澪さんからのリクエストが、急遽変更になり、SQ5月号を受けての柔勝になりました。
って言うか、澪さんの日記からお題奪ってきた形なんですが・・・・(苦笑)
相当鬱入ってる内容になりました。
ヤンデレ柔造×坊です。
ガッツリSQ5月号ネタばれです。
うちのサイトでは初めての暗めの作品かも?
不快感を与える恐れがありますので、ご注意ください。
読んでからの苦情はお受けできません。
ハッキリ言って蝮も坊も可哀想です。
柔造さん最低です。
それを心得た上で、どうぞ。
● 慟 哭 ●
不浄王の一件が終わり、言いたい事はたくさんあるが、ほぼ全ての事に方はついた。
和尚と話をしたい、そう思って旅館内を探し、見つけたと思ったところで子猫丸がバタバタと走ってきて、俺達を呼ぶ。
向かった部屋はやたらと騒々しかった。
中を覗いてみれば、志摩家の人間と宝生家の人間が揃っている。
やいのやいのと何かを叫んで、どうやら揉めている様だ。
良く良く話を聞いてみれば、どうやら、柔造が蝮を嫁にもらうと言う話らしい。
―――――柔造・・・結婚するんか・・・
そう、するりと思考回路に入ってきた言葉。
柔造は優しい顔をして、蝮の顔を覗きこむ。
部屋の奥にいる蝮は、顔を赤らめながら、いつもよりずっと女らしい可愛らしい表情を作っていた。
蝮は称号も剥奪の上、除團になるらしい。
右目も元には戻らない。
そんな蝮を柔造は嫁に取ると言った。
男らしくて立派な決断やと思った。
蝮にとってはこれ以上ないくらいの救いかも知れん。
縁談は上手く纏まり、きっと落ち着けばすぐにでも式を挙げそうな雰囲気だった。
とてもめでたい事。
とても良い事。
そうは分かっているのに、心臓がどくりと疼いた。
その後すぐ、和尚との話になり、なんとも言えない心境が俺の心の中を襲う。
救いだったのは、その場に志摩が現れて、急遽出かけることになったからだ。
俺は何も考えずに、塾生の皆と京都観光へと向かった。
こいつらと居るのは楽しい。
今は何も考えずに、騒ぐ事が出来る。
空が暗くなるまで、俺たちは何もかもを忘れて、ただただ遊ぶことだけに集中した。
夜。
自室に戻り、漸く思考回路が動き出した。
さっきまで騒がしかったのに、急に静かになった空気が俺を惑わせた。
結婚。
それは好き合っている男と女が辿り着く自然な流れ。
昔からずっと一緒に居た柔造と蝮。
もしかしたらずっと好き合っていたのかもしれない。
もしかしたらずっとずっと付き合っていたのかも知れない。
では、何故柔造は春のあの日・・・・俺を好きだと言った?
俺が東京に行く前に、何故、俺を好きだと、恋人になろうと言った。
結婚などしない。
俺が帰ってくるまで待つ。
そう言ったのは柔造ではないか。
あれは、東京行きでナーバスになっている俺を、あの場で宥めるだけのただの口約束だったのだろうか。
では何故、キスをした。
子供を宥めるようなそれだったのだろうか。
そう・・・なのかも知れん。
俺が3年間丸々帰って来ないのを計算に入れて、3年も経てばほとぼりも納まるだろうと言うそんな目論見だったのかもしれない。
けれど言ったからには、少しは俺に気も使わなければと、たまに東京に来たり、連絡を寄越したりで愛を囁く。
俺が不安にならないように。
俺が頑張れるように。
それも柔造の優しさやったんかも知れん。
蝮と結婚。
それは男である柔造が本来あるべき姿。
男の俺と訳の分からん恋人ごっこするんやなしに、真っ当な道や。
そう思うのに、思うのに・・・・・
何故・・・・こんなにも心が痛いのだろう。
俺の気持ちは・・・・どうなのだろう。
柔造の優しさに絆されて、東京に行く前よりもずっとずっと好きになっていたのかも知れない。
けれど、遠距離恋愛だなんてすぐに別れるものではないか。
そう上手く行くケースなんてないのだ。
そう、中学卒業した時に志摩が言っていた気がする。
ならば端から無かった事にすれば良い。
そうすれば、楽ではないか。
あれは全て幻。
少し寂しかった俺が、一瞬だけ見せた夢なのだ。
出なければ、男の俺が、男の柔造と恋仲になることなどありえないのだから。
スーッと大きく息を吸って、はぁぁっ・・・と吐き出す。
もう、何もかも忘れてしまおう。
何もかもなかった事に。
それで、全てが上手く行く。
明日東京に帰る前に柔造に会ったならば、「おめでとう」と、笑顔で告げられるように。
全て、何もなかった事に。
俺の気持ちさえ何もなければ、丸く収まる話なのだから。
何もなかった事に。
