入学して漸く色々慣れてきた、6月。
梅雨でじめじめしたりはするけれど、夏服になってほんの少しだけ車内の窮屈さがマシになったような気がした。
まぁ気がしただけで、乗っている人口は変わらないのだから、微々たるものなのだろうけれど。
いつもの様に満員電車に揺られ、学校へと向かう。
ガタガタと揺れる車内。
耳に聞こえるのは電車の音と、何処からか漏れているであろう、音楽のシャカシャカと言う響き。
毎朝、毎朝、何の変哲もなく学校までの道のりを進んでいく。
その筈だった。
そう思っていたのだが、不図、自分の尻辺りになんだか妙な違和感を覚えた。
こんな事は言いたくはないのだが、誰かが自分の尻を触っているような気がしたのだ。
そう一瞬思ったが、そんなわけなどあるはずもない。
と、気にせずに目的地までへと静かに揺られる。
触っているように感じたけれど、これだけぎゅうぎゅうの電車の中なのだから、たまたま手が当たっただけかもしれない。
それに、俺は男だ。
しかも結構体格も良く、背も高い。
そんな男の尻を触るだなんて馬鹿げた話などあるわけない。
だから、何も気にせずにいた。
そんな事が、数日続いた。
最初は、きっと当たっているだけだろうと思っていたけれど、こうも同じように続くと流石に違和感を感じざるを得ない。
けれど、男の俺の尻を触って一体なんになると言うのだ?
見た目だって体格はゴツく、顔付きだって目付きが悪く、お世辞にも良いと言えたようなものでもない。
まぁ、もしかしたらこんな車内だ、顔は見た事がないのかも知れないけれど、それにしたって明らかに男だと分かる俺の尻を触って、何が楽しいと言うのか。
ほんの少し撫でるように手が動き、流石にゾクリとしたが、身動きの出来ない車内ではどうしようもない。
女でもあるまいし「痴漢です!」などとそんな恥ずかしいことは言えない。
気持ち悪いのを耐えながらじっとしていると、不意に尻を揉まれて、思わず「ひっ・・・」と小さく声を漏らしてしまった。
思わず口元に手を当てる。
それから手の動きは休まることもなく、俺の尻を揉み始める。
(何するんやっ!気持ち悪いっ!)
どうにかならないものかと思い、少しばかり身を捩るが、こんなギュウギュウ詰めでは何の抵抗にもならなかった。
結局、俺の降りる駅の二つ前、一番人が多く降りる駅までずっと、揉まれたり、撫でられたり、あろう事か割れ目に指を這わされたりし続け、気持ち悪くて、気持ち悪くて、泣きたい気持ちになった。
人の波が動き出した瞬間に後ろを振り返って、犯人はどいつや?!と、捜してみるが一気にたくさんの人が降りてしまうため皆目見当がつかなかった。
(なんやねん!なんでこないな事されなアカンねん!)
その日1日、不快感で気分が優れなかった。
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「え・・・ちょ・・・待って?」
「うん。何?」
「言うてる意味がわからへん」
「どの辺りが?」
「いや、全部・・・」
「勝呂くんが好き」
「いや、・・・・それがわからん」
「えっと・・・・勝呂くんが恋愛対象として好きなんだ」
「え?」
やっぱり奥村くんの言うてる事がちっとも分からへん。
え?俺、耳おかしなった?
「好きって・・・・なに?」
「ずっと一緒に居たいって思うことかな?」
「え、それやったら友達とかでええんちゃうん?」
「駄目だよ。だって僕は勝呂くんに触りたいし、キスしたいし、抱き締めたいし、イチャイチャしたいし、エッチな事だって「わーー!わーーー!わーーーっ!!」」
なんかとんでもないことを言い出したので、慌てて奥村くんの言葉を掻き消した。
「ちょっと待って!ちょっと待って!ちょっと待って!奥村くん何言うてるん?え?俺、男やで?」
「知ってるよ」
「奥村くんとそないに体格とか変わらへんやん!」
「そうだね」
「俺髭生えてるで?」
「うん。可愛い」
「は?」
「勝呂くんは可愛いよ」
そう言って奥村くんはにっこりと笑う。
「え?」
「可愛いし、カッコいいし、素敵だし、魅力的だし、エロいし「だからっ!」」
またしてもとんでもないことを言うので、被せて掻き消す。
「なんでそないな風になるねん!」
「なんでって・・・・・なんでだろうね?」
「なんでだろうねって・・・・」
「僕も考えたんだけど、どうしてこんなに勝呂くんが好きなのか理由なんて分からないんだ」
「え・・・・」
「多分一目惚れ」
「ひとめぼれ・・・」
「理由なんて分からないけど、すごくすごく好きなんだ」
「やから・・・俺は男で・・・」
「僕もね、最初は自分はゲイなのかなって思ったんだ」
「そう・・・なん?」
「でもね、他の男の人なんてちっともそう言う対象には見えなくて。勝呂くんだけが好きなんだ」
「そんなん・・・言われても・・・」
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