出来ると言うのは、とても嬉しいことだった。
そう、確かに数分前まではそんな風に思っていたのだ。

なのに、今、状況が一変しているのである。
何故だろう?
どうしてだろう?
どうしてこんな事になったのだろう?

思い返してみたところで思い当たる節なんてありはしない。隣で黙々と勉強をしていた奥村くんが、いきなりゆっくりと立ち上がり、俺の背後に回ったのだ。
最初に席を立った時、用を足しにでも行くのか?と思った。そう思った瞬間、ぎゅっと背中から包み込まれた暖かな感触。肩口に摺り寄せられた頬の温もり。ふわりと香る奥村くんの匂い。どれもこれも予期などしていないものだった。

「奥村くん・・どないしたん・・・?」

「うん。あのね・・・」

奥村くんの甘い声が俺の耳元で囁き掛ける。

「すごく、竜士に触れたくなったんだ」

そう、言い忘れていたことが一つ。
奥村くんは学内で一番大事な友人であると同時に、俺の事を恋人にしたいなどと言い続ける稀有な感情の持ち主なのだ。その感情からか、俺の身体に触れたいと望み、電車内で痴漢行為までしてきたこともある。もちろん俺はそんな行為は正直理解しがたく、当然の如く止めてくれと申し出た。

その時好きだと告白され、友人と言う立場で一緒に居たいと思うのであるならば、恋人としての立場でも付き合えるのではないか?試してみないかと?と言われたのが今を遡る事1ヶ月前の話である。

それから日々、男同士の恋人関係など良く分からないけれど、男女間のように登下校を一緒にしたり、休み時間は一緒に過ごしたり、所謂デートと言われるような行動もした。
俺としては普通に友人と遊んでいるような感覚でしかないのだけれど、きっと彼の中ではそれなりの恋人関係が成り立っているのだろう。

そんな彼が、今背後から俺を抱き締めている。

これがもし男女間なのであれば、もちろんドキドキするシチュエーションだろう。女性に後ろから抱き締めれらればドキリとするだろうし、擽ったい感情だって胸に走るだろう。

しかし相手は奥村くんで男だ。ドキドキはするけれど、きっと男女間のそれとは違う。嫌悪感は無いけれど、どうして良いのか分からない。

考えてみればあの痴漢事件以来、奥村くんは俺の身体にはっきりとは触れる事は無くなった。距離感だって、普通の友人となんら変わらない。
だから、今のこの状態に一体どう反応していいのかなんて到底分かるはずもない




*************




五時間目の予鈴が鳴った時、漸く我に返り、階段の下からのそりと出た。とぼとぼと教室までの廊下を、食べられなかったパンを手に歩く。

自分の気持ちの整理が中々つかない。

なんでこんな苦しい気持ちになるのだろう。

おかしい事だと分かっているのに、理不尽で不純な事だと頭では理解しているのに、それを上手に心が受け入れてはくれない。
どうして、どうして・・・。

「勝呂?」

気が付けば、グッと肩を掴まれ、呼び掛けられていた。

「せんせ・・・」

「凄い悲痛な顔してどないしたんや?」

声を掛けてきたのは俺のクラス1年A組の担任、志摩柔造先生。

「なんかあったんか?」

「なんも・・」

「奥村か?」

何もないと告げようとしたのに、やはりこの人は俺の事が良く分かるのだろう。今、正に頭を支配している人物の名をずばり言い当てた。

志摩柔造。彼は俺がこの地に来る前に住んでいた京都で、隣の家に住んでいた幼馴染だった。
数年前から東京で教師になって働いているとは聞いていたが、入学してみればまさかの偶然で俺のクラスの担任だったのだ。

彼は小さい頃から悩みや、困った事などを全て相談してきた実の兄のような存在だった。
だから、初めて奥村くんに告白された日、どうしていいのか分からず柔造に相談したのだ。その時、奥村くんに対しての明確な案は打ち出してもらえなかったのだが、何を思ったのか、「じゃぁ、俺も竜士を恋人扱いする」等とふざけた事を言って、キスをして抱き締められた。

しかしそれ以来特に目立つモーションが見られないため、あの時の行動はちょっときつい冗談だったのだと思う事にした。

「次の時間、授業無いんやけど来るか?」

そう柔造に誘われて、このままどうせ次の時間授業に出たところで何も頭になんて入らないと思い、その誘いのまま国語科準備室へと共に移動した。
因みに柔造は古典の教師である。
準備室に入り、近場にあった椅子を勧められ、腰を下ろすと間もなく柔造に問われた。

「奥村が何かしてきたんか?」

「ちゃう」

「ケンカでもしたんか?」

「ちゃう」

「時間もないし、なんや言えることがあるんやったらぱっと言うてみ?楽になるかも知れへんで?」

小さい頃からずっと接してきたままに、優しい笑顔を浮かべながら柔造は俺の顔を覗きこむ。この包み込むような感じで柔造に微笑まれると、昔からほっとするのだ。
少しの間を開けて、俺はポツリポツリと口を開いた。

「あんな・・・」

「うん」

「奥村くんと・・・恋人の真似事の関係は止めたんや」

「そうか。それで最近あんまり一緒に居らんかったわけか?」

「気が付いてたんや」

「まぁ、竜士の事は昔からのクセなんか勝手に目に入ってくるからな」

そう言って、またにこりと笑う。
何時だって、実の弟のように心配してくれて、何でも分かってくれていた本当に良い兄のような存在は今でも変わらないのかと思うと酷く安心する。

「やっぱり、男同士でそんな恋愛とか俺には理解出来へんって思ってな、無理やから今までのように友達になろうって言うたんや」

「そうなんか」

「せやけどな、奥村くんはもう友達には戻られへんって、側には居られへんって、だから距離を置くことにした」

「うん」

柔造が話の合間合間にちゃんと目を見て相槌を打ってくれると、素直に言葉が溢れてくる。



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とまぁこんな感じです。以上サンプルでした!















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