何もなかった事に。
けれど、視界がゆらりと歪んで、頬を伝う何かを拭うことは出来なかった。
********************
暫くほとほとと零れる涙を抑えることも出来ず、呆然としていた時、不意に扉をノックする音が聞こえた。
目をグイと腕で拭い、鼻の通らない声で「誰や?」と小さく返事を返す。
「柔造です」
そう声が聞こえて、ぎくりとした。
今正に考えていた人物が扉の向こう側に居る。
落ち着かない心を落ち着かせようと、また深く深呼吸し、ティッシュで鼻を拭い、鏡で目元の赤みを確認し、扉を開けた。
「どないしたんや?」
「ちょっとええですやろか?」
「おん・・・」
そうこくりと頷くと、柔造を部屋へと招き入れた。
ベッドに腰を掛け、立ったままの柔造に目を向ける。
どう話を切り出そうかとも思ったが、ずばり言うしかないと思い口を先に開いた。
先に言ってしまった方がきっと楽になる。
「蝮と結婚・・・するんやてな」
「ああ・・・そのことなんですが・・・」
「おめでとうさん。これでなんや色々安泰やな」
にこりと出来るだけ笑顔を作って、俺はそう言った。
すると柔造はその表情を硬くして、目を細め俺を見やった。
まるで睨むように。
その表情に瞬間ビクリとして、身が竦む。
―――――なんや・・・なんでそないな怖い顔するんや・・・
じっと睨むように見据えられた後、静かに柔造は口を開いた。
「俺が結婚したら、坊は嬉しいんですか?」
「え・・・?」
「俺が結婚したら、坊はめでたい思うんですか?」
「そりゃ・・・そうやろ・・・・」
柔造の言おうとしていることが今一分からなくて、素直に結婚=めでたい事ではないかと伝える。
また暫くの沈黙。
じっと睨むように見詰める視線は変わらない。
一体柔造は何が言いたくてここに来たのだろうか。
「俺が結婚したら、寂しくて嫌や言いはったんは坊とちゃいますんか?」
「それは・・・・」
「俺が結婚したら辛い言いはるのに、めでたいんですか?」
「そんなん・・・・」
「坊は、もう俺の事嫌いになりはりましたんか?」
柔造は何が言いたいのだろうか?
俺にどう答えて欲しいのだろうか?
俺はどう答えれば言いのだろうか?
俺の正直な気持ちを求めているのか?
けれど正直な気持ちを言ったところでどうなると言うのだ?
そんな哀れな感情を曝け出せとでも言うのか?
目の前の大好きな人が、別の人のモノになってしまったと言うのに。
「坊・・・俺はずっと変わらず貴方が好きです」
「は・・・・?」
柔造の言うことが理解できなくて、思わず聞き返す。
「俺は、貴方の事が好きで好きで堪らないのに・・・」
「何言うてん・・・・?」
「坊はもう俺の事をそないな風には思てくれてはりませんのか?」
「何言うてんのや?やって、柔造・・・結婚するんやろ?蝮に惚れとるから結婚するんやろ?」
「惚れては・・・ないですね。情はありますが」
「は・・・?」
「言うたら家族の様な情ですやろか?愛情とも違う、『情』・・・ですかね」
「意味が・・・分からん」
どの言葉も理解出来なくて、じっと柔造を見やると、漸く柔造は表情を崩して俺の足元に座した。
そしてスッと俺の手を取り、両の手の平で挟む様にして撫でると、ちゅっと軽く手の甲に口付けた。
「柔造・・・?」
「俺は坊の為に結婚するんです」
「・・・・意味が分からん。なんで俺の為やねん」
「ずっと、坊のお傍に居って、坊を守るために」
「それと蝮との結婚がどう言う関係があるねん」
「俺もどの道いつかは結婚しなあきませんやろ?志摩家の跡取りとして、子も作らなあかん」
「せやから・・・なんや」
「せやったら何も分からんどこぞの女よりも、何もかも承知してる蝮の方が勝手がええですやろ?」
「なんやねん・・・それ・・・」
柔造が再び立ち上がり、すっと俺の頬を撫でて、上から覗き込むようにして見詰める。
「なんもかんも知っとたら、坊のお傍にずっと居っても何も文句は言えませんやろ?」
「柔造?」
「他の女やったらああだ、こうだ言われる可能性かてある。そんなんに比べたら丁度いい人物やと思いませんか?」
柔造が優しく微笑んで、俺を見詰め続ける。
けれど、ゾクリと背筋が凍るような寒気に襲われるのは、言っている事が何だかまともではないからだ。
「せやし、志摩の血と宝生の血が混ざったら、より強い子供が産まれるかも知れません。そしたら、その子と共に坊をお守りすることが出来る」
指を俺の唇に這わせ、うっとりとした表情を作った。
何かがおかしい?
柔造は何を言っているんだ?
「せやしね、坊」
頤をくいと親指で上げられ、顔を上に向かされる。
「蝮は俺と結婚せぇへんかったら、どっか辺境の地に飛ばされたんかも知れませんのやで?」
「あ・・・・」
「一人で。誰も身内も居らん場所に。今回の責任を取って、一人で罪を背負わなあきませんかったんやで」
「じゅ・・・ぞう?」
ニヤリと薄笑いを浮かべた顔に、心底身が凍る気がした。
「俺と結婚する事によって、アイツの身は守られた。今まで通りこの場所で生活がして行ける。俺と居る事によって、誰もアイツに文句は言わん。せやから、俺がどんな行動取ろうと文句は言えませんのや」
不意に耳元に唇を寄せられ、小さく低く囁く声。
「こんな柔造はお嫌いですか?」
ゾクリと体が震えた。
「俺は坊が産まれた時から、坊をお守りするためだけに此処に居るんです。貴方が愛しくて、愛しくて堪らんのです。せやから貴方の傍に居れるのであれば、他の何を犠牲にしても構わない」
「そんなんっ・・・・」
柔造の言っている言葉の恐怖でフルフルと震える体、それは、すなわち蝮を利用していると言うことではないのか?
俺の傍に居たいため?
そんな事までして俺の傍に居る意味はあるのか?
言葉の意味が悲しくて、眉間に皺を寄せ、柔造を見上げる。
「そんな泣きそうな顔せんとってください。こんなのはお嫌いですか?」
「そんなん・・・間違ってるやろ?そんな事して、まるで蝮を道具みたいにして、そこまで俺の傍に居たいって言われたかて気持ちのええもんとちゃう!」
「せやったら、蝮と結婚せぇへん方がよろしいですか?そしたら、蝮はどうなるんでしょうね?」
「それはっ・・・」
「坊。俺は貴方しかいらんのです。生涯に掛けて、俺が愛すべき人は貴方だけなんです」
「じゅ・・・ぞ・・・」
「せやから、俺の結婚を悲しんでください。そして、俺がまた一緒に居れることを喜んでください」
柔造の指が俺の耳を擽る。
背筋がぞわりぞわりとするのは、目の前で優しく微笑む柔造の姿が怖いから・・・?
「坊は優しいからきっと蝮の事を哀れむでしょう?心配はせんでも大丈夫です。それなりにちゃんと気遣いますから」
「っ・・・間違ってる・・・そんなん、間違ってる・・・」
「そんな事あらしまへんえ?これが一番、皆が傷付かない方法です」
「嘘や・・っ!そんなんっ!!!」
「坊は俺の事が嫌いになってしまいましたか?こんな俺が傍に居るのは嫌ですか?もう、貴方の傍におらへん方がよろしいですか?」
「せやって、そんなん・・・っ!」
「好きですえ、坊。愛してるんです。貴方しか要らないんです」
ぐっと引き寄せられて、抱き締められた。
柔造の温もりと、匂いが一気に体中を満たしていく。
懐かしい香りと、その温もりが俺の気持ちを惑わせる。
俺は・・・・俺は・・・・――――――
―――――身体がこの温もりを手放せないのを知っている―――――
「じゅう・・・ぞっ」
傍に居て欲しい、何時だって傍で俺を見守っていて欲しい。
繋いだ手を離さないで欲しい。
何時だって好きだと言っていて欲しい。
俺だけを見ていて欲しい。
――――俺だって、柔造が好き・・・・。
けれどこんな形、間違っている。
こんな関係を築こうとしているなんてどうかしている。
こんなのおかしい!
こんなのはダメなんや!
こんなのは俺の望んでいる関係ではない!
柔造が抱き締める力を緩め、俺の顔を見詰めると、切なげな顔をした。
「泣かんとってください・・・・」
「やって・・・そんなん・・・」
知らず知らずのうちに、ぽろぽろと流れ落ちる涙。
苦しいのに、間違っていると言うのに、どうしてこんなにも、こんなにも・・・・
―――――愛しさを感じてしまうのだろう・・・・
「坊・・・・竜士様・・・」
小さく名を呼ばれ、柔造の顔が近付いた。
ふわりと合わさる唇。
啄ばむように何度も何度も唇が合わされ、その後、緩やかに口内に舌が入り込んだ。
絡まる舌先、熱く柔らかな感触に身を震わせる。
まるで口内を蹂躙するかのように動く柔造の舌に、思わずぐっと腕を掴んだ。
それを合図に、抱き締められ、息苦しいほどにキスを交わした。
「竜士様、竜士様・・・・俺は貴方を何よりも誰よりも愛しているんです・・・・」
そう俺を抱き締めて何度も呟く柔造に、俺は涙を零す事しか出来なかった。
*****************
という訳で欝なお話でした。
こんな感じでいかがでしょうか?
リクエストじゃないな、お題奪ってきたのでwww
お題提供ありがとうございました!
